第22回 DREAMS COME TRUE「LOVE LOVE LOVE」
photo_01です。 1995年7月24日発売
 少し前に『私とドリカム-DREAMS COME TRUE 25th ANNIVERSARY BEST COVERS-』というアルバムがリリースされた。そこに集まった豪華メンバーからは、いかにこのアーティストが愛され、影響を与えたかが伺える。もちろん、ドリカム自身も諸先輩からさまざまなものを受け継いで音楽性を築き上げた。特に吉田美和の詞作は、ユーミンからインスパイアされた(と推察出来る)部分、つまり仕事にも恋にも気高き“女子の在り方”を描くことで多くの支持を得た。さて、毎度同じようなことを書いている気がするが、彼らの名作の中から一曲に絞るとなると本当に悩む。でも、シングル曲として新たな音楽性を示し、しかもセールスという面でも最高の結果となった「LOVE LOVE LOVE」を。

吉田美和の天賦の才が生きる“ルルルルル”。

 いい声の持ち主は沢山いるけど、吉田美和ほどの人にはなかなか出会わない。ドリカムの取材をしていた頃、目の前で質問に答える彼女の生の声を聞きつつ、すでにそれは話し声を越えリッパに「音楽」なのだと思ったものだった。そんな彼女の持ち前の資質。そこにステージなどで発揮されるポジティヴな気質。さらに天性の音感、創意工夫の節回しが合わさって、まさに無敵の歌が生まれるのだ。
この曲のリリースは95年7月。タイアップからメガセールスが頻発した90年代のど真ん中。しかも人気ドラマ『愛していると言ってくれ』の主題歌だったが、作品的にはいささか他とは異質である。というのも、サビをいかに印象づけるかで勝負していた楽曲が多いなかで、この歌はむしろ、“ねぇ どうして”と三回繰り返されるAメロ部分こそが聞き所なのだ。洋楽なら「THE END OF THE WORLD」を彷彿させる歌詞の構成法だろう(こちらの“どうして”=“why”は二回の繰り返しだが…)。
繰り返しというと単純なものに思うが,吉田に掛かればとっても深いニュアンスが生まれ、「涙」という言葉ひとつでも微妙にイントネーションを変えて歌うあたりはサスガの一言である。
そして効いているのが“ルルルルル”というスキャット(正確にはハミングと言った方がいいかもしれない)。最初は“伝えたい”けど“言えない”の間。次は“夢で会いたい”けど“出てきてくれない”の間。三つ目は“愛してる言う”だけで“涙が出る”の間に“ルルルルル”が挟まる。
法則がある。心に湧き上がった出来事と、その時点でのとりあえずの心の着地点の、ちょうど間に挟まるのが“ルルルルル”なのだ。そこに至る過程は省かれている。どんな効果を生んでいるかというと、言葉で言い表せない葛藤などが、ここに代弁されているわけだ。それは“ルルルルル”に限る。“ラララララ”では開放的過ぎるし、“ウウウウウ”では秘密めき過ぎている。

一曲のなかで、特定の「愛」から「人類愛」へと発展する壮大さ

 「LOVE LOVE LOVE」の原曲自体は中村正人が以前から温めていたもののようだが、より具体化したのは、彼がこの楽曲と並行し、ドラマ『愛していると言ってくれ』のサウンド・トラックも手がけていた時期だ。チェンバロなどバロック音楽の要素を取り入れたアレンジは、彼らの新生面を示す。ただ、中村がひとりの音楽家としてサウンド・トラックを制作する立場では、これまでのドリカム・サウンドの枠を越えたものもドラマの各シーンとの兼ね合いで、自ずと要請される。それもあって、軽やかにこれまでの枠を越えたのかもしれない。
兆しはあった。ひとつの前のシングル「サンキュ.」は、ジャズのパット・メセニーの影響を強く感じるアレンジで、そこを通過してのものと思えば、特別奇をてらったわけでもないと受け取ることが出来る。
ドラマといえば、ちゃんとコラボの役割は果たしている。伝えたいけどなかなか伝わらない恋心というあたりは、脚本の内容にも合致する(興味ある方は『愛していると言ってくれ』の粗筋をお調べください)。それをせめて、夢の中でも相手に会いたいとなると、ドリーミィーなポップ・ソングが花開いた60年代が思い浮かぶ。
ただ後半になると、がらりと雰囲気が変わる。“LOVE LOVE 愛を叫ぼう”からは、吉田のソロ・ボーカルの様相が消え、大勢でシング・アウトするコーラスが聴こえてくる。この部分はそもそも別にあって、それがあとから編集されて一曲になったような雰囲気でもある。“LOVE”という言葉の意味も変化する。相手への特定の「愛」(前半)から、もっと幅広い「人類愛」(後半)へと発展していくかのようだ。この辺りまでくると、「LOVE LOVE LOVE」はどこか地下水脈でビートルズの「All you need is love」と繋がっているような印象を持つ人も少なくないだろう。
さて、最後は紛れもない私感だが、「LOVE LOVE LOVE」とは60年代の音楽シーンを俯瞰した楽曲なのではなかろうか。ドリーミィーなポップ・ソングが花開いた60年代前半の雰囲気から、ヒッピー・ムーブメント華やかなりし頃のビートルズが思い浮かぶ後半へとダイナミックに変化していくのがこの曲なのだから…。
小貫信昭の名曲!言葉の魔法 Back Number
プロフィール 小貫 信昭  (おぬきのぶあき)

1957年東京生まれ。そもそも文章を書くことと 歌が大好きだったので、これらふたつの合
わせ技で音楽評論家なる職業に就いて早ウン十年。でも新しい才能と巡り会えば、己の感性
は日々、更新され続けるのです。さて、このコラムを担当させて頂いていることもあり、日
頃から歌のなかの“言葉の魔法”には敏感でいようと思ってますが、若手のなかで詞を書く能
力ではピカイチな山崎あおいの初ワンマン・ツア−千秋楽を観つつ、改めて歌の力を実感し
ました。特に彼女の「東京」という歌は、“上京ソング”として素晴らしい完成度。終演後楽
屋で少し話したら、以前時よりずいぶん逞しくなっていた。でも彼女、まだ大学生なんです
よね。