——自分の時間が増えて、"寂しい"と思うことはありますか? |
西野:「今のところ大丈夫かな。大学を卒業しても友だちとは会っているし…。私にとって、友だちと過ごす時間が一番大事なのかもしれないですね」
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——たしかに、その気持ちが反映されたのか、『君って』や『Together』など、友だちに対する曲が多いですね。 |
西野:「『君って』はそうですが、『Together』は実は久しぶりにライブにきてくれるお客さんを思って書いた曲なんですよ。私にとって、ライブにきてくれるお客さんは友だちの関係に似ていると思っているんです。だからこそ、この曲は一見、友だちに向けて書いた曲にも聴こえるのかもしれないですね」 |
——他の曲も、ライブで盛り上がりそうなアップテンポな曲が多いですね。 |
西野:「そうですね。というのも、今回はアルバム全体をライブを意識したものにしたんです」 |
——なにかきっかけがあったんですか? |
西野:「西野カナを表現できるのはなだかんだ言っても"ライブ"なんやなって思ったんです。みんなの中で、西野カナってシングルのイメージが強いと思うんですよね。でも、シングル以外でもアルバムの曲は私のキャラがしっかりあって…。そこを表現できるのはやっぱりライブ。そこを感じてもらうためにも、ライブをもっと楽しみたいし、そのためにはみんなと一つになれる曲が欲しいと思って、ライブを意識した曲を多く収録することにしたんです」 |
——パーティーチューンなのに、しっかりと歌詞に意味が込められているのは西野さんらしいですよね。 |
西野:「そこは"こだわり"です。『Clap Clap!!』なんて、ウチのダメさ加減が出ているし(笑)。忘れ物とか、二度寝とか、友だちに"カナってこうだよね"と言われるフレーズがたくさん詰め込まれているんです(笑)」 |
——あはは(笑)。でも、ちゃんとポジティブな空気に持っていっているところも西野さん流ですよね。 |
西野:「基本的に嫌なことがあったらすごく落ち込むけど、開き直るのも速いんです。"まぁいいや"という性格がすごく出ているんじゃないかな(笑)」 |
——それにしても、前作アルバムからは、様々なジャンルに挑戦していましたよね。 |
西野:「そうですね。でも、いろいろ挑戦した上で、あらためてみんながいての自分だなってひしひしと感じていたんです。アーティストとして求められているからこそ曲をだすことに意味があるし、求められているから自分がここにいるし…。それに、そんなリクエストに答えて、みんなの役に立ちたいと思ったんです」 |
——特に『君って』でリスナーの幅がぐっと広がったと思うんです。実感はありますか? |
西野:「ありますね。ドラマの主題歌にもなったからか、幅広い年齢層の方たちからコメントを頂いたんです。それから書いた曲を思うと、ちょっとだけ大人っぽくなったかなっておもうんです」 |
——どんな風に変わったと思いますか? |
西野:「今までは自分の気持ちをばっとぶつけるだけだったのが、今では問いかけてみたり、相手に言葉をあげようという気持ちで歌っていたりと、少し"優しさ"がでた気がしますね」 |
——なんだか、今までの西野さんが恋愛にもがいている人だとしたら、今は達観して"母性"さえ感じる人になりましたね。 |
西野:「あはは(笑)。それはたぶん、"愛"の答えがなんとなく見つかったからかもしれないですね。私にとって愛の答えとは思いやりや優しさが一番近いと思うんです。家族や友だち、恋人にとって"側に居てくれてありがとう"と感謝できたら、もっともっと愛が溢れるし、いい関係で居られると思うんです」 |
——そう思えると、相手に対しての態度も変わってきますよね。 |
西野:「そうですね。相手のすべてを受け入れるというのを勉強せなあかんなって思っていて(苦笑)。自分が変われば相手も変わる。相手に対して、やさしい気持ちでいたら相手も優しく居られるんじゃないかなって思うんです。詰め寄るよりも、一歩下がったほうがいいなって思えるようになったんですよね」 |
——それってめちゃくちゃ難しくないですか? |
西野:「めっちゃ難しい(笑)! 違う環境で育っている人が同じようには上手くいかんと思うし。それは友だちでも恋人でも一緒。気に入らないことを直してもらおうと思うんではなくて、"受け入れよう"と思うことが大事何やなって思うんです」 |
——そうなると、過去の曲にたいして"もうちょっと寛大に!"って思うことも(笑)? |
西野:「ありますよ(笑)。『もっと・・・』なんて、結構最近の曲ですけど、今思うと"そんなにつめんでも!"って思いますもん(笑)。でも、当時はそれがリアルだったし、今でもそう思うことはあるんです。今、違うのはその気持ちを相手にぶつけることを抑えられるようになったと言うこと。これは成長ですね(笑)」 |
——そうやって考え方が成長していくから、同じ恋愛の曲でもまったく違う曲が生まれるのかもしれないですね。 |
西野:「そうですね。『Esperanza』も、情熱的な気持ちを表現したいなと思い、ラテンサウンドに挑戦したんです。これからもよくばりに表現していきたいですね」 |
——以前、ラブソングは自分の気持ちが消化してから歌詞にすると言っていたと思うんですが、今も変わらないですか? |
西野:「恋愛に関してはそうですね。とはいえ、このアルバムのラブソングが全部私の恋愛経験を再現しているわけではないんですよ。それに、ラブソングを書くからには、いまは聴いてくれる人が"自分の曲や"って思ってもらえることを一番に書いているんです。なので、友だちの恋愛相談を聞きながら恋愛感を勉強したりもしているんですよ(笑)」 |
——恋愛相談をよく受けるんですか? |
西野:「いや、無理やり引き出している感はありますね(笑)。友だちは今、まさに恋愛中だったりするので、話がとても新鮮なんですよ! 私には忘れかけた感覚で…(笑)」 |
——なんだか老婆のような発言ですね(笑)。 |
西野:「あはは(笑)。でも、新鮮な気持ちって、恋愛していないとわからないじゃないですか。なので周りから情報収集して思い出しながら歌詞を書いたりもしています」 |
——そんな意味では、タイトルの『Thank you, Love』は、まさにジャストなタイトルですね(笑)。 |
西野:「そうですね(笑)。今回も"LOVE"をつけたのは、自分の中で伝えたいことが"LOVE"ということにブレがないんですよ。でも、1枚目と2枚目では、その"LOVE"の捉え方が違ったんです。なので、今回も同じテーマでも違うものができる自信があったんですよね。私の"LOVE"に対する成長の過程を感じてもらえると思います」 |
——その愛の違いとはどんなものですか? |
西野:「1枚目の『LOVE』は、愛を探している段階で、2枚目の『to LOVE』はなんとなく"こういうことかな"と思ったことを集めているもの。そして今作がやっと愛とは何かというのが見えたんです。それが言葉にすると優しさ。この1枚で1日の始まりから終わりまでを表現しているんです。あさ、おきて気持ちのいい光を浴びて、最後に眠るときに優しい気持ちで、隣に居る人に"ありがとう"を伝えられたらすごくいいなと思っていて。そんな風に込められた想いが聴いてくれる人に伝わったら嬉しいですね」 |
——ジャケットもとても可愛らしい仕上がりですね。 |
西野:「アルバム全体が暖かい雰囲気なので暖色で仕上げました」 |
——過去2作も、ジャケットのファッションがリリース後ばっちり流行りましたね。 |
西野:「ですごく不安なんです。外に出て歩いてダサいと思われるのがすごく怖いし、ショック。なのでジャケットや人前にでるときは、スタイリストの方とたっぷり打ち合わせして決めているんです」 |
——意外ですね! |
西野:「いやいや、みなさんと一緒ですよ。雑誌を見て研究して。ただ、人よりちょっと早く勉強しなくちゃいけないくらい(笑)。この前なんかちょっと肌寒い日にジャケットを羽織っていったらみんな寒さなんか関係なく薄着で街を闊歩しているんですよ! ジャケットを羽織っている自分が恥ずかしくなっちゃって、すぐにバッグにしまいました(笑)」 |
——あはは、本当に等身大なんですね。さて、歌詞検索サイト「歌ネット」の2010年アーティスト別総合ランキングで2位、楽曲別総合ランキングでは5曲がべスト10にランクインされました。歌詞が支持されたことについて、率直な感想はいかがですか? |
西野:「え!? 率直な感想は、ただ"すごいな"って思いますね(笑)。もともと、自分なんかが書いた文章がみんなにどう感じてもらえるかわからないけど、そこで一番うれしいのが"自分のためにあるような曲"と言われること。共感してもらえるのが嬉しいんですよね」 |
——もともと歌詞や言葉を書くことが好きだったんですか? |
西野:「全然! デビューのタイミングで自分で歌が歌えるなら自分の言葉を発信したいという気持ちから歌詞を書き始めたんです」 |
——本や小説なども好きだったんですか? |
西野:「それも全然(笑)! 今もあまり読まないんですよ(苦笑)。読み出したら言葉が影響されて、小難しいこと歌詞に書きそうだから(笑)。というのは冗談で、歌詞ってその人にしかかけない言葉が大切だと思うんです。なのでこれからも自分から生まれる素直な言葉で書いていきたいですね」 |
——ありがとうございました! では最後に、これから始まるツアーについて教えてください。 |
西野:「今回は久しぶりのツアーになるので、本当に楽しみにしているんです。これまでよりも大きなステージになるので、舞台も衣装も特別なものを考え中です。最後には日本武道館でも予定されているので、ぜひみんなと一緒に楽しみたいですね!」 |
文・吉田可奈 |
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