今月取り上げるのは久保田利伸の大ヒット曲「LA・LA・LA LOVE SONG」。フジテレビ系の大ヒット・ドラマ『ロングバケーション』の主題歌、ということで話が通じる世代には、もう説明の必要はないだろう。でも今回、久しぶりに聴いてみて驚いた。ダブル・ミリオンものセールスをあげたのは、J-POPとしての親しみやすさを追求したからと思いきや、とても本格的に黒人音楽のノリを持った作品だったからだ。もっとも久保田といえば、ソウルとかファンクといった音楽ジャンルを、お茶の間にまで広めた功労者として紹介されることが多い。事実、彼は体全体からほとばしるソウル・スピリットに溢れた男であり、それでいて、幅広く一般の聴き手からも支持されたという点でまさに先駆者だった。
幼い頃から“ファンキー野郎(坊や)”
以前、本人から聞いた話。忘れられない好きな話。それは久保田が、まだ可愛らしい坊ちゃんだった頃のこと。幼稚園のお遊戯か、もしくは小学校に入ってからの体操の時間だったかは忘れたけど、ある時、先生からこんなことを言われたという。“その動きは要らないのよー”。本人は無意識ながら、なにやら余計な事をしていたらしい。そしてその動きとは、ほかの児童はやってなかった、ちょっとタメを効かせた腰の動きだったのだ! 何を伝えたいのか、もうお分かりだろう。彼はちっちゃな頃からファンキー野郎(坊や)だったわけである。天性の、というのはホント、大切だ。それに溺れては大成しないけど、彼のバツグンのノリの良さやリズムのキレは、持って生まれたものとも無関係ではない、ということを語っているエピソードだ。笑いながらそう話してくれた久保田を前にして、僕はいたく感激したのだった。
そんな彼がスターになるまでの過程も見逃せない。そもそもはアマチュア時代に黒人音楽に傾倒したバンドで注目を集め、やがてソングライターとして世に認められ、自らデビューを果たすのだ。この過程は非常に重要だろう。多くの人達の心を掴む楽曲とは何か…、ということを、スタッフ目線でも学んだのがこの時期なのだ。こういうヒトはアーティストになってからも強い。実際、快進撃が始まるわけである。
彼の歌を初めて聴いたのは、デビューを控えた時期に、音楽関係者に配られたカセット音源のデモだった。なんかこの人、“頭ひとつ、抜けてるな”というのはすぐに分かった。そしてデビューしてからの具体的な作品では「流星のサドル」だろうか。「日本人もこんな風に歌えるのか!」と驚いた。伸びのある高音、というのは珍しくないけど、伸びやかでありつつ、これほど繊細にコントロールされた艶のある歌声は聴いたことがなかった。渾身のシャウトからの迫力=ソウル、みたいな図式はよくあったけど、彼の歌声は誰からも愛されるカラッとした聴感で、人間愛に溢れるものだったのだ。
LA・LA・LA は愛の共通語
90年代に入るとアメリカでの活動も視野に、日本とニューヨークを行き来しながらの生活を送り、そして見事、全米デビューを遂げたあとの96年、「LA・LA・LA LOVE SONG」が大ヒットする。この作品、アーティスト・クレジットは“スーパー・モデル”として名を馳せたナオミ・キャンベルとの連名になっているが、曲を聴く限り、彼女の存在感はさほどない、というか、“ウォーリー”ならぬ“ナオミを探せ…”的な部分もある。これは推測だが、両者が知り合ったのはプライベートな場所であり(確かニューヨークでご近所さん)、しかし作品として共演となると、もろもろの権利関係なども様々あってこんな形になった…、のかも…、しれない。
そうした話より作品そのもののことを。ともかく出だしがいいのだ。“まわれまわ〜れメリーゴーランド”。「当時、よく聴いたよ」という人は、まさにこの瞬間、色々な想い出が頭のなかをぐるぐる回り始めるハズ。でも、初めて聴いたという人も、こんな感想を持たなかっただろうか。つまり“まわれまわ~れ”とは、「自らの人生が回り始めるのも、つまりは自分次第」。そう、そんなメッセージだと…。いきなりこのフレーズが届けられ、しかしこの部分はリズムは強調されてなくて、やがてラップが聞こえてリズムが立っていく。そんな歌とアレンジの連携も絶妙なのだ。
さらに歌詞の上で特徴的な部分を探すなら、反語的表現が巧みに使われている点だろう。敢て“ドシャ降り”だから街へ飛び出したり、あと、キラー・フレーズとしてはやはりサビの“息が止まるくらい”の“甘いくちづけ”にトドメを刺す。“甘いくちづけ”というのは、井上陽水の「いっそセレナーデ」の冒頭にも出てくる通り、それはそれでひとつ完結した表現なのに、さらにその前に“息が止まるくらい”という予想外のものを被せてくる作戦は見事にハマった。この歌の主人公達も、まだそんな“くちづけ”は未経験であり、もちろんこの歌を聴いた人間達も、おそらくそうであるがゆえにこの歌にそそられるのである。
なお、歌詞に出てくる“Shining Star”は、久保田も大きな影響を受けた EARTH,WIND & FIREの「Shining Star」へのリスペクトからだろうか。さらに「LA・LA・LA LOVE SONG」の“LA・LA・LA”。なぜこの言葉なのかには諸説あるようだが、僕はデルフォニックスというグループの68年のヒット曲「La La Means I Love You」(あなたもきっと、どこかで耳にしたことある名曲です)にヒントを得たものでは、と、受取っている。“La La”も“LA・LA・LA” もつまり愛の共通語、というわけなのである。
幼い頃から“ファンキー野郎(坊や)”
以前、本人から聞いた話。忘れられない好きな話。それは久保田が、まだ可愛らしい坊ちゃんだった頃のこと。幼稚園のお遊戯か、もしくは小学校に入ってからの体操の時間だったかは忘れたけど、ある時、先生からこんなことを言われたという。“その動きは要らないのよー”。本人は無意識ながら、なにやら余計な事をしていたらしい。そしてその動きとは、ほかの児童はやってなかった、ちょっとタメを効かせた腰の動きだったのだ! 何を伝えたいのか、もうお分かりだろう。彼はちっちゃな頃からファンキー野郎(坊や)だったわけである。天性の、というのはホント、大切だ。それに溺れては大成しないけど、彼のバツグンのノリの良さやリズムのキレは、持って生まれたものとも無関係ではない、ということを語っているエピソードだ。笑いながらそう話してくれた久保田を前にして、僕はいたく感激したのだった。
そんな彼がスターになるまでの過程も見逃せない。そもそもはアマチュア時代に黒人音楽に傾倒したバンドで注目を集め、やがてソングライターとして世に認められ、自らデビューを果たすのだ。この過程は非常に重要だろう。多くの人達の心を掴む楽曲とは何か…、ということを、スタッフ目線でも学んだのがこの時期なのだ。こういうヒトはアーティストになってからも強い。実際、快進撃が始まるわけである。
彼の歌を初めて聴いたのは、デビューを控えた時期に、音楽関係者に配られたカセット音源のデモだった。なんかこの人、“頭ひとつ、抜けてるな”というのはすぐに分かった。そしてデビューしてからの具体的な作品では「流星のサドル」だろうか。「日本人もこんな風に歌えるのか!」と驚いた。伸びのある高音、というのは珍しくないけど、伸びやかでありつつ、これほど繊細にコントロールされた艶のある歌声は聴いたことがなかった。渾身のシャウトからの迫力=ソウル、みたいな図式はよくあったけど、彼の歌声は誰からも愛されるカラッとした聴感で、人間愛に溢れるものだったのだ。
LA・LA・LA は愛の共通語
90年代に入るとアメリカでの活動も視野に、日本とニューヨークを行き来しながらの生活を送り、そして見事、全米デビューを遂げたあとの96年、「LA・LA・LA LOVE SONG」が大ヒットする。この作品、アーティスト・クレジットは“スーパー・モデル”として名を馳せたナオミ・キャンベルとの連名になっているが、曲を聴く限り、彼女の存在感はさほどない、というか、“ウォーリー”ならぬ“ナオミを探せ…”的な部分もある。これは推測だが、両者が知り合ったのはプライベートな場所であり(確かニューヨークでご近所さん)、しかし作品として共演となると、もろもろの権利関係なども様々あってこんな形になった…、のかも…、しれない。
そうした話より作品そのもののことを。ともかく出だしがいいのだ。“まわれまわ〜れメリーゴーランド”。「当時、よく聴いたよ」という人は、まさにこの瞬間、色々な想い出が頭のなかをぐるぐる回り始めるハズ。でも、初めて聴いたという人も、こんな感想を持たなかっただろうか。つまり“まわれまわ~れ”とは、「自らの人生が回り始めるのも、つまりは自分次第」。そう、そんなメッセージだと…。いきなりこのフレーズが届けられ、しかしこの部分はリズムは強調されてなくて、やがてラップが聞こえてリズムが立っていく。そんな歌とアレンジの連携も絶妙なのだ。
さらに歌詞の上で特徴的な部分を探すなら、反語的表現が巧みに使われている点だろう。敢て“ドシャ降り”だから街へ飛び出したり、あと、キラー・フレーズとしてはやはりサビの“息が止まるくらい”の“甘いくちづけ”にトドメを刺す。“甘いくちづけ”というのは、井上陽水の「いっそセレナーデ」の冒頭にも出てくる通り、それはそれでひとつ完結した表現なのに、さらにその前に“息が止まるくらい”という予想外のものを被せてくる作戦は見事にハマった。この歌の主人公達も、まだそんな“くちづけ”は未経験であり、もちろんこの歌を聴いた人間達も、おそらくそうであるがゆえにこの歌にそそられるのである。
なお、歌詞に出てくる“Shining Star”は、久保田も大きな影響を受けた EARTH,WIND & FIREの「Shining Star」へのリスペクトからだろうか。さらに「LA・LA・LA LOVE SONG」の“LA・LA・LA”。なぜこの言葉なのかには諸説あるようだが、僕はデルフォニックスというグループの68年のヒット曲「La La Means I Love You」(あなたもきっと、どこかで耳にしたことある名曲です)にヒントを得たものでは、と、受取っている。“La La”も“LA・LA・LA” もつまり愛の共通語、というわけなのである。
小貫信昭の名曲!言葉の魔法 Back Number
プロフィール 小貫 信昭
(おぬきのぶあき)
文章を書くことと歌が大好きだったこともあって、音楽を紹介する職業に就いて早ウン十年。
でも新しい才能と巡り会えば、己の感性は日々、更新され続けるのです。
先日、モデルとしても活躍中のchayさんにお会いした。
彼女は前作「あなたに恋をしてみました」から歌謡曲テイストの作品に取り組んでいるのだが、
21日にリリ−スされる新曲「好きで好きで好きすぎて」は、さらにそのあたりを
追求したものになっていて、個人的にも大注目。女の子のホンネが出てる歌詞がとってもリアルです。
文章を書くことと歌が大好きだったこともあって、音楽を紹介する職業に就いて早ウン十年。
でも新しい才能と巡り会えば、己の感性は日々、更新され続けるのです。
先日、モデルとしても活躍中のchayさんにお会いした。
彼女は前作「あなたに恋をしてみました」から歌謡曲テイストの作品に取り組んでいるのだが、
21日にリリ−スされる新曲「好きで好きで好きすぎて」は、さらにそのあたりを
追求したものになっていて、個人的にも大注目。女の子のホンネが出てる歌詞がとってもリアルです。