―― ここからはニューアルバムについてお伺いしていきます。まずリード曲「あなたへ贈る歌2」は代表曲「あなたへ贈る歌」の5年後の世界観をイメージした歌詞なんですよね。
はい、今回アルバムを作るにあたって「続編を作ってみたら?」というご提案を頂いて。その発想は自分のなかになかったんですけど、たしかに「あなたへ贈る歌」の<私>が今こうなっていたらいいなぁという世界を描いてみたいと思いました。なので「あなたへ贈る歌2」は「あなたへ贈る歌」の女の子の恋がどう始まって、その後どんな軌跡を辿ったということが1曲のなかで時系列でわかる歌詞になっていますね。
今日も明日もこの先もずっと
友達にはもう戻れないけれど
私だけを見てくれませんか
もう背中ばかり追いかけてた私じゃなくて
あなたが好きな人になりたいな
―― だから1番の歌詞は“5年後の今の私”ではなく“5年前のあの頃の私”の気持ちを描いているように感じられますね。
そうなんですよ。なので「あなたへ贈る歌」を知っている方は、かつての気持ちを照らし合わせて聴いてもらえたらいいし、初めて「あなたへ贈る歌2」から聴く方が片想いをしているなら、1番の歌詞で背中を押せたらいいなって思います。もちろん、今から結婚する方とか、すでに夫婦になっている方があの頃を思い出して、改めて今、想いを誓い合っても素敵だし。片想いでも両想いでも、恋をしているすべてのひとに届けたいですね。
今日も明日もこの先もずっと
いつか歳をとり 重ねた日々を
愛しく思える未来になるように
もう隣を歩いてるだけの私じゃなくて
あなたが頼れる人に なりたいな
―― かつては<背中ばかり追いかけてた私>が、今では<隣を歩いている>私になっていて、さらに<あなたが頼れる人になりたい>と願い、少しずつ強くなっている姿が見えてきます。
恋が愛に変わってゆく模様を描きたかったんですよね。なんかこの歌の<私>は今まで<追いかけていた私>、<隣を歩いてるだけの私>、と“自分”ばかりを見てきた気がするんです。だけどやっと<あなたが頼れる人になりたい>と“あなたにとってプラスになりたい”という気持ちが芽生えたことで、自分だけじゃない世界、愛がある世界にたどり着けた姿を表現できたなぁと思います。
―― ちなみにericaさんはどんな関係が理想なのでしょうか。
私はですねぇ、理想と現実が違うんですよ。理想は、毎日スキンシップをし合えるような関係。手も繋ぎたいし、一緒に寝たいし、休日もベタベタしたい。だけど実際の経験を振り返ってみると…まず連絡さえくれない(笑)。人前でベタベタしたくないひと、自分のやりたいことを優先しているひと、何故かそういうひとを好きになってしまうんですよ。だから「あなたへ贈る歌2」には私の“こうでありたい”という願望も入っています!
―― その“理想と現実”のお話にも通じるかもしれませんが、今作に収録されている失恋ソングの歌詞を読んでいるといくつか共通点がありまして。この主人公たちはみんな“傷つくこと”を予感しながら“都合のいい私”としてそばにいたんですよね…。
うわ…。出ちゃっていますねぇ。暴かれている!ちょっと待ってくださいね……、これ全部、私の恋愛ですね(笑)。暴かれている!怖いですねぇ。もちろんファンのみんなの悩みも歌詞のきっかけにはなっているはずなんですけど、私がこういう恋しかしてないから、そういう類の悩みをピックアップしているんでしょうね。でも同じタイプの女の子ってすごく多いみたいで。ファンの方が、みんな私と話すと泣くんですよ。
「もう本当にツラかった」って。だけど「ericaさんの曲を聴いたら素直になれて、泣いていいんだって思えた」って。そうやって“やっぱり好きだ。でも忘れなきゃいけないんだ”という自分の心と向き合える時間になっているみたいで、そういう声を聴くと「あぁ、書いてよかったなぁ」と思えます。私の歌を聴いているときは、泣いていい時間であってほしいですね。幸せな歌だったら、とことん幸せに浸ってほしいし。まぁ哀しい恋をするのは嫌ですけど、それでもみんながそれぞれの感情をむき出しにしてもらえる歌詞を描き続けたいですね。
―― 失恋ソングの「バカみたい…」には<離れてく心感じてたよ>というフレーズがありますが、先日“槇原敬之”さんにインタビューしたとき「恋愛で大事なのは愛よりも勘」とおっしゃっていたのを思い出しました。「なんか変だな」という勘。
お~…なるほど。槇原さんはその勘に気づいてしまったら、どうすると言っていました?
―― 槇原さんの場合、どんなに自分が相手をまだ好きだとしても、自分から相手を見切ってあげるんですって。どちらのためにも。
えぇ~!?おわ~…。できない。私には絶対にできません。いや、本当はとっくにわかっているんですよ。離れていく気持ち。だって返信が来ないんだもん!会いたきゃ連絡くれるでしょう。来ないんだもの!でも気づきたくないわけですよ!
ericaスタッフ: 語気が強い…(笑)。

強く言わなきゃやってられないんです(笑)。「忙しいんだもの」「きっと今日は何か事情があったんだ」「来週かな?」「落ち着いたら来るのかな?」そうやっていろいろ理由をつけて、どうにかこうにかフタをして「もうダメかも……なわけないよね? いいじゃんいいじゃん。ちょっと一回リセット~」みたいな(笑)。で、もしかしたら気が変わってくれるかもしれないって、散々やり尽くして、やがて可能性0%になって、仕方なく泣く泣く離れていく感じですね。
―― そんなに心身も何もかも使い果たして別れたら「あの時間を返して」とはならないのですか?
ならないならない。1分1秒でもいいから、また一緒にいたいと思う。もう一回やり直せるなら、ツライとしても同じ時間を過ごしたいと思っちゃう。だけど哀しいことに、私がそんなに磨り減って、思い尽くしている感は、相手に伝わっていないんですよね。邪魔しちゃいけないと思うし、「え、私に会いたいでしょ?」っていう自信もないし。そうやって言えなかった本音が全部、私の失恋ソングには出ているのかなって思います。
―― 言えなかったというより、言わなかったこともたくさんあるんでしょうね。
そうなんですよ。好きだから、相手のことを思って言葉にしないことってたくさんあるじゃないですか。でも向こうからしたら「いや、会いたいって言ってくれたら、別に会うよ?」って話で。単純に私が「無理をしないでね」って言ったから、本当に無理をしなかっただけで。本当は“無理をしてほしい”のに。なんか私は恋愛をするたびに、付き合えたからって幸せなわけじゃないんだなぁと痛感します。大好きでそばにいるのに、いつも苦しくて、全然幸せじゃないなって。
―― …ツライですね。
ツライです(笑)。いつも手の届かないひとを好きになりがちなんですよ。私の3歩先くらいなら、追いつけるかもしれないけど、100歩先を行っているひとだったりするから。そうなると「もう会えるだけで大丈夫です。幸せです」みたいなスタンスになるので。ずっと距離は縮まらなくて、うまく伝えられないことばかりですね。だから、付き合う前も、付き合っているときも、別れたときも、本当のことを言えずに終わる。なんか…改めてこうやってお話してみると、自分が思っている以上に恋愛観が歌詞に反映されていたんだって気づかされました。