第148回 「ネオ昭和歌謡」
photo_01です。 2024年9月4日発売
SHOW-WA『君の王子様』

 いつもとはちょっと違う書き出しをお許しください。実は自分の高齢の母親に、最近、「推し」が出来たという連絡が、この夏、家族からきたのだった。

ほー、「推し」かぁと思いつつ、それはSHOW-WAというグループで、曲は「君の王子様」であり、母親はさっそく、CDをゲットしたというのだから驚いた。でも、こういうトキメキを今も忘れないなら、もっと長生きしてくれるだろうな、とも…。

こんなことは滅多にないぞ。どういう人達なんだ? 携帯を操ると、10秒で判明。彼らは秋元康さんプロデュースによる、「昭和歌謡・昭和ポップスを現代に」というコンセプトの6人組だった。

そうか、昭和歌謡か…。どうりで母親に響いたわけである。さっそく聴いてみたが、確かにそんなエッセンスが、ぎゅっと詰まった楽曲なのだった。

60年代のナベプロ全盛期の和製ポップスの感覚もあるし、ムードコーラス的なところもある。メロディの切なさ・覚えやすさは、70年代の旅情フォークのようでもあった。

ミュージック・ビデオが最高に凝っている。かつて爆発的な人気を誇った歌番組『夜のヒットスタジオ』を模したスタジオ・セットのなか、彼らは歌っていた。

この番組、後方ひな壇に、他の出演歌手が座っているのが特色でもあったが、そこにはちゃんと、それ役のエキストラが控えている。ディテイル疎かにしてない演出もウケた。というわけで、ここからは、もちろん本コラムらしく、歌詞の世界観を!

恋のライバルの存在を、独特な視線から描く

 歌詞はもちろん秋元康さんであり、覚え易く歌い易く、さらにプラスして、設定もエッジが効いている。三角関係の歌であり、歌の主人公は、好きな相手に迫るのだ。自分かライバルか、どっちを選ぶのか、さぁ、決めてくれ。

好きな相手の人物像は、具体的には描かれない。しかし彼女は、現状、決めかねている。迷っていて、だから主人公は、あの手この手の話術など駆使し、自分になびいてくれと必死である。

竹内まりや作の「けんかをやめて」の逆シチュエーションとも解釈出来ないことはない。ただ、あの歌のように、男の子同士がひとりの女の子を巡って喧嘩するわけではない。恋人候補がふたりというのは同じだが“直接対決”には至ってないのだ。

ここで勘のいい方はお気づきだろう。歌のタイトルこそ「君の王子様」だが、まだその王冠を被る人間は、未確定なのである。

“王子様候補”の独特な言語感覚とは

 さっき、あの手この手といったが、“王子様候補”のこの主人公の言語感覚は、なかなかに特徴的だ。

まず相手に対して、[両方 追いかけて]も[孤独になるだけ]と、“二兎追うものは一兎をも得ず”の諺みたいな警鐘を鳴らしている。

[ここから先の道][二つに分かれ]のところとかは、一瞬、オフコースの「愛を止めないで」的な雰囲気を醸し出している。

さらに、自分とライバルが、[知り合ったその順番]も問題視。しかしそんなものに意味はないと断言する。ということは、かつての「ねるとん紅鯨団」における“ちょっと待ったコール”組だということだ(告白の順番としては、ライバルの後塵を拝したと推測される)。

愛というのは[目利きたちに選ばれる]宝石のようなものなんだというくだりもあって、これはずばり、自分は目利きなんだぜという自信の現れだ。

[僕を選んでくれてありがとう]というのも出てくる。え、もう選んだの? 勘違いするが、もちろんまだ選ばれてない。フライングぎみの呟きだ。

ただ、なんとなく、なんとなーくだが、どうやら好きな相手は、主人公に押し切られそうな情勢が伝わってくるのである。

とりあえず相手に想いが通じたあとの、そう、「王子様の初デート(仮)」みたいな第二弾も期待しよう。
ネットで「ネオ昭和歌謡」と検索したら…。

photo_01です。 2024年9月9日配信
ザ・ブラックキャンディーズ『青いたそがれの御堂筋』

 他にもこうしたムーブメントはないものかとネット検索したところ、すぐに版田マリンさんというアーティストが出てきた。

この方の紹介としては、「SNSの総フォロワー数約30万人で、昭和のカルチャーを発信しているZ世代の“ネオ昭和”アーティスト」とある。彼女を中心としたネオ昭和歌謡プロジェクトの名前が“ザ・ブラックキャンディーズ”で、令和6年の今年を、このプロジェクトでは昭和99とカウントし、さきごろ「青いたそがれの御堂筋」というセカンド・シングルをリリースしたのだそうだ。

ネットの情報をそのまま紹介してしまい恐縮だが、ある年代の人間が「青いたそがれの御堂筋」というタイトルをみて、まっさきに連想するのは、欧陽菲菲の「雨の御堂筋」ではなかろうか。

ただ、坂本スミ子に「たそがれの御堂筋」という作品もある。こっちのほうが有力か。しかし聴いてみたら、前記2作品と「青いたそがれの御堂筋」との間には、さほど関連はなかったのである。

この“ザ・ブラックキャンディーズ”の「青いたそがれの御堂筋」は、実に凝った歌詞だった。70年代以降の歌謡曲の名タイトルを、織り交ぜながら作詞されていた。とある1行を抜き出すなら、[グッバイ・マイ・ラブ 雨の御堂筋]とある。ちゃんと「雨の御堂筋」も出てきていたのである。「グッバイ・マイ・ラブ」も、アン・ルイスの大ヒット曲だ。

聴いていて、様々な曲名が出てくるたびに、色々な想いがフラッシュバックする、不思議な曲でもあった。でも、かつてを知らない人達にとっては、キャッチィなフレーズが連結していく、リズミカルなポップ・ソングとして聴けるはずだ。ぜひご一聴を。
小貫信昭の名曲!言葉の魔法 Back Number
近況報告 小貫 信昭  (おぬきのぶあき)

おかげさまで多くの方々にお読みいただいている『いわゆる「サザン」について』(水鈴社・刊)ですが、ここ最近は、そのプロモーションで取材を受けたりラジオにゲスト出演したりしてました。特に桑田さんご自身が秋休みということで、代行DJ住吉美紀さんとともに『桑田佳祐のやさしい夜遊び』にゲスト出演できたのは一生の思い出となりました! さらに、ふだんはインタビューする側である自分が、インタビューしていただく側になったことで、いろいろ勉強にもなったのでした。今後に活かします。