浪曲劇場「森の石松」

お人よしだと 笑われようと
馬鹿は死ななきゃ 直らない
森の石松 世渡り下手で
嘘やお世辞は まっぴらごめん
富士の白雪 茶の香り
清水港の いい男

石松「呑みねぇ呑みねえ、寿司を喰いねぇな、寿司を。
江戸っ子だってねぇ」
江戸っ子「神田の生まれよ」
石松「そうだってねえ、お前さん、ばかに詳しいようだから
ちょいと聞くんだけど、次郎長の子分が大勢ある中で、
一番強ぇのは、誰だか知ってるか?」
江戸っ子「そりゃ、知ってらい」
石松「誰が強ぇ?」
江戸っ子「まず何と言っても大政でしょうねえ」
石松「あ、やっぱり…あの野郎、槍使いやがるからねぇ。
二番目は誰だい?」
江戸っ子「小政だね」
石松「あいつは居合い抜きで手が早ぇから。三番目は?」
江戸っ子「大瀬半五郎]
石松「奴は利口だからねぇ。四番目は?」
江戸っ子「増川の仙石衛門」
石松「出てこねぇよ、おい。いやな野郎に会っちゃったなあ…
けどまぁ五番には俺より他はねぇからなぁ…五番目は誰だい?」
江戸っ子「法印大五郎」
石松「六番は?」
江戸っ子「追分の三五郎」
石松「七番は?」
江戸っ子「尾張の大野の鶴吉」
石松「八番は?」
江戸っ子「尾張の桶屋の吉五郎」
石松「九番は?」
江戸っ子「美保の松五郎」
石松「十番は?」
江戸っ子「問屋場の大熊」
石松「この野郎…やいっ、お前あんまり詳しかねぇなぁ、清水一家で
強ぇのを、誰かひとり忘れてやしませんかってんだよ」
江戸っ子「清木一家で強ぇと言やぁ、大政に小紋、大瀬半五郎、
遠州森のい…あっすまねえ、『い』の一番に言わなきゃならねぇ
一番強ぇのを忘れていた、大政だって小牧だってかなわねえ、
遠州森の石松。、これが一番…強ぇにゃ強ぇが、あの野郎は
人間が馬鹿だからねぇ」

義理と人情と 度胸は負けぬ
肩で風きる 東海道
森の石松 女にゃ弱い
おっと涙は まっぴらごめん
わざとつれなく 背を向ける
清水港の いい男
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