ノン・シングルでもアルバムTOP10入りする吉田拓郎や中島みゆきなどのベテランは別格として、現代は3〜4枚のシングルを発売後、オリジナルアルバムをリリースするというのが一般的だ。ここから単純に考えると、アルバム直前のシングルは楽曲ランキングの3割前後を占めることになる。
しかし、表を見ると、実際には直前シングルの上位5作が総合でもTOP10入りしており、ヒット作が非常に多い。参考までにアルバム直後シングルも数えてみたが、総合TOP10中は嵐と西野カナのみの2作。特に嵐は、上位常連で、アルバム直後だから売れたという感じはない。
アーティストやメーカーとしては、直前のシングル(着うたなら¥100〜¥300程度、CDでも¥1,000前後)をヒットさせて、より売上金額の大きなアルバム(同¥3,000前後)のヒットを期待したいところ。そう考えると、この直前シングルにかなりの注力をする、というのは当然の流れと言えるだろう。
さて、直前シングルTOP15を見てみると、うち13作がタイアップ付だ。この割合自体は総合ともさほど変わらないが、その内訳として最大級タイアップと言えるドラマ主題歌が13作中6作を占めており、如何にこのシングルに力が入っているかが分かる。ドラマの終盤に、主題歌を歌うアーティストのアルバムがリリースされることを多々見かけるが、これは決して偶然ではないのだ。3位のEXILE「二つの唇」にいたっては、フジ月9ドラマ主題歌と、ソニー・エリクソンの携帯電話CMのW大型タイアップで、12月発売のアルバムへの期待度も半端なく大きいことが分かる。しかも、2位のGReeeeN「キセキ」や、14位のMr.Children「HANABI」のように、ドラマから1年以上経過しても支持され続けている例も少なくない。つまり、単純にタイアップに依存している訳ではなく、アーティスト側もアルバム直前という書き入れ時を逃さぬよう、ここ一番の名曲を送り込んでいるのだ。
また、4位のスキマスイッチや13位のLIl‘Bは、共にアニメ『鋼の錬金術師』のテーマ曲で、いずれもSMEグループのアーティストが採用されている。しかし、スキマスイッチの最新アルバムの売上は、前作に比べ決して伸びてはいない。既にビッグなアーティストがアニメに起用されても、その楽曲、そのアニメに限って人気が出るだけで、ファンの広がりはあまり期待できないようだ。それとは対照的に、9位のJulietはノンタイアップで上位入りしており、歌詞の共感度の高さが、タイアップに代わるブレイクへの牽引力となったことがよく分かる。
以上のように、アルバム直前のヒット曲の集中ぶりがよく分かった。昨今は、ファンがアルバム直前のシングルを買い控えることを懸念して、メーカーがシングルCD自体を発売せずにアルバムヒットに繋げるケース(例えば、木村カエラ「
Butterfly」、加藤ミリヤ「
Aitai」など)も増えつつあるが、やはり、より幅広い世代にアピールするには、こうしたパッケージ戦略はまだまだ重要と言えそうだ。