シクラメンのかほり

真綿(まわた)色したシクラメンほど
清(すが)しいものはない
出逢いの時の君のようです
ためらいがちにかけた言葉に
驚いたようにふりむく君に
季節が頬をそめて
過ぎてゆきました

うす紅色のシクラメンほど
まぶしいものはない
恋する時の君のようです
木(こ)もれ陽(び)あびた君を抱(いだ)けば
淋しささえもおきざりにして
愛がいつのまにか
歩き始めました

疲れを知らない子供のように
時が二人を追い越してゆく
呼び戻すことができるなら
僕は何を惜しむだろう

うす紫のシクラメンほど
淋しいものはない
後ろ姿の君のようです
暮れ惑(まど)う街の別れ道には
シクラメンのかほりむなしくゆれて
季節が知らん顔して
過ぎてゆきました

疲れを知らない子供のように
時が二人を追い越してゆく
呼び戻すことができるなら
僕は何を惜しむだろう
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