サザンオールスターズの約10年ぶり通算16作目のアルバム『THANK YOU SO MUCH』リリースが、もう間近の3月19日に迫っている。
ということで、今回はこのアルバムからすでに1月1日に先行配信シングルとして我々のもとに届いた「桜、ひらり」を取り上げることにしたい。もちろん桜、春の歌。ここからがまさに本作品の“聴き頃”でもあるからだ。
ちなみに私、たまに出掛ける近所の洋菓子屋さんの辺りに桜並木があるのだが、ふと想った。桜というのは、「落葉樹だからいいんじゃないか?」。
年間を通して葉を保ち、そこに花がつくのだとしたら、あんなドラマチックではない。冬の間は地味な存在で、まるで辺りは墨絵の世界のようなのに、春になると誰かが号令をかけたかのように、沿道に巨大な薄紅色の空間が出現し、輝き出す。そう。だからいいのだ。
ということで、今回はこのアルバムからすでに1月1日に先行配信シングルとして我々のもとに届いた「桜、ひらり」を取り上げることにしたい。もちろん桜、春の歌。ここからがまさに本作品の“聴き頃”でもあるからだ。
ちなみに私、たまに出掛ける近所の洋菓子屋さんの辺りに桜並木があるのだが、ふと想った。桜というのは、「落葉樹だからいいんじゃないか?」。
年間を通して葉を保ち、そこに花がつくのだとしたら、あんなドラマチックではない。冬の間は地味な存在で、まるで辺りは墨絵の世界のようなのに、春になると誰かが号令をかけたかのように、沿道に巨大な薄紅色の空間が出現し、輝き出す。そう。だからいいのだ。


サザンの新曲。花びらとオノマトペ
さて、「桜、ひらり」である。まずこの歌で印象的なのは、目の前に咲く桜の木と、その花びらの様子を、オノマトペで印象的に表現するところだ。そもそも曲のタイトルからして、ずばり、そうなのだ。
[ひらり]
ということは、満開の時期を経て、散り始めの歌ということなのだろうか。でも、ここで昨年の春のこと(洋菓子屋さんの辺りの桜並木)を思い出してみた。
たとえ満開であっても、よく観察すると、ごく数枚であるなら、花びらが散ってないこともないのが、あの樹木の開花時の特色でもある。[ひらり]をタイミングよく手のひらでキャッチしたなら、幸せな気分になる。パーカーのフードに紛れ込んでいても、またしかり。
なので僕は、この歌の[ひらり]を、そんなふうに捉えている。歌全体としては、生きていく上での障壁も含め歌っていて、しかしその先に希望があるということも忘れず伝えているが、こと歌のなかのオノマトペに着眼するなら、そんな解釈なのである。
ではもうひとつ、[ゆらり]のほうはどうなのだろうか
「桜、ひらり」には[ゆらり]も出てくる。[ひらり]と[ゆらり]。つくづく日本語は、ニュアンス豊かだと思う。言語というのは、その民族の感性とともに育まれていくものだろうし、この二つが本作のなかで別々の意味を持っていることに、ぜひ注目したい。
まず言えるのは、[ひらり]のほうは目の前で展開されている事象を表現したものであるのに対し、[ゆらり]はどうやら、心象を表現したものでありそうだ。ここで出てくる他の表現は[忘れえぬ面影]であり、つまりそれは、記憶のなかに揺れているものなのだ。
[ひらり]が事象で[ゆらり]は心象という解釈は、こうも発展できるだろう。[ひらり]は「今現在」であって、[ゆらり]は「過去」なのだと。こう解釈してみると、この歌の奥行き、聴き終えた後の余韻の豊かさというものの正体が、判った気にならないだろうか?
なお、歌詞カード上ではこうした表記ではあるが、実際の聴感は違う。桑田さんは意図的なビブラートを加えつつ、実にニュアンス豊かに歌うのである。特に[ひらり]には、そのことで浮力を与えている。
[柳暗花明]という四文字熟語
「桜、ひらり」には、歌詞にまつわる当コラムとして、どうしてもスルーできないワードが出てくるのである。[柳暗花明]である。
学が細い僕は、この言葉を知らなかった。さっそく辞書を引いてみた。ちょっと話は逸れるが、辞書を引く際は、ぜひネットではなく、書籍の辞書を使ってみることをお薦めしたい。辞書というのはある程度の重量があるから筋トレになるし、また、ネットに較べて手間は掛かるけど、そのぶん身にもなる気がするのだ。
話を戻す。四文字熟語の意味だが、「柳暗」とは柳が色濃く茂り、ほの暗くも感じられる様子を表すそうだ。いっぽう「花明」は、その横で花が明るく咲き誇っていることだという。つまりは春の野の美しい自然全体を表しているということなのだが、転じてこの言葉は、花柳界のことを表現したものでもあるらしい。
花柳界はともかく、柳が色濃く茂ると、そこがほの暗く感じられるというのは、なにやら自分を取り巻く世間のことのようにも思えてくる。そしてこの「桜、ひらり」は、この四文字から発展したとも受け取れるが、歌全体がこの四文字に集約されているとも受け取れる。
サザンで桜といえば、そういえば…。
今回、「桜、ひらり」について書いていて、「あれ? そういえば」と思ったのである。彼らには、ずばり、『さくら』という1998年のアルバムがあるではないか。最後はこのアルバムのなかの“さくら度数”を探りつつ終わりたいと思う。非常に単純な作業であるが、オープニング曲からラストの曲まで、歌詞を読んでいったのである。
具体的にこのアルバムに桜が登場するのは一曲だけである。「唐人物語(ラシャメンのうた)」のなかの[桜見頃の唐人坂]である。このアルバムは夏を思わせる歌が多く、他になんとか探すとしたら、桜ではなく柳だが、「私の世紀末カルテ」のなかの[春は柳さえユラユラリ]くらいなのだった。
でも、“柳”と“ゆらり”といえば、今回紹介した「桜、ひらり」なのである。もしかしてもしかして、どこかでこのふたつは、繋がっている可能性もなくはない、のだった。
小貫信昭の名曲!言葉の魔法 Back Number
近況報告 小貫 信昭
(おぬきのぶあき)
前にも書いたかも知れないが、バラを育てているのである。冬の間はさほどやることがないのだが、肥料とか剪定とか、あと意外と難しいのは冬場の水やりだ。しかし昨今は、YouTubeで様々な園芸家の方が指南してくださるので、それを参考にしている。で、3月になり僕がまず春を実感するのは、バラの木のあちこちが、芽吹いていく様を確認した時。実は今が、まさにそうなのだった。
前にも書いたかも知れないが、バラを育てているのである。冬の間はさほどやることがないのだが、肥料とか剪定とか、あと意外と難しいのは冬場の水やりだ。しかし昨今は、YouTubeで様々な園芸家の方が指南してくださるので、それを参考にしている。で、3月になり僕がまず春を実感するのは、バラの木のあちこちが、芽吹いていく様を確認した時。実は今が、まさにそうなのだった。