2024年1月7日配信
さてみなさま、クリーピーナッツを二回連続で取り上げる今回だが、やはり改めて、世界的なヒットとなっている「Bling-Bang-Bang-Born」のことを書くことにした。
というのも、あくまで彼らのファンというより彼らを“知りかけている”人達向けの積もりだし、これほど入門に適した楽曲もないと思ったからだ(入門、というのは、前回もちらりと書いたが、僕自身もそのなかに含まれるのである)。
さて、「Bling-Bang-Bang-Born」というタイトルだが、この言葉を眺めて、みなさまどんなことイメージしただろうか。僕の場合、“エネルギー蓄えるため縮めたバネが、左右に若干方向を変えつつ、勢いよく延びてく”光景が浮かんだ。ではさっそく本題へ。
楽曲タイトルを解体してるとこが素晴らしい
巧みだなぁと思ったのは、連結させるとバネのように弾むこれらの言葉を、あえて解体してみせる部分があることなのだ。
そう、[俺のままblingしてbangする為]に[bornして来たニッポン]のとこである。
ま、タイトルの場合は“Bang”を二度繰り返してリズムのタメを作っているわけだが。こうやって解体してもらうと、それぞれの単語の意味が際だっていくのだ。
まずは“bling”(楽曲タイトルのBは大文字だが、ここでは小文字)。この言葉の意味は、スタンダードに捉えるなら“輝く”ってことだろう。でもあとで触れるが、“俺のまま輝く”というのが重要なポイントである。
続く“bang”だけど、この言葉もスタンダードに捉えるなら“歓喜する”みたいなこと。このふたつは脚韻を踏んでいつつ、似た意味の言葉の連続による強調表現とも受け取れるだろう。
最後の“born“は、そのまま“生まれた”ってことでいいのではなかろうか。“ニッポン”という言葉も続くし。
このように、“Bling-Bang-Bang-Born”という語呂合わせのタイトルが、曲中でちゃんと種明かしされているのが素敵だ。そして、この言葉が伝えたいメッセージ、それは、ムリはしない自己啓発だ。このことに関しても、のちほど書くことにする。
興味を持ったのは、歌詞が先かタイトルが先か、という、タマゴとニワトリ問題だ。もし“Bling-Bang-Bang-Born”がフリースタイルでラップをしている時とかに思い浮かんだ言葉だとして、あとから考えたら意味もちゃんと授かっていた、みたいなことならば、これぞ音楽におけるマジックだろう。
でも、もはやこの楽曲のようなレベルになると、かつてラップの重要ポイントといわれたライムとフロウみたいなことを、いまさら注目しなくてもいい段階だと痛感する。それらは楽曲のなかに、ごく自然な形で活かされているのだ。
世界的ヒットになった要因とは
「Bling-Bang-Bang-Born」には英語圏の人に対してもフックとなる単語が含まれてるが、とはいえなぜ、世界的な拡がりとなったのだろうか。やはりそれは、DJ松永のトラックメイカーとしての才能あってのことだろう。歌詞から離れるが、これは書きたい。
この作品、盛り上がれること間違いないけれど、それだけではない。曲調は、実に人情味に溢れている。ヒップホップ独自の俊敏性を備えつつ、美メロが“ストップかけない限り店員から注がれる皿に溢れるイクラのように”てんこ盛り状態でもある。
初めて聴いた時から知ってたような、心の奥に仕舞っていた郷愁を引っ張り出してくれるかのような、そんな雰囲気も備えている。
それが人体に与える影響を解説するなら、腰のあたりは激しくビートに反応しつつ、胸の辺りは深く深くキュンとする、みたいなことだろう。
国境を越え多くの支持を得たのは、民族を超え響く、ヒューマンビーイングの共通因子のようなものを備えるからだと思う。でも実際、この作品にはトライバル(民族調)な雰囲気もある。
東欧あたりの舞曲を想わせたりもする。小学校の頃、嬉し恥ずかしあの子と手を繋いだフォークダンスみたいな感覚すらある。
この楽曲の最大のキラーワード、それは「生身」
ここからはまとめというか、改めて、この楽曲の最大のメッセージを読み説いていこう。注目すべきはこの言葉、そう、“生身”である。
歌詞のなかには[It’s 生身]とか[生身のまま行けるとこまで]というふうに出てくる。
でも、その対義的な表現と思われるのが、[この身体tattoo] [このツラに傷]のあたりである。ひとつの楽曲のなかに、これらも並んでいるからこそ、“生身”という言葉がより生々しく感じられる。
つまり、表面的に相手を威嚇する、とかって要素ではなく、やはり大事なのは、ありのままの自分、クドいようだけど、“生身”の自分ということなのだ。等身大という言葉もあるけど、さらに虚飾を取り払ったのがこの表現だ。
作詞者であるR-指定の、日本語に対する愛情も感じてしまう。過去に頻繁に使われ、手垢がつきまくり、最近はあまり若者言葉として響かない単語でも、彼はぴかぴかに磨き直して提出してみせるのだ。
それは尊い作業だ。ましてはヴァーチャル全盛で、プライベートとパブリックの境界線が曖昧な世の中だからこそ、この言葉のリアリズムもあるわけだし、そこに彼は気づいているのだろう。
というのも、あくまで彼らのファンというより彼らを“知りかけている”人達向けの積もりだし、これほど入門に適した楽曲もないと思ったからだ(入門、というのは、前回もちらりと書いたが、僕自身もそのなかに含まれるのである)。
さて、「Bling-Bang-Bang-Born」というタイトルだが、この言葉を眺めて、みなさまどんなことイメージしただろうか。僕の場合、“エネルギー蓄えるため縮めたバネが、左右に若干方向を変えつつ、勢いよく延びてく”光景が浮かんだ。ではさっそく本題へ。
楽曲タイトルを解体してるとこが素晴らしい
巧みだなぁと思ったのは、連結させるとバネのように弾むこれらの言葉を、あえて解体してみせる部分があることなのだ。
そう、[俺のままblingしてbangする為]に[bornして来たニッポン]のとこである。
ま、タイトルの場合は“Bang”を二度繰り返してリズムのタメを作っているわけだが。こうやって解体してもらうと、それぞれの単語の意味が際だっていくのだ。
まずは“bling”(楽曲タイトルのBは大文字だが、ここでは小文字)。この言葉の意味は、スタンダードに捉えるなら“輝く”ってことだろう。でもあとで触れるが、“俺のまま輝く”というのが重要なポイントである。
続く“bang”だけど、この言葉もスタンダードに捉えるなら“歓喜する”みたいなこと。このふたつは脚韻を踏んでいつつ、似た意味の言葉の連続による強調表現とも受け取れるだろう。
最後の“born“は、そのまま“生まれた”ってことでいいのではなかろうか。“ニッポン”という言葉も続くし。
このように、“Bling-Bang-Bang-Born”という語呂合わせのタイトルが、曲中でちゃんと種明かしされているのが素敵だ。そして、この言葉が伝えたいメッセージ、それは、ムリはしない自己啓発だ。このことに関しても、のちほど書くことにする。
興味を持ったのは、歌詞が先かタイトルが先か、という、タマゴとニワトリ問題だ。もし“Bling-Bang-Bang-Born”がフリースタイルでラップをしている時とかに思い浮かんだ言葉だとして、あとから考えたら意味もちゃんと授かっていた、みたいなことならば、これぞ音楽におけるマジックだろう。
でも、もはやこの楽曲のようなレベルになると、かつてラップの重要ポイントといわれたライムとフロウみたいなことを、いまさら注目しなくてもいい段階だと痛感する。それらは楽曲のなかに、ごく自然な形で活かされているのだ。
世界的ヒットになった要因とは
「Bling-Bang-Bang-Born」には英語圏の人に対してもフックとなる単語が含まれてるが、とはいえなぜ、世界的な拡がりとなったのだろうか。やはりそれは、DJ松永のトラックメイカーとしての才能あってのことだろう。歌詞から離れるが、これは書きたい。
この作品、盛り上がれること間違いないけれど、それだけではない。曲調は、実に人情味に溢れている。ヒップホップ独自の俊敏性を備えつつ、美メロが“ストップかけない限り店員から注がれる皿に溢れるイクラのように”てんこ盛り状態でもある。
初めて聴いた時から知ってたような、心の奥に仕舞っていた郷愁を引っ張り出してくれるかのような、そんな雰囲気も備えている。
それが人体に与える影響を解説するなら、腰のあたりは激しくビートに反応しつつ、胸の辺りは深く深くキュンとする、みたいなことだろう。
国境を越え多くの支持を得たのは、民族を超え響く、ヒューマンビーイングの共通因子のようなものを備えるからだと思う。でも実際、この作品にはトライバル(民族調)な雰囲気もある。
東欧あたりの舞曲を想わせたりもする。小学校の頃、嬉し恥ずかしあの子と手を繋いだフォークダンスみたいな感覚すらある。
この楽曲の最大のキラーワード、それは「生身」
ここからはまとめというか、改めて、この楽曲の最大のメッセージを読み説いていこう。注目すべきはこの言葉、そう、“生身”である。
歌詞のなかには[It’s 生身]とか[生身のまま行けるとこまで]というふうに出てくる。
でも、その対義的な表現と思われるのが、[この身体tattoo] [このツラに傷]のあたりである。ひとつの楽曲のなかに、これらも並んでいるからこそ、“生身”という言葉がより生々しく感じられる。
つまり、表面的に相手を威嚇する、とかって要素ではなく、やはり大事なのは、ありのままの自分、クドいようだけど、“生身”の自分ということなのだ。等身大という言葉もあるけど、さらに虚飾を取り払ったのがこの表現だ。
作詞者であるR-指定の、日本語に対する愛情も感じてしまう。過去に頻繁に使われ、手垢がつきまくり、最近はあまり若者言葉として響かない単語でも、彼はぴかぴかに磨き直して提出してみせるのだ。
それは尊い作業だ。ましてはヴァーチャル全盛で、プライベートとパブリックの境界線が曖昧な世の中だからこそ、この言葉のリアリズムもあるわけだし、そこに彼は気づいているのだろう。
小貫信昭の名曲!言葉の魔法 Back Number
近況報告 小貫 信昭
(おぬきのぶあき)
2024年8月21日に『いわゆるサザンについて』(水鈴社)という本を出します。バンドの誕生から国民的アーティストになるまで、そして、無期限活動休止を経て現在に至る軌跡を綴ったものです。名曲誕生の瞬間、これまで明かされてこなかったエピソード…。ぜひぜひお読みください。今回は宣伝でしたー。
2024年8月21日に『いわゆるサザンについて』(水鈴社)という本を出します。バンドの誕生から国民的アーティストになるまで、そして、無期限活動休止を経て現在に至る軌跡を綴ったものです。名曲誕生の瞬間、これまで明かされてこなかったエピソード…。ぜひぜひお読みください。今回は宣伝でしたー。