風物語

もしも 僕があの日 道に迷わなかったら
栗色の髪の少女とは 出逢わなかっただろう
高原の秋は深く 行きかう人もない
陽だまりの 枯葉の中に 君を見つけた

風が吹いていた 雲が流れた
振り向いた君の 髪が揺れた

透き通るような細い指で 教えてくれた
森の向こうの遙かな空に 浅間が煙ってた
おびえた顔がいつか 微笑に変わって
風とお話していたのと 悪戯そうに言う

初めて出逢ったのに どうして懐かしい
風が吹きよせたのか 小さな愛を

静かな湖の 白いサナトリューム
時の流れに取り残された 魔法のような
雪が消えて 花の春も 通りすぎて
眩しい夏の終わる頃 手紙がとだえた

灯が風に 吹き消されるように
君の居ないベッドに 一輪 かすみ草

残された詩集 そっと開けてみると
生きる きっと生きてみせる……
消えかかる文字で
想い出の小径へ あれから もう一年
あの日のままの景色の中に 君だけが居ない

風が吹いてゆく 君が遠ざかる
風が吹いてゆく 君が遠ざかる
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