何もなかった

村の入り口には紅い花が咲いてる
昔から咲く本当の名前は知らない
今は誰も憶えてなどいないんだ
もう今は誰も知らない

昔 戦があった時 花は一度枯れたけど
今は見渡すかぎり赤い絨毯のように
何もなかったかのように咲いてる
そう何もなかったかのように

人は皆 花の美しさに酔い
かなしい時代は忘れたようだ
父を母を兄を友を失ったあの戦や
最後に全て焼き尽くしたあの光さえも

何もかも綺麗さっぱり 忘れてしまう幸せの中で
みんな暮らしてるこの村では
あの時何も起きなかった そうつまり
何もなかった

村の入り口には小さな石の仏が立ってる
昔からある仏の名前は知らない
今は誰も憶えてなどいないんだ
もう今は誰も知らない

忘れてはいけない事と忘れてもかまわない事の
境目でいつもうろたえている
大切な事ほど忘れ
忘れたい事ほど忘れられない

花の色はいつか移ろう
楽しい時ほど早く過ぎゆく
父を母を兄を友を奪われたあの時
さしのべられた誰かの手の温もりでさえも

何もかも綺麗さっぱり 忘れてしまう幸せの中で
みんな暮らしてるこの村では
あの時何も起きなかった そうつまり
何もなかった

村の入り口には紅い花が咲いてる
昔から咲く本当の名前は知らない
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