1989年 渋滞―故 大屋順平に捧ぐ―

ギターケース抱えて 満員電車
迷惑そうな視線が新聞越しに こっちを見てた
あの頃の俺は 故郷の香り
そこら中まき散らし乍ら それでも夢と暮らしてた 二十歳の秋
札束で人の夢の頬を叩く町で
「昭和」のたどりついた町で うろたえ乍ら
やがて「夢」と「希望」とを 別ける事を覚えて
いつの間にか 大人ぶった顔になった
巡る季節の風景の中で
人だけが少しずつ変わってゆく
車や人だけでなく夢までも
渋滞(ラッシュ)の中で あきらめてるこの町

お前を抱きしめて いつまでもと誓ったあの日
「願い」は「誓い」ではないと気づかず 傷つけていた
夢のかけらを 拾い集めて
いつしか俺は歌ってた 掌の中で
暖めるように 悲しい歌ばかり
札束で人の心さえ買えるこの町で
憎み乍ら好きでたまらない不思議な町で
やがて「愛」と「恋」とを 別ける事を覚えて
どうやら少しばかり 不幸になったようだ
ベルリンの壁が消えたその夜に
この町にある壁にふと気づいた
今よりずっとずっと大きな声で
歌い続けたいと心から思った

歌で世界は変わらないけれど
自分だけは変わらずにいられるから
渋滞の中に心を置き去りにして
からっぽで生きてゆくなんて出来ない

ギターケース抱えて 飛び乗った「ひかり」
疲れた身体をシートに沈めて ふと空を見た
今世紀最后の 金星蝕が
終わったばかり 何事もないように
宝石がひとつ 空に投げてある

ギターケース抱えて
俺は明日も
歌っているだろう
多分何処かで
多分何処かで
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