都忘れ

月の出を合図に 船をこぎ出して
今、水面を駆けて 君のもとへと

燃ゆるおもひで 櫓をこげば
ほゝうつ風さへ 心に甘い

明日の朝嫁いで 都へ行く私
今、命をかけて 貴男のそばへ

無駄に過ごした 年月を
今こそつかむと 手を合わせる

あの橋のたもとで 木陰に身を寄せて
今、すべてを捨てて 君は待つのに

はやる心と うらはらに
涙で見送る 母を許せよ

女の幸福は 心を捧げた
恋しいお方の たった一言

世間も親も 何もかも
振り捨て 生きると心に誓う

神よ心あらば 二人の行く先を
せめてそっと照らして 守っておくれ

都忘れの花のように
ひそかに かくれて 生きてゆきたい
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