高橋 そんななかで12位のレミオロメン「3月9日」って、思いきり具体的な日付がタイトルだから印象的。これ、実は“卒業式”じゃなくて“結婚式”のために作られた曲なんですよね。それを知ってビックリして。卒業式って、大体3月10日前後じゃないですか。だから「3月9日」ってまさにバッチリじゃん!って思っていたのに、卒業式を狙っていたわけじゃないってところがまた凄いなぁって。でもたしかに一見、結婚と卒業って真逆に感じるけど、“新たな旅立ち”ってところではリンクするのかもなぁ。実家からの卒業ってこともあるだろうし。両親への手紙を読むところなんかも、ちょっと卒業式っぽいよね。

水野 あとどっちの式も親のためにやるみたいなところもある(笑)。ただ、「3月9日」のサビの<瞳を閉じれば あなたが まぶたのうらに いることで どれほど強くなれたでしょう あなたにとって私も そうでありたい>ってフレーズを聴くと“結婚”ってテーマは意外だなぁって思うんだよなぁ。なんかこの二人が離れている感じがしませんか? 離れて過ごしているけど、目を閉じると相手のことを思い出して勇気が出る…みたいな捉え方ができるというか。それがなんとなく“卒業”の方に結びつくんですよね。

山本 たしかにちょっと距離がある感じは僕も感じました。だけどそれは“面と向かってない”のもあるのかなぁとも想像して。というのも、結婚式とか披露宴って、二人は向かい合っているんじゃなくて、来場者の方を向いているじゃないですか(笑)。それは卒業式も同じで、壇上から保護者席の方を向いていたりしますよね。だからそういう状況で、隣り合って目を瞑って<あなた>を思っているのかなぁ…って。それはどちらの“式”にも当てはまるなぁと思いましたね。

高橋 あ~、なるほどなぁ。あと、歌詞がホントこう…何気ない日常を歌っているところが素敵やなぁって思うんですよねぇ。洗濯物を干していたら<昼前の空の白い月は なんだかきれいで>…みたいな、ホヤ~ンとしている感じ。なんかそこがねぇ、他の卒業ソングと違うんですよね。さっきの“友情”とか“仲間”みたいなのがないっていうか。

水野 正直、卒業ソングって結構、ファンタジーが背負わされますよね…(笑)。その“友情”とか“仲間”みたいな…。

高橋 あはは、そうね(笑)!

水野 僕、自分の卒業式を思い返してみると、実はそんなに感動してなかったし、高校卒業の時とか「まだ受験あるしな…ここから浪人生活だぜ…」って、むしろ憂鬱な気分だったんですよ。あと、卒業ソングで歌われるような“心を共にした仲間”もできなかった(笑)。でも一方で、いわゆるイケてるグループは「うちの高校すげー最高だったよね!」みたいなことを言い合っていて、彼らにとってはこの卒業ソングのファンタジーは感動できるものなんだろうなぁって。だから卒業であれ結婚であれ、人生の行事に対して多くの人がファンタジーを求めているんだな、感動したいんだな、っていうのは歌を作るときに俯瞰して考えちゃいますね。

高橋 その気持ちわかる、めっちゃわかる。もう私もおんなじ。高校の頃も、わりと冷静なタイプやったから「エンジョイしていた人たち、よかったな」みたいな(笑)。自分は「やっとここから出られる!」と思っていたし、ホンマに<この支配からの卒業>だった。

水野 そうそう(笑)。でも、きっと僕らみたいな人間側の感情を歌う卒業ソングもこれから出てくるんじゃないかな。“リア充”なんて言葉が出てきたってことは、それだけリア充じゃない人間もいるってことだから。それこそ僕は、世の中に対して不満をぶつけたり、「若さってこうだ!」ってことを叫んだりしている歌に対して、高校の時にイケてるグループが「俺らの気持ちを代弁してくれてるよな!」って言い合っている姿を指くわえて眺めていたから。その代弁されている“俺ら”のなかに自分はいなかった。自分の気持ちは何も代弁されてない、っていうのをすごく感じていたんですよ。

高橋 「わー!」って盛り上がったり、青春を謳歌したりっていうのとはまた違う、教室の隅っ子の方ってなると、その声を代弁してくれる歌は、なかなかないよね。でも今、それこそSEKAI NO OWARIなんかは、いろんな曲を聴いてみると、そういう人たちの代弁者としての存在なのかもなって思うんですよ。教室に行きたくないとか、部屋に引きこもっているって人たちの。あとアイドルでも“でんぱ組.inc”みたいな子たちは、生きづらい側の気持ちを歌ってくれているなぁと思うかな。

水野 だからこれからは意外と“友達大事だよね”みたいなメッセージが逆に、反骨心の対象になっていく可能性もあるわけですよね。「いやぁ、俺はそんな高校に別に愛校心とかなかったし」みたいな。

高橋 え、いきものがかりにはそういう「俺、愛校心なかったしぃ」みたいな感情を出してやったぜ!って歌はない(笑)?

水野 いやぁ~…ないような気がする(笑)。多分、世間の目からすると、いきものがかりの楽曲はまさに、みんなが感じたいファンタジーを描いていると思われている部分が多いと思うんですけど。どうだろうな…。

山本 たとえば、まずこのランキングの29位に、いきものがかり「SAKURA」がランクインしているんですけど、この曲は卒業ソングというイメージで作ったんですか?

水野 そうではなかったんですけど、これはデビュー曲で、たまたまデビューと大学の卒業のタイミングが一緒だったんですよ。でもこの曲を作っている頃って、大学の4年生くらいでみんな就活をしていて、「やべぇな俺…」みたいな(笑)。周りに「音楽で食ってこうと思うんだよね」って言うと「マジか!大丈夫か!?」とか心配されて。だから、彼らに胸を張れるような生き方をしたい、みたいな気持ちがあったのはたしかで。それが歌詞にこういうふうに表れているのかなぁ。全然違う道に行くんだけど、自分なりに頑張りますよ…っていうニュアンスがきっと“卒業”ってテーマにうまく繋がっているんだと思いますね。

高橋 そっかそっかぁ…。この歌って<書きかけた 手紙には 「元気でいるよ」と 小さな嘘は 見透かされるね>ってフレーズがあるじゃないですか。そこがね、私はさっきの話にあった“みんなにファンタジーを見せる”みたいな歌詞とは違うなって思ったんですよ。「僕は元気でいるよ」で終わらせないところがリアルだし「頑張れ!」とか「元気出せ!」って言われるよりも、あー、私もそういう気持ちやから間違いじゃないなぁ…って思えるというか、励まされますね。

山本 その<「元気でいるよ」と 小さな嘘>っていうフレーズには、デビュー当時の水野さん自身が感じていた“彼らに胸を張れるような生き方をしたい”けど、実はちょっと不安もある、という本音も込められているのかもしれないですね。そして14位には、またいきものがかりの楽曲で「YELL」もランクインしているじゃないですか。デビュー曲の「SAKURA」を書いたところから何年か経って、きっと心境の変化とかもありましたよね。

水野 「YELL」は合唱コンクールの課題曲として書き下ろしたんですけど、自分のなかで強烈に印象に残っている楽曲でもあるんですよ。まず、前の年がアンジェラさんの「手紙 ~拝啓 十五の君へ~」だったから、すっごいプレッシャーで(笑)。で、前年がバラードの名曲だったから、NHKのスタッフさんが「今回は中学生の明るい感じを出してほしい」っておっしゃったんですね。アップテンポの元気溢れる感じの。だから最初はそれこそさっき言っていた「ファイト!」みたいな曲を一旦、作ったんですよ。でもそしたら、アンジェラさんじゃないけど、15歳の<僕>が心のなかに出てきて「当時のお前がこれを聴いて感動するか?」って、そういう自分ツッコミが出てきちゃって。

山本 なるほど…。

水野 もちろん元気いっぱいな面も中学生にはあるけど、なんかグチャグチャしているところもたくさんあるし、言葉をまだそんなに持ってないから上手く説明は出来ないけれども、大人が思っている以上に苦しんでいるし、大人が思っている以上にいろんなことを理解しているし…。そういう感覚の方が自分のなかに15歳の余韻として残っているから、だったらそっちに近い感情を書いた方が良いだろうと思って、「YELL」を書いたんですよね。

高橋 あと「SAKURA」には<小田急線>という具体ワードがあってすごくいいなと思ったんです。「YELL」の方は固有名詞はあまり出てこないけれど、共感が得やすいとかありますか?

水野 自分の話ばかりで恐縮ですけど、「SAKURA」の<小田急線>も、スタッフさんに「小田急出身だし、何か具体名を出したほうが良いよ」って言われて、入れたんですよ。でも実際に入れてみて思ったのは、意外と京王線に乗っている人も、中央線に乗っている人も、北海道の電車に乗っている人も、自分のところの電車を固有名詞でイメージしてくれるというか。だから具体的なワードが、より抽象的な役割を果すという不思議な現象が起きるということに気づかされたのが「SAKURA」でした。まぁただ、それってなかなかサジ加減が難しいから、「YELL」では使わないようにしましたね。


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