第114回 2021年「印象に残った五組のアーティスト」
 今年を振り返り、印象に残った五組のアーティストを選出してみた。出来ることなら〇〇〇賞とか命名し、トロフィーを授与したいのだが、予算の関係上、“エア・トロフィー”でご容赦を。ではスタートです!

photo_01です。 2021年11月17日配信
Vaundy「踊り子」

まずは新人賞じゃないけど、これは確実にモノが違うなと思ったのが、Vaundyの「踊り子」だ。若いアーティストが出てくると「恐るべき新たな才能が…」みたいに言われるけど、そもそも才能というのは結果を出してこそなんぼのものなのだ。それを維持したければ、パッと聴いて「良い!」と判断できる楽曲を作り続けるしかない。Vaundyにはその可能性を感じる。

この若さで聴き手が感情移入するスペースをちゃんと用意しつつ全体をアンサンブルしてみせている。なので「踊り子」は、受け手の想いがどんどん投影されていく。途中のはっとさせる展開もいい。ぎょっとさせてはやりすぎ。音楽として真っ当な範疇のなかで、はっとさせる曲作りだ。ボーカルは呟くような歌い方だが、どんなシャウトより深く届く。そんな作品だ。

photo_01です。 2020年10月30日配信
藤井風「青春病」

昨年から今年にかけて大活躍したといえば、藤井風が筆頭だろう。この人の作品には「ノリの良さ」と「意味の深さ」が共存する。おまけに音楽的バックグラウンドも確かであり、声も、彼の存在そのものも、実に魅力的だ。

で、たとえば「青春病」。歌詞のなかで自問自答をしていくうち、刀鍛冶さんが焼きと冷ましを繰り返し刀を仕上げるかのように自分のココロが鍛えられていくという、他にはない世界観を伝えている。

他にも注目作はいっぱいだが、当コラムでは「きらり」を取り上げた。なので繰り返しになるが、さらり、きらり、ほろり、ゆらりみたいな韻を意識しつつ、歌の意味深さを併せ持つのは前述した彼の特徴そのものだ。

[何のために戦おうとも動機は愛がいい]。この名フレーズには、いまもヤラれっぱなし。2022年は、今よりもっともっと“スター”になっている筈だ。

photo_01です。 2021年5月10日配信
YOASOBI「もう少しだけ」

昨年の紅白歌合戦で「夜に駆ける」をパフォーマンスし、ネットの知名度をお茶の間(地上波の視聴者層)へも繋げた、YOASOBI。真価が問われたのが2021年だったが、高水準の楽曲を連発した。

彼らの場合は小説の原作にした曲作りではあるが、Ayaseという作曲家の懐の深さを思い知った一年だった。彼のことはボカロ出身と紹介されるが、要は機材を高度に駆使し、作曲のみならずアレンジもこなすヒトのことだ。さらに彼はバンド経験も豊富らしく、宅録派にありがちな“井の中の蛙”になることもなく、いざという時は気持ちよく突破していけるのだろう。

フジテレビ系『めざましテレビ』のテーマ・ソング「もう少しだけ」は、多忙な朝に心がほっこりする余裕を与えてくれる総合ビタミン系楽曲として記憶に残った。

ikuraの歌には涼やかなスピード感があったが、もう一曲、「大正浪漫」では油絵具の深みも感じさせていた。なのでこの作品にも、個人的に一票を投じたい。

photo_01です。 2021年2月14日配信
Ado「ギラギラ」

Adoといえば、もちろん「うっせぇわ」だけど、社会現象を生むほどのインパクトとなった。近年、こういうJ-POPは登場しなかったし偉いと思う。サビにつられてフルで聴くと、現代社会におけるストレス解消楽曲として非常に優れたものであることも分かった。

「ギラギラ」も素晴らしい。[正直言って私の顔は][神様が左手で描いたみたい]のところは特に新鮮な表現である。身体的な特徴を揶揄することは憚れる世の中だが、この場合、主人公が自分自身のことを言っているので問題ナシである。

作詞・作曲の「てにをは」というペンネームの方は、小説家としても活躍しているそうだ。なるほどこの歌は、全体が練られたプロットになっている。“神様が左手”に関しても、伏線がちゃんと回収される。歌のラスト・フレーズは[ギラついてこう]。この場合の“ギラつく”とは、ココロを保護コーティングしてタフに頑張りましょう、みたいな意味だと受け取った。

photo_01です。 2021年8月30日配信
桑田佳祐「Soulコブラツイスト~魂の悶絶」

さて、5人目。最後です。トリを務めていただくのは桑田佳祐。不思議なことに、このヒトは豊富なキャリアがあるのに常に身軽である。人間、齢を重ねると過去の栄光に縋りたくもなるけど、それがないから身軽なのだろう。さきほどVaundyのところでも書いたが、才能とは結果を出していくことなのであり、まさに永きに渡り、その意味で“才能”を持ち続けているのが桑田そのヒトなのである。


ユニクロのCFに本人も登場した「Soulコブラツイスト~魂の悶絶」は、「歌謡曲」という名の日本のポップ・ミュージックが、最も輝いていた60年代から70年代へのオマージュである。ちなみに当時の音楽スタイルは、現在より手がかかったものだった。ホーンやストリングスもふくめたフル・バンドをバックに、人気歌手が歌唱するのが普通だったのだ(今もNHKの歌番組では踏襲されているが…)。

そのあたりの背景も、「Soulコブラツイスト~魂の悶絶」のMVには描かれている。桑田はロック・ミュージシャンというより、「歌手」の佇まいでそこに居る。でも、これこそがポイントだ。

2020年に、日本の歌謡曲の黄金時代を支えた作・編曲家の筒美京平が亡くなった。この方の残したヒット曲はきら星のごとくだが、特に桑田が影響されたのは、同郷の先輩でもある尾崎紀世彦の「また逢う日まで」だった。作品そのものに似たところはないが、音楽に対する姿勢ということでは、この往年のヒット曲と桑田の新曲は似ていた。桑田ならではの筒美に対する追悼の形が「Soulコブラツイスト~魂の悶絶」と言えただろう。

歌詞の部分でも“あの頃”が意識されている。まさに歌詞らしい歌詞というか、例えば[小舟のような月]、[心は土砂降り雨ん中]といったセンチメンタルな表現も、実に冴えている。楽曲タイトルの“コブラツイスト”が、いったいどこに出てくるかと注目してみたが、なかなか出てこない。しかし最後に、当日の空の色を形容する言葉に掛かっていることが明かされる。このあたりも実に粋な計らいなのだった。

2022年、J-POPがさらなる発展を遂げることを願いつつ、今月はこの辺りで…。
小貫信昭の名曲!言葉の魔法 Back Number
近況報告 小貫 信昭  (おぬきのぶあき)

11月上旬のことだが、NHKの『ニッポン印象派 銀杏並木』という番組が印象に残った。東京の人間にはお馴染みの、神宮外苑のいちょう並木にスポットをあて、四季それぞれの景色を高感度カメラで収めた番組だ。ハイライトは黄金に色づく晩秋だが、淡い緑の春や、強い日差しが陰を生みだす夏の外苑の美しさにも気づかされた。そもそも、なぜこの並木はこれほど見事なのか? 歴史を繙けば、円錐形の木々が綺麗に整列するよう、労苦を惜しまず管理した人達がいたのだった。何気なく眺めていた風景の、見方が変わったのだった。