―― 前回のインタビューは2016年リリースのアルバム『来し方行く末』の時で、優さんは取材の冒頭から「浮かれていた去年(5周年目)の自分をぶん殴りたい」とおっしゃっていましたね。
あ~たしかに2年前はそんな時期でした。でも今はニューアルバムのタイトル『STARTING OVER』に込めた“再出発”をしたい、という感情が一番強いです。もうこのアルバムが高橋 優の1stアルバムみたいな気持ちで、曲作りもライブもこういうインタビューもしていきたいなと思っています。
―― 前作からの2年でいろいろな新しい挑戦もされてきたかと思いますが、とくに印象的だった経験を教えてください。
いろいろあったけど、やっぱり初のお芝居。映画『honey』でヒロインの叔父・小暮宗介役として出演しまして。歌とはまったく違うことをやらせてもらったのは大きかったですね。
―― 映画愛好家でもある優さんですが、観る側から演じる側になるのはどんな感覚でしたか?
演技ってなんか…、たとえば今こうして二人でお話させてもらっている内容を録音して、文字に起こして、それを台本にして「もう一回、同じようにやってみて」と言われるような感じでした(笑)。次に何を喋るかわかる状態だと、ちょっとした仕草とかも「自分いつもどうしていたっけ?」ってわからなくなったりするんですよ。そういう動きを思い出しながら、最終的には自然に、高橋 優ではなく小暮宗介という人物の言動になるようにしていきましたね。
―― 映画『honey』の予告映像にもあった、優さんが怒るシーンが印象的でした。
当日まで、諭す感じの怒り方でいこうかなって思っていたんですよ。自分の中で宗介というキャラクターを噛み砕いてみて。だけど監督に「ちょっと怒鳴るパターンでやってみよう」という指示をもらったので、急遽その場でどうすればいいんだろう…と考えまして。まな板を思いっきり叩いたり、包丁をガーンッ!とぶつけてみたりしました。だから感情は伴っていたけれど、正解はわからないままやっていましたね。そして僕自身は普段そんなに怒らないので、あのシーンを3回撮っただけで声が枯れました(笑)。めちゃくちゃ難しかったけど楽しかったですし、やっぱり映画は好きなので、もし機会をいただけたらまたやりたいですね。
―― 音楽以外のジャンルにもお仕事がひらけていくと、自然と交友関係も広がっていくかと思いますが、仲の良い方はいらっしゃいますか。
最近だと、俳優の小関裕太くん。よく一緒にご飯したり、二人で語らったりしていますね。
―― ちなみに、かつて個人的に取り組んでいたという【社交的キャンペーン】はもう完全に終了したのですか?
はい、2年前に完全に終わりました(笑)。もともと人と会うことは嫌いではなかったので、わりと楽しんでやっていた部分はあったんですけど、やっぱりねぇ…。お仕事が忙しくなってきたりとか、他に集中しなきゃいけないことが増えてくると【社交的キャンペーン】やっている場合じゃない感じになってきて。止めざるを得なかったんですよ。でもさっきおっしゃっていただいたように、今はお仕事が出会いを持ってきてくれるので、自らやる必要もなくなってきまして。いろんなことを経験させてもらうと、そういう良い面もありますね。
―― そして今回のアルバムジャケットを撮影したのは、優さんと親交の深い“リリー・フランキー”さんですが、ご自身ではどんなジャケ写になったと感じますか?
素の高橋 優、そのまんま。撮影は、僕の二大巨頭と呼んでいるリリーさんと箭内道彦さんが目の前にいて、箭内さんが笑わせてきて、リリーさんがその瞬間を逃さず撮る、という感じでした。リリーさんはお仕事で会うより、プライベートのお酒の席で会うことのほうが多い人なので、なんか…鎧を脱がされましたね(笑)。気づいたら自分がまとっていたものがなくなっていて、素の状態を撮っていただいた写真になったなぁと思います。
―― そういえば優さんは以前「Twitterのエゴサーチとかもやる」「丸くなったという意見をよく目にする」とおっしゃっていましたが、最近はいかがですか?
それがねぇ、エゴサする回数がだいぶ減った気がするんですよ。なんか興味の視点がちょっとズレたというか、考え方が変わったというか。
―― 何かきっかけがあったのでしょうか。
なんでだろうなぁ。すごく大事なことは自分の内側にあると思うようになったのかな。僕は何か発言や行動をしたときに、人の感想とか顔色も大事だと思うんですよ。でも周りが「はぁ?ふざけんなよ!」って言っているとしても、ときには飄々(ひょうひょう)とやれるようでないと、一生歌っていくことが大変になるとも感じている自分がいて。それはどっちが正しいとかじゃないんだけど、今は“誰にどう言われているか”よりも“自分の足をちゃんと地に着けて歩きたい”っていう気持ちが強くなったから、エゴサの回数が減ったのかもしれないですね。
―― では、今はもう「尖っているほうの高橋 優」とか「丸くなった」というような意見も気にならなくなりましたか?
そうなんですよ。そりゃ100%丸くて幸せな人間になれたならいいなぁと思うんですけど、残念ながらそうではないから、たとえ「丸くなっちゃったねぇ」と言われても、多分その想像通りではないし。かといって「ずーっと尖っていてくれ」って言われても、笑っているときも結構あるし。だから今は、自分の感情の動きを、もっと白と黒の間で表現することが大事だなって思っていて。それを今回のアルバムではとくに意識した気がします。