Every Little Thingの作品は、時代と呼吸しながらスポットを浴びてきた。でも時間が経って分かることもある。それは、聴く者の心を常夜灯のように照らす息の長い楽曲が多いという事実である。さらに重要なポイントとして挙げたいのが、ボーカリスト・持田香織の資質だ。
彼女の歌には「作品を抱きしめすぎず、かといって突き放しすぎもしない感覚」がある。結果、作品の生(き)のままの魅力が届けられる。女性的に細やかでありつつ、大胆さや潔さもある。持田が東京の下町、亀戸出身だから歌もチャキチャキしてる、と、ここまで推測で書くのは筆が滑り過ぎだろうけど…。
“♪まだ知らない明日”への希望
数ある作品の中から、今回は「fragile」を取り上げることにする。作詞は持田本人で、作曲は菊池一仁。アレンジを担当したのはメンバーの伊藤一朗、さらに桑島幻矢、菊池一仁である。「fragile」というタイトルの意味は、“壊れやすいもの”といったところだが、この歌に関しては“フラジール”と、フランス語読みにするのが正しいようだ。これ、よく話題になることでもある(蛇足だが、“フラジャイル”と英語読みするなら、ロック・ファンにはイエスの代表作が思い浮かぶことだろう)。
いずれにしても、非常にすぐれた曲タイトルである。まさにこの歌が伝えんとする感情を包括的に伝えている。もちろん“壊れやすいもの”とは心のなかにある恋愛に対する感情(特に忠誠心?)だ。でも、“壊れやすい”からといって触らずただ大切に眺めているだけではいつか形を変えてしまうのだ。消えて無くなってしまうかもしれない。かといって、ヘタに触れば触ったで、今度は壊れてしまう。粉々になって、これまた消えてしまうかもしれないのだ…。実にやっかい。でも、だからこそドラマも生まれる。
今回、改めてこの作品をじっくり聴いてみたのだけど、受け取り方によって、様々に聞こえる歌である。ただ、淡い恋心を扱ったものではなさそうだ。友達以上恋人未満の心模様を描いていると解釈出来ないこともないけど、もっと経験値は高そう。思い浮かべたのは、いったん走り始めた恋が、何らかの要因で停滞し、しかし再び未来へ向けて動きだそうとする状況だ。この歌の主人公達は経験を共にしているが、“♪まだ知らない明日”という表現も出てくる。いま現在は何も起きてない。つまり停滞してしまっているからだ。
あともうひとつ、「fragile」はもちろん女性に圧倒的に支持されている歌なんだけど、歌詞に“♪今なら言えるよ 君のために”とあるように、男性目線の歌詞とも言える。しかし、女性が作詞する際に敢て「ボク」という主語にして本音を吐露するといった手法はよく見られるので、持田の綴ったこの歌詞にも、そんな側面があるのかもしれない。彼女が言いたかったのは、恋愛において相手は「鏡」のような存在だということだったのかも。そこに映る自分は「等身」を探すけど、なかなか素直になれず、つい逆のことをしてしまう。そのことを、どちらを悪者にすることなく描いているのだと、ここではそう解釈させていただくことにしよう。
一部にカタカナを使用した歌詞の心理的効果
この歌はカラオケの定番曲として今も高い人気を誇っている。その際、モニターのなかで字幕となって現われる歌詞には、ある特徴的な仕掛けが施されている。一部で意図的にカタカナを使用してるのだ。
例えば“♪コワレテしまわぬように”というフレーズがある。僕自身は残念ながらこの楽曲をカラオケで歌ったことはないのだけど、もし歌うとなったら、カタカナゆえに特別な感情が働くことだろう。それは、よりこの言葉の意味を心の中で噛砕いてから歌う、という行動なんだと想うのだ。「壊れて」と「コワレテ」は相当に視覚的に違う。他にも歌詞のなかには“クダラナイ”というのも出てくる。「くだらない」と「クダラナイ」はどう違うのか?前者より後者のほうが、それが生じた要因を探ってるニュアンスだろう。また語尾だけ“ケド”になってるところもある。ここなどは余韻が強調される。
そしてそして“ウレシイ”がカタカナになっているところもある。「嬉しい」じゃなく「ウレシイ」だと、それを越えたとこにある“カナシイ”という感情にも手が届きつつあるというか、そんな新たなニュアンスも浮かぶだろう。
実は主人公は歌のなかで、“♪言葉が不器用すぎて”と吐露している。想ってることと真逆なことを相手に伝えてしまったりする。カタカナは、その時点における主人公の心の迷いを現しているかもしれない。ならばカラオケする時には、そこに正解を与えつつ歌うのもいいかもしれない。
彼女の歌には「作品を抱きしめすぎず、かといって突き放しすぎもしない感覚」がある。結果、作品の生(き)のままの魅力が届けられる。女性的に細やかでありつつ、大胆さや潔さもある。持田が東京の下町、亀戸出身だから歌もチャキチャキしてる、と、ここまで推測で書くのは筆が滑り過ぎだろうけど…。
“♪まだ知らない明日”への希望
数ある作品の中から、今回は「fragile」を取り上げることにする。作詞は持田本人で、作曲は菊池一仁。アレンジを担当したのはメンバーの伊藤一朗、さらに桑島幻矢、菊池一仁である。「fragile」というタイトルの意味は、“壊れやすいもの”といったところだが、この歌に関しては“フラジール”と、フランス語読みにするのが正しいようだ。これ、よく話題になることでもある(蛇足だが、“フラジャイル”と英語読みするなら、ロック・ファンにはイエスの代表作が思い浮かぶことだろう)。
いずれにしても、非常にすぐれた曲タイトルである。まさにこの歌が伝えんとする感情を包括的に伝えている。もちろん“壊れやすいもの”とは心のなかにある恋愛に対する感情(特に忠誠心?)だ。でも、“壊れやすい”からといって触らずただ大切に眺めているだけではいつか形を変えてしまうのだ。消えて無くなってしまうかもしれない。かといって、ヘタに触れば触ったで、今度は壊れてしまう。粉々になって、これまた消えてしまうかもしれないのだ…。実にやっかい。でも、だからこそドラマも生まれる。
今回、改めてこの作品をじっくり聴いてみたのだけど、受け取り方によって、様々に聞こえる歌である。ただ、淡い恋心を扱ったものではなさそうだ。友達以上恋人未満の心模様を描いていると解釈出来ないこともないけど、もっと経験値は高そう。思い浮かべたのは、いったん走り始めた恋が、何らかの要因で停滞し、しかし再び未来へ向けて動きだそうとする状況だ。この歌の主人公達は経験を共にしているが、“♪まだ知らない明日”という表現も出てくる。いま現在は何も起きてない。つまり停滞してしまっているからだ。
あともうひとつ、「fragile」はもちろん女性に圧倒的に支持されている歌なんだけど、歌詞に“♪今なら言えるよ 君のために”とあるように、男性目線の歌詞とも言える。しかし、女性が作詞する際に敢て「ボク」という主語にして本音を吐露するといった手法はよく見られるので、持田の綴ったこの歌詞にも、そんな側面があるのかもしれない。彼女が言いたかったのは、恋愛において相手は「鏡」のような存在だということだったのかも。そこに映る自分は「等身」を探すけど、なかなか素直になれず、つい逆のことをしてしまう。そのことを、どちらを悪者にすることなく描いているのだと、ここではそう解釈させていただくことにしよう。
一部にカタカナを使用した歌詞の心理的効果
この歌はカラオケの定番曲として今も高い人気を誇っている。その際、モニターのなかで字幕となって現われる歌詞には、ある特徴的な仕掛けが施されている。一部で意図的にカタカナを使用してるのだ。
例えば“♪コワレテしまわぬように”というフレーズがある。僕自身は残念ながらこの楽曲をカラオケで歌ったことはないのだけど、もし歌うとなったら、カタカナゆえに特別な感情が働くことだろう。それは、よりこの言葉の意味を心の中で噛砕いてから歌う、という行動なんだと想うのだ。「壊れて」と「コワレテ」は相当に視覚的に違う。他にも歌詞のなかには“クダラナイ”というのも出てくる。「くだらない」と「クダラナイ」はどう違うのか?前者より後者のほうが、それが生じた要因を探ってるニュアンスだろう。また語尾だけ“ケド”になってるところもある。ここなどは余韻が強調される。
そしてそして“ウレシイ”がカタカナになっているところもある。「嬉しい」じゃなく「ウレシイ」だと、それを越えたとこにある“カナシイ”という感情にも手が届きつつあるというか、そんな新たなニュアンスも浮かぶだろう。
実は主人公は歌のなかで、“♪言葉が不器用すぎて”と吐露している。想ってることと真逆なことを相手に伝えてしまったりする。カタカナは、その時点における主人公の心の迷いを現しているかもしれない。ならばカラオケする時には、そこに正解を与えつつ歌うのもいいかもしれない。
小貫信昭の名曲!言葉の魔法 Back Number
プロフィール 小貫 信昭
(おぬきのぶあき)
文章を書くことと 歌が大好きだったこともあって、音楽を紹介する職業に就いて早ウン十年
。でも新しい才能と巡り会えば、己の感性は日々、更新され続けるのです。さて皆様、私の
大好物である冷やし中華の季節となり、けっこうな頻度で食べてます。家で作る時のコツは、
絶対に麺を、面倒くさがらず氷水で締めることではないでしょうか。具に関しては人によっ
て好みが分かれるかと思いますが、僕は茹でたもやしがマスト・アイテムとなってます…、
って、このままこのネタで押し切ることも考えましたが、やはり音楽のことを。まさに新し
い才能に触れて、発見の日々です。そのひとつは「王舟」というシンガー・ソング・ライタ
ーの『Wang』。懐の深い音作りとメロディ・センスに光るものアリです。
文章を書くことと 歌が大好きだったこともあって、音楽を紹介する職業に就いて早ウン十年
。でも新しい才能と巡り会えば、己の感性は日々、更新され続けるのです。さて皆様、私の
大好物である冷やし中華の季節となり、けっこうな頻度で食べてます。家で作る時のコツは、
絶対に麺を、面倒くさがらず氷水で締めることではないでしょうか。具に関しては人によっ
て好みが分かれるかと思いますが、僕は茹でたもやしがマスト・アイテムとなってます…、
って、このままこのネタで押し切ることも考えましたが、やはり音楽のことを。まさに新し
い才能に触れて、発見の日々です。そのひとつは「王舟」というシンガー・ソング・ライタ
ーの『Wang』。懐の深い音作りとメロディ・センスに光るものアリです。