長谷川伸原作「瞼の母」より 母恋鴉

親のしうちを 怨(うら)むじゃないが
何の因果(いんが)で 街道やくざ
愚痴(ぐち)は言うまい 男じゃないか……
野暮でござんす 野暮でござんす 番場の旅がらす

軒(のき)のしずくが 頬(ほほ)に落ち
瞼ぬらした それだけよ
ひと目逢いたい 名乗りがしたい
幼なごころの夢ひとつ
醒(さ)めて哀しや エェ…路地の雨

他人(ひと)の妻(つま)でも 子を持つ身なら
通(かよ)う情(なさけ)も 血もあるものを
倅(せがれ)来たかと なぜ呼べぬのか……
罪でござんす 罪でござんす 一夜(ひとよ)の親ごころ

(セリフ)
たとえ草鞋(わらじ)の紐(ひも)が切れたって
親子の縁は切れることが あるもんか
なにが情(なさけ)ねェだ!出直せだ!
呼ばれたって二度と来るもんか!
俺(おい)らのおっ母さんは…
おっ母さんは…この瞼の中に
いつだって いてくれるんだ

なんで今さら 堅気(かたぎ)になれと
叱るつもりか 水熊灯(みずくまあか)り
それを言うなら あの日に帰せ
つろうござんす つろうござんす 雪夜のもどり笠

(セリフ)
泣くんじゃねェけど おっ母さん 逢いてェよ~ッ!
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