前月の歌詞検索ランキングを掘り下げて、キラっと輝くキラー・チューン(名付けて"キラ☆歌")を発掘しようというこのコーナー。今月はドラマタイアップ曲に注目して分析してみた。
02年より日経エンタテインメント!で連載中の「つのはず誠の月間音楽チャート診断」の執筆に際し、3月度の月間ダウンロードチャート(レコチョク調べ)を調べたら、なんとTOP10中5曲までがそのクールのドラマタイアップ曲だった。しかも11年は1曲、12年は3曲と年々増加しているのだ。今世紀のドラマ史上最大の話題となった『家政婦のミタ』の主題歌、斉藤和義「やさしくなりたい」ですら、CDシングルが約12万枚であるように、大人気ドラマでもシングル・ヒットが確約されない時代だが、ダウンロードとの関係はますます密接になっている。そこで、ダウンロードの手引きにもなっているであろう歌詞検索では、より顕著に分かるのでは?と思い、今回のテーマ選定に至った。
第45回:ドラマタイアップ曲TOP10 (2013年4月:2013年3月のデータより分析)
テーマ
順位
総合順位 アクセス指数 楽曲名 タイアップドラマ名 アーティスト 発売日
1位 4 100 VOICE 夜行観覧車 AI 2013.2.13
2位 6 68.5 誕生日には真白な百合を とんび 福山雅治 2013.4.10
3位 11 56.7 Calling ラストホープ 2013.3.6
4位 16 47.9 リリック 泣くな、はらちゃん TOKIO 2013.2.20
5位 22 40.6 ヒカリヘ リッチマン、プアウーマン miwa 2012.8.15
6位 23 40.4 ミュージック dinner サカナクション 2013.1.23
7位 28 35.3 366日 赤い糸 HY 2008.4.16
8位 30 34.2 beautiful シェアハウスの恋人 絢香 2013.2.20
9位 37 32.0 青い春 高校入試 back number 2012.11.7
10位 42 30.4 キセキ ROOKIES GReeeeN 2008.5.28
11位 44 29.0 いちばん近くに 純と愛 HY 2012.12.5
12位 50 27.1 Best Friend ちゅらさん Kiroro 2001.6.6

 まず、全体を見てみると総合TOP50内にドラマタイアップ曲は全部で12曲(うち3月まで放送されていた直近のドラマが7曲)挙がった。ちなみに前々年は7曲(うち直近が4曲)、前年が10曲(うち直近が5曲)と、2年連続で確実にドラマタイアップ曲が増えている。これは、 "ドラマを見る→ネット上で盛り上がる→歌詞や動画で復習→気に入ればダウンロード"という購入経路がより明確になったことを示しているのではないだろうか。具体的には、SNSの発達によりネット上で盛り上がるのも、動画や歌詞サイトのURLを貼り付けるのも容易になったことがプラスに作用しているように思える。

 テーマ順位を見ると、1位のAI、2位の福山雅治は共にTBSのドラマ主題歌。前者は夏木マリの怪演など衝撃的なシーンが多いことが、後者は古き良き感動作として、共にネット上でも大いに盛り上がり、歌詞人気もダウンロードチャートも絶好調だった。11位のドラマ『純と愛』の主題歌も、ネット上では「主人公が朝からギャンギャンうるさい」とネガティブな口コミも活発だったが、♪信じていれば、きっと伝わる〜という主題歌は配信開始からずっと上位で推移しており、実はドラマの支持者も多かったことがうかがえる。
 これら新作の他に、ドラマ主題歌は旧作も上位入りしやすいのが特長。5位のmiwaは半年前の楽曲だが、ドラマ終了後も彼女が初出演の番組で紹介される度、また先日の武道館公演などワイドショー番組でその模様を1分程度放送される度、この曲が代表曲としてかかるので、それゆえ再度検索され、ダウンロードも伸びるという状況がずっと続いている。ドラマ放送当時、"なんとなく聞いていた"という地固めがリスナーにも番組制作サイドにも出来ていると、再ヒットしやすいというのも昨今のドラマ主題歌の傾向と言える。(但し、12位のKiroroは、毎年卒業シーズンに再浮上しており、これは卒業ソング特集効果が大きい。それでも、これだけ有名になったのは半年間NHKでオンエアされていたことがあってこそのことだろう。)

 このように、歌詞の検索ランキングを見ると、ドラマ主題歌が楽曲人気にかなり繋がっている様子が分かる。1曲が気に入っただけではCDシングルを買うという大きな理由にはならなくなった (それよりもイベントに参加できるか、グッズがもらえるかの方が遥かに大きな購入要因となるようになった)昨今だが、歌詞サイトやダウンロードへの長期的な影響を見れば、そのタイアップ効果はかなり大きいということが読み取れる。本当のヒット曲は、1週間などでは決められないはずだ。




VOICE/AI


誕生日には真白な百合を
福山雅治


Calling/嵐

 通算46作目のシングル。長瀬智也主演のドラマ『泣くな、はらちゃん』の主題歌。本作は、近年のTOKIOでますます顕著となっているパワフルなポップロック路線で、シングル表題曲では初めて長瀬自身が、作詞・作曲・編曲を手がけている(05年の「明日を目指して!」は大御所アレンジャーの船山基紀と共同)。長瀬が十八番とする直情型の天然男を演じたことで、本作の「当たり前のことがどこか美しく見えた/だからそばに居たいんだ」という歌詞もいつも以上に素直に聞こえてくる。ちなみに、続く47thシングル「手紙」は、国分太一・主演、乙武洋匡・原作の映画『だいじょうぶ3組』の主題歌で、離れた友に宛てたメッセージを綴ったミディアム調の楽曲だが、こちらも長瀬の温かな歌声に切なくさせられる。06年の「宙船」以降、長瀬のボーカルがますます磨かれているように思える。
 このように、TOKIOの近作は、ほぼ毎回メンバーの誰かが主演するドラマや映画のタイアップが付いているのだが、ここ数作は大ヒットには恵まれない。しかし、それとは裏腹に、シングルでは椎名林檎、TUBE、玉置浩二、横山剣、YUKIなどトップミュージシャンの書き下ろし曲を、アルバムでは全メンバーが作詞・作曲を手がけたよりストレートなロックを、それぞれ上手く演奏・歌唱していて多彩で聞き飽きない。特に、12年のアルバム『17』では、メンバーの松岡が石井竜也バリにシックに歌った「Autumn」や、城島が氷室京介バリにキメこんで英語で歌った「More」など、意外な側面も。案外、ジャニーズの中で最も音楽的に面白いグループなのかもしれない。


※ここではデビュー2年内のアーティストを対象に、毎月注目のアーティストを"歌ネット・ルーキー"として紹介していく。ただし、「ルーキー」として選定するのは1アーティストにつき1度限りとする。
 今月は、6位にランクインした福岡県出身の女性シンガーソングライターCHIHIROに注目。彼女は、07年からクラブを中心に活動し始め、同年7月25日に1stアルバム『Jewels』でCDデビュー、これまで4枚のアルバムをリリースしているが、そのオリコン最高位は(300位圏外)→65位→42位→37位と着実にレベルアップしている。それと同時に、ダウンロードでもスポンテニアのTarantulaとコラボレーションした「永遠」など週間TOP20入りする作品も出てきた。彼女は、いわゆる"着うた系ディーヴァ"に分類されることが多く、実際にそのカテゴリーのアーティストが得意とする恋愛密度の高い楽曲が多いが、そのなめらかな美声や正確なリズムを刻む点など、そのボーカル力も注目すべき点だろう。(むしろ、山下達郎、竹内まりや、玉置成実、藤澤ノリマサらと同じ所属事務所ゆえの高い歌唱力と考えた方が私には自然に聞こえた。)
 3月20日には、約6年間の活動を集大成したベストアルバムでメジャー・デビュー。ベスト盤に初収録の「幸せとは」がラブリーな歌詞や幸せな光景が見える動画が話題となり人気だが、もう1曲の新曲「Liar」も、嘘つきの彼氏と強がる主人公の女性の関係が切なく、曲調もメランコリックで聴かせる。ハッピーなのも、アンハッピーなのもそれぞれの表情がしっかりと伝わってくるのもボーカル力が確かな証拠だろう。
 
2
順位 占有率 曲名 初収録作品
(メジャーデビュー以降)
発売日
1 50.1 幸せとは ベスト『BEST 2007-2013』 2013.3.20
2 6.6 Liar ベスト『BEST 2007-2013』 2013.3.20
3 3.1 両想い 4thアルバム『C is』 2012.8.29
4 3 YES 4thアルバム『C is』 2012.8.29
5 3 どんなに離れても feat.SEAMO 4thアルバム『C is』 2012.8.29
6 2.8 永遠 feat.Tarantulafrom スポンテニア 同名シングル 2012.1.18
7 2.5 恋花火 4thアルバム『C is』 2012.8.29
8 2.5 あなた以上 シングル「永遠」c/w 2012.1.18
9 1.8 Love song 4thアルバム『C is』 2012.8.29
10 1.8 4℃ 4thアルバム『C is』 2012.8.29



つのはず・まこと。1968年京都府出身。理学部修了→化学会社勤務という理系人生を経て、97年に何を思ったか(笑)音楽関係の広告代理店に転職。以降、様々な音楽作品のヒットに携わり、05年にT2U音楽研究所を設立。現在は、本業で音楽分析やCD企画をする傍ら、日経エンタテインメント!、共同通信などでも愛と情熱に満ちた連載を継続中。Twitterは@t2umusic
3月28日に、CDショップで長く勤務した後、音楽ライターに転身された長井英治さんが監修された500作にわたるディスク・レビュー集『日本の女性シンガーソングライター』が発売されました。私は全く関わっていませんが(苦笑)、女性シンガーソングライターは、やはり共感度の高い歌詞で人気を得た人が多いので、こちらを読めば歌ネットでの楽しみも倍増するのでは。(個人的には、濱口英樹さんの書かれた河合奈保子レビューに注目。)ご参考下さい♪