<踊ってます>が<愛しています>という意味だったりするんです

では、もう少し“作詞”についてお伺いしていきたいと思います。今作にはインディーズ時代の「バジルの宴」「ふしだらフラミンゴ」も収録されていますが、最近のフレデリック楽曲に比べて、内容がちょっと難しいといいますか、深読みしたくなるような歌詞ですよね。

康司:そうですね、人に届けたいという根本の部分は変わってないんですけど、昔は歌詞が抽象的でした。僕って昔から妄想世界に入り込むことが多くて。とくにインディーズ時代の楽曲は芸術大学に通っていた頃に作っていたということもあり、頭の中の夢の世界を言葉にしていくのが好きだったんだと思います。そこにちょっと考えさせるようなエッセンスを入れたりしていました。でも今はすごく現実的な歌詞になりましたね。あと、今回のアルバムを作っていく中で強く感じたのは、作詞をするとき“人にちゃんと伝えるために悩む”ってすごく大切なんだということでした。自分だけが理解するんじゃなくて。悩むということも愛情なんですよね。

また、フレデリックの歌詞には<踊る>という言葉が多く登場するような気がします。

康司:<踊る>という言葉は、なんか…ひとつの意味ではないんですよね。“歌うこと”とか“心が躍ること”を表現するために使うこともありますし、僕にとっては<踊ってます>が<愛しています>という意味だったりするんです。だから“好き”とかストレートに愛を伝える言葉を使っていなくても、僕は<踊る>というワードを通じてラブソングを書いているという楽曲が結構あります。

康司さんにとって、歌詞を書くこととはどんなことだと思いますか?

康司:色をつけることですね。土台となる線を鉛筆で書いて、それを彩っていくことが作詞なのかなって。日本の歌謡曲ってその時代のことを知らなくても、歌詞によって景色にしっかり色がついて聴こえるものが多いと思います。だから歌詞がないと、僕は曲がモノクロに見えるんですよね。

みなさんが「歌詞がいいなぁ」と思うアーティスト、楽曲を教えてください。

健司:康司も言ってましたけど、やっぱり“たま”が良いなぁと思っています。「きみしかいない」という曲があって、一応、彼らなりのラブソングなんですけど、すごくひねくれているんですよ。<誰もいないから きみしかいない 誰もいないから きみがこの世でいちばん>っていうフレーズがあったりとか。2コーラス目にも同じサビが来るんですけど<誰もいないから きみしかいない 誰もいないから きみがこの世でいちばんぶす>って終わるんです(笑)。裏を返せば<誰もいないから きみがこの世でいちばんかわいい>とも言えるのに、それを敢えてひねくれた方に持っていくのが“たま”らしいなぁって。

康司:“松本隆”さんの書く歌詞も好きですね。はっぴいえんどの「風をあつめて」は、もう映像なんていらないなって思うくらい、その時代の風景が浮かんできます。しかも、どのアーティストに提供する楽曲にも必ず鮮やかな色をつけてくれる人だなと思うんです。だからすごく尊敬しています。

photo_01です。

隆児:僕は最初に“東京事変”が好きやって言いましたけど、とくに「私生活」という曲が好きですね。<酸素と海とガソリンと沢山の気遣いを浪費している>ってフレーズとか聴くと、「あ〜本当に浪費するよなぁ」って思います。なんか、あの歌詞のようなことを感じながら働いている人って多いんちゃうかなぁ。

康司:椎名林檎さんって、曲とか歌詞を書くときに自分じゃない人を思い浮かべて書くらしいんですよ。だから昔の衣装もコスプレをしていたり、何かになりきることが多かったんじゃないですかね。そうやっていろんな人の気持ちになった状態で書くから、「私生活」で描かれている心境に男もすごく共感できるのかもしれないですね。

では、フレデリックのこれからの夢はなんでしょうか。

康司:僕らはすごくポピュラーな音楽を届けるバンドでいたいと思っているんです。今、J-ROCKシーンではいろんなところで活躍させてもらっているんですけど、やっぱりまだまだ知られていなくて。だから、本当にもっと大きくなって、武道館にも行きたいですし、Mステにも出たいと思ってますし、紅白も…出たいんですよね。誰もが知っているアーティストになっていきたいです。

ありがとうございました。最後に、歌ネットをみている方にメッセージをお願いします。

康司:僕自身、かなり歌ネットさんを使うことが多くて(笑)。歌詞って、作った人の気持ちをちゃんと知ることができるものだと思うんです。だからそれを読んでもらえる場があるということはミュージシャンとしても嬉しいですし、心強い部分があります。このインタビューをきっかけに、自分たちの歌詞も読んでもらえたらすごく嬉しいですね。

隆児:歌ネットさんを見る理由は「これって何を歌ってるんやろ」と気になったり、いろいろだと思うんですけど、歌詞に興味を持ってもらえることって、やっている側の僕らとしては本当に嬉しいことなので、いっぱい検索してほしいなと思います。

photo_01です。

健司:僕らはストレートに「愛しているよ」とか「大好きだよ」と歌うのではなくて、「愛してないこともないけれども」というような伝え方をするバンドなんです。そこを遠回しに描くことで、より心に引っかかってもらえるところもあるだろうし。「こういう捉え方をしていたけど、実はこういう意味なのかもな」とか、楽しみ方の選択肢が多い歌詞だと思います。だからこそ、僕らが1曲1曲に込めたメッセージを、歌詞から想像してもらえたら嬉しいですね。それをそれぞれの答えにしてください。そしてとにかくアルバムを楽しんでもらえたらなぁと思っています。


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