老優−キャスティング−

若い俳優を軸に
熱気を帯びるセットの
陰で虚ろな視線を投げている
白髪混じりの老優
カチンコの響きだけは 今でも変わらないけど
まぎれないこと彼はあの頃だけ
輝いてた過去の人
銀幕の上に描き続けてた
彼の青春のかけらとともに
涙流して胸おどらせた 人達も見ている
彼の視線の向こうに見えてる
遥かなシルク・スクリーン
遥かなシルク・スクリーン

見学の学生に囲まれて
サインに疲れたポーズで
カメラの前に戻る若いスターに 淋しくほほえむ老優
はなやかすぎた時代は やがてテレビに奪われ
無器用者と頑固な者だけが
ささやかな夢を見てる
撮りたい映画と稼げる映画の
狭間で泣いてる人を見乍ら
どんな役でも演じて見せる 彼はきっと知ってる
影には影の役割がある
それが人生のキャスティング
それが人生のキャスティング

パイプの椅子に体を預けて
少ない台詞の脇役に知る
影のない人はいない 年老いぬ人もいない
砂になるなら砂らしい砂に
それが人生のキャスティング
それが人生のキャスティング
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