冷静、かつ、客観的に“これまで”と“これから”の自分自身を見つめて作り上げた今作は、決して手放しで「楽しかった」とは言えないくらい、制作に苦しみを感じる時間が長かったそうです。そんな高橋優の全身全霊が込められたアルバムへの思いをたっぷりお伺いしました。また、「歌詞が良いと思うアーティストは?」という質問には、自らのiPodを取り出し、じっくり答えてくださいましたので、彼が大好きな映画の話も含め、こちらも必読です!
自分のコトが嫌い 笑い方も喋り方も嫌い
鏡に写っている男をブン殴りたい 生きている価値なんかない
そんな人は一人もいない ってのが本当なら
誰か僕に才能と親切とアラカルトを買って来てください もっと歌詞を見る
去年はデビュー5周年ということで、ベストアルバム『笑う約束』のリリースや全国ツアーなどがあり大忙しでしたよね。そして今年もそれ以上に様々な活躍をされておりますが、5周年を経ての2016年はどのような1年でしたか?
高橋:だいぶ心が落ち着いたというか…一旦、自分に対して冷ややかになりましたねぇ。2015年は、アニバーサリーイヤーとか言ってもらえて、「おめでとう」って声をかけてもらうことも多くて、一年間ずっと誕生日みたいな気分だったんです。だから嬉しい一方で、チヤホヤされて調子に乗っているやつになりかけていた気がして。僕は自分がそういうふうになるのがすごくイヤなんですよ。それなのに「わ〜僕のためにありがとう〜!みんなのおかげで歩めた5年間だったよ〜!」って浮かれていたような去年の自分をぶん殴りたくなって(笑)。
そんな…(笑)。では、自分をシビアな目で見つめ直した1年だったんですね。
高橋:はい、いろんな人に応援してもらってきた5周年は本当にありがたいけど、でもたった5年間で何かを得たような気持ちになっているとしたら、もう俺の先はないぞ…と。それで改めて、今までやってきたことをやめてみたり、逆にやったことのないことを始めてみよう、というところからスタートしたのが今年でした。そこからはずっと冷静に自分のことを考えたり、今の現状をテレビやニュースで感じたりしながら歩いてきた実感がありますね。
やめてみた「今までやってきたこと」というのは?
高橋:ここ2年間ほど、僕の中で【社交的キャンペーン】というものをやっていたんですよ。それまでは、お食事会とかってわりと苦手な人間だったと思います。歌詞も、デビューした2010年から2013年くらいまでは、自分なりに頑張って書いていたんですけど、どこか全部わかったような気持ちになっているんじゃないかなぁって感じて。30才くらいで「人生ってさぁ…」って語ったり、「内向的だから、半径50センチくらいの歌しか書きません」って言ったりする人間になりそうだったし。そういう自分をぶち壊したくて【社交的キャンペーン】を始めたんですよね。いろんな人に会って、ご飯を食べてということを積極的にやっていきました。担任だった先生の自宅まで行って、10年ぶりに会って一緒にご飯を食べたりとかもしましたね。でもそれを今年の序盤でやめたんです。
積極的に人と交流していくようにしたことで得たものは大きかったですか?
高橋:そうですね。なんか…【人に会うこと】と【風呂に入ること】は同じだなって(笑)。僕は風呂も「あ〜入るのめんどくさいなぁ」とか思うんですけど、入っちゃえば絶対に気持ちいいし、スッキリするじゃないですか。お食事会も行っちゃえば絶対に後悔しないんですよ。魅力的な人にもたくさん出逢えるし。恋愛に関係なく、人間に対する片想いが増えるんですよね。そういう素敵な人と一緒にいることで、僕もちょっとだけ今までになかった自分になれるというか、新しいモードが増えるような感じがして。あとシンプルにこの2年間で、軽くご飯に行けるような友達も増えましたし、よかったなぁと思います。
今のお話にも通じるかもしれませんが、いろんな経験を経た上で、ご自身の綴る“歌詞”の「ここが変わったなぁ」と思うところはありますか?
高橋:ん〜今までは多分、歌詞で自分が正しいと思うことを世間にアピールしなければならないような気持ちもあったと思うんですね。でも今はもう、これっぽっちも正論を言いたいと思っていなくて。それはどうしてかと言うと、【社交的キャンペーン】でも感じたんですけど、誰かとご飯を食べているときに正論なんか一つも盛り上がらないからなんです。「また怒られちゃった」とか、愚痴とか、バカみたいなこととかを言い合っているときの方が、よっぽどスッキリしたり、通じ合っているような気持ちになるというか。
あ〜、たしかにそうですよね。
高橋:ライブをやらせてもらう中でも“歌”って、正しいものを表現するより、突っ込みどころが残っている歌詞のほうが聴いてくれる人とのキャッチボールになる、ということを感じることが多くなってきて。さっき急に「去年までの自分をぶん殴りたい」って言いましたけど、今回のアルバムでは1曲目の「Mr.Complex Man」からまさにその気持ちがそのまま歌詞に入っていたりとか。アルバムの冒頭から自分のことキライって言い出すって、俺ちょっと病んでるやつみたいだけど(笑)。でも「そういうふうに思うときもあるじゃん?」って誰かと会話しているような気持ちで歌詞を書くことがすごく多くなったような気がします。
また、あるインタビューで「高橋優は世間に対しての疑問とか不安を忘れたと思われていたっぽい」とおっしゃっていたのを拝読しました。それは実際にリスナーから「丸くなったよなぁ」というような声を感じていたのですか?
高橋:少し前にねぇ、とあるところで「高橋優はデビュー当時、尾崎豊とかブルーハーツを思わせる尖がった歌詞が多かった。でも最近、とくに2016年にリリースしているシングルを聴いたりすると、すごくほんわかした曲が増えた」というような意見を頂いたんですよね。で、その言い方が“ほんわか”していることをどこかよく思っていないというか、「私は尖がっている高橋優を期待していたんだ」的な声に感じたんです。あと、僕はたまにTwitterのエゴサーチとかもやるんですけど(笑)、それを読んでいて「あ〜やっぱり丸くなったって言っている人いっぱいいるなぁ」という実感もあったの。
ツイート検索なさるんですか…!意外ですねぇ。
高橋:まぁ軽い気持ちで眺めているので、落ち込んだりはしないですよ(笑)。でも「丸くなった」という意見に関しては、たしかに思うところがあるというか。シングルって、自分の作品に納得した上で出しているという点に変わりはないんですけど、どの曲をシングルにしようかという話し合いは、僕を含めスタッフみんなでなされるものなので、時には自分が「これがいいな」って思っている楽曲じゃないものに決まることもあります。でも、タイトル曲にならなかった曲がいつかカップリングになったら嬉しいし、それがA面になる日が来るかもしれないし…。そんなに焦っていないんですよね。あと、前回のシングル「光の破片」あたりからまたそういう“尖がっている方の高橋”というやつも少しずつ出てきているのかなぁと思います。
まさに今回のアルバムも、ザクっと刺さるような歌詞が少なくないですよね。ただ、描かれている感情のマイナスとプラスの比重がより“プラス”寄りになっているような気はしました。それは優さんご自身の心境もプラス寄りになってきているからなのでしょうか。
高橋:どうなんでしょうねぇ…。ただ【社交的キャンペーン】をやったりして思ったのは、自分が尊敬する人って、大抵すごくポジティブだし、その上でネガティブを表現するということを選んでいる人が多いんですよね。だから最初からネガティブしか表現できないのはやっぱり豊かとは言えないなぁというか。ともすると僕はそうだったんですよ。でも「ワーッて怒り任せにした曲しか書けない」みたいなところからは一歩変わったのかもしれません。もちろんネガティブな自分もある、だけどそうじゃない部分もあるってところをどちらも表現するようになっている。そういうなかで、出来上がった作品から何を発表するか選ぶときに“プラス”のものも多く出せるようになってきたんだと思います。