第73回:短文タイトル人気曲TOP20
大作の匂いがする短文タイトル
 前月の歌詞検索ランキングから、キラっと輝くキラー・チューン(名付けて"キラ☆歌")を発掘しようというこのコーナー。今月は、短いタイトルの人気曲を分析してみた。

 このところ連日最高気温が35℃前後で、思考も低迷気味(汗)で、今回も「あ〜、もう暑いから短いタイトルでスパッといこう」と考えたくなった。
 実は、この切り口、2012年の初夏(第35回)にも実施しており、その時の特徴としては、上位16曲中Mr.Chidlrenが5曲を占めていて、小説や映画同様に、短文タイトルが名作を想起させるのではないかと分析していた。まる3年経った現在、短文タイトル王は誰になっているだろうか?また、その傾向はどう変わっているだろうか?
第73回短文タイトル人気曲TOP20(2015年7月:2015年7月データより分析)
テーマ
順位
総合
順位
アクセス
指数
タイトル
アーティスト
発売日
1位 4 100.0 大切な君へ 井上苑子 2015/7/1
2位 6 91.6 SISTER back number 2015/5/27
3位 7 90.1 花束 back number 2011/6/22
4位 8 76.5 ワタリドリ [Alexandros] 2015/3/18
5位 10 72.3 いつかきっと ナオト・インティライミ 2015/4/8
6位 11 69.7 好き 西野カナ 2014/10/15
7位 12 67.8 夏の音 GReeeeN 2015/6/24
8位 13 64.3 LOVE MACO 2015/5/20
9位 15 62.3 手紙 back number 2015/8/12
10位 16 52.9 わたがし back number 2012/7/18
11位 17 52.2 RPG SEKAI NO OWARI 2013/5/1
12位 19 48.7 花火 三代目J Soul Brothers from EXILE TRIBE 2012/8/8
13位 23 39.9 奏(かなで) スキマスイッチ 2004/3/10
14位 25 38.7 back number 2012/3/7
15位 27 38.4 キセキ GReeeeN 2008/5/28
16位 30 35.9 ビリーヴ GReeeeN 2015/6/24
17位 31 35.9 真夏の太陽 大原櫻子 2015/7/22
18位 32 35.0 明日も MUSH&Co. 2013/12/4
19位 36 31.6 君に届け flumpool 2010/9/29
20位 37 30.2 Re:make ONE OK ROCK 2011/7/20
※読み仮名でも文字数でも句読点を含め8字以下のタイトル限定でピップアップした。
中島みゆき、スピッツ、ミスチル、コブクロなど
短文タイトル好きには大物がズラリ back numberもいずれ彼らに続く?
 1位は、17歳の女性シンガーソングライター、井上苑子がランクイン。今月のルーキーにもなっているので詳しくはそちらで触れるが、アーティスト表記もタイトルも、実にストレートだ。
 2位、3位、9位、10位、14位と、今回の短文タイトル王は、back numberに決定。「思い出せなくなるその日まで」や「スーパースターになったら」など、タイトル長めの人気曲もあるのだが、上記の他にも「青い春」や「fish」、年初のヒット曲「ヒロイン」など短文タイトルがかなり多い。確かにこの短さが、彼らの作品の穏やかな熱気を感じさせ、年配のリスナーも聞いてみたくなる気がする。
 短文タイトルの多いアーティストと言えば、前回触れたMr.Childrenや一文字タイトルの多い北島三郎のほか、中島みゆき(「糸」「地上の星」「時代」「ファイト!」「麦の唄」など。他にも「悪女」「誕生」「世情」「傾斜」な二字熟語の多さはダントツ)やスピッツ(「チェリー」「空も飛べるはず」「ロビンソン」「楓」「渚」など)、コブクロ(「赤い糸」「蕾」「桜」「風」「流星」など)あたりが想い出されるように、いずれも大物アーティストで、どことなく浮付いた感じがしないのは、このタイトルの影響も大きい気がする。是非、back numberもジーンとさせる最新作「手紙」で、更に幅広いリスナーに浸透して欲しい。

 3位のback number「花束」の他にも、現在LINE MUSICのCMで再注目されている6位の西野カナ「好き」や、13位のスキマスイッチ「奏」、15位のGReeeeN「キセキ」、19位のflumpool「君に届け」など、歌詞検索やダウンロードでのロングヒットが多い。また、全体を見渡すと、グループ系のアーティストが多く、本来歌詞サイトで強い女性ソロは、まだ数人しか見当たらない。今後、他の女性ソロと差別化する為に、幅広い層を狙える短文タイトル傾向の強い女性ソロが現れるのにも期待したい。

 今回は、短文タイトルでの人気曲に触れたが、ゲスの極み乙女。(「私以外私じゃないの」「ロマンスがありあまる」「猟奇的なキスをして」など)がそうであるように、長めのタイトルの方が、「おやっ?」と思わせるだけのインパクトが強いし、実際、上記のロングヒット曲でも初動が鈍かったり、また発売当初から売れている楽曲でも、前作まででアーティスト・パワーが十分備わっていたりと、実は決して短文タイトルは有利ではないようだ。さらに、短文タイトルは既存のヒット曲と被ってしまう確率も自ずと高くなる。しかし、だからこそその楽曲やアーティスト自身が持つ言葉の持つチカラが必要とされるだろう。現在は、とかく音楽以外の魅力で売り切ってしまおうという考えも残念ながら音楽業界にまかり通っているが、これを機にアーティストや制作サイドには10年後、20年後に多くの人々の心に残る名作を目指して欲しいものだ。(勿論、本当に名作ならば、タイトルの文字数など関係ありませんね(微笑)。)
第7位:GReeeeN「夏の音」
 本年6月24日にリリースされたベスト盤『C、Dですと!?』に初収録となる楽曲。タイトルは、2012年末にダウンロードや歌詞検索でヒットした「雪の音(ゆきのね)」にちなんで「夏の音(なつのね)」とされたのだろう。
 "キリン 生茶"のキャンペーンソングという制約からか、メロディーや歌詞から、和や静寂を感じさせ、いつものGReeeeNよりも癒し成分が多めで、これはこれで魅力的。
 なお、本アルバムは、2011年以降のシングル曲やアルバム人気曲をまとめたベスト盤で、2CDタイプ3種類(DVDやグッズの有無が異なる)と、1CDタイプ1種類が発売されているが、後者にはこの「夏の音」が収録されていない(他にも「僕らの物語」や「HEROES」、NEWSへの提供曲「weeeek」のセルフカバーも未収録!)ので、注意が必要。というか、GReeeeNはどの曲もキャッチーでカラオケ映えもするので、チェックされる方は是非とも2CDタイプでどうぞ♪


ここではデビュー2年内のアーティストを対象に、毎月注目のアーティストを"歌ネット・ルーキー"として紹介していく。ただし、「ルーキー」として選定するのは1アーティストにつき1度限りとする。
ルーキー部門第4位:井上苑子
  
 今月は第4位の井上苑子に注目。彼女は、1997年兵庫県出身の女子高生シンガーソングライター。2013年にインディーズにてシングル「ソライロブルー」を発表し、以降4枚のシングルと1枚のミニ・アルバムを経て、今夏7月1日ミニ・アルバム『#17』にてメジャー・デビューを果たした。彼女の楽曲中、現在ダントツとなっている「大切な君へ」は、このアルバムに収録されているが、カントリー・タッチの明るいサウンドに素直な恋心が綴られていて、屈託のない笑顔と、可愛い歌声を持つ彼女をよく表している。  また、10代に大人気の動画配信サービス「ツイキャス」で大人気という情報や、13歳で心斎橋クアトロ、15歳で大阪BIGCATでワンマンLIVEを敢行した実績、さらには"女子高生に聞いた今後人気が出そうな芸能人"調査で第3位という記録などが大きな触れこみとなって、朝の情報番組でも多数取材を受けている。
 そういった特性も分かりやすいし、メディアの取り上げ方も大々的で、かなり期待されているのは分かるのだが、、、その割にアルバムの売り上げは、週間チャート初登場60位台で2週目以降は急落しており、他の女性シンガーソングライターと比べて決して突出している訳でもない。もしかすると、情報ばかりが上滑りしている気さえしてくる。
筆者個人は、彼女が、17歳にしてこれまでどんな努力や苦労をしてきたのか気になる所だが、まだそのような部分はあまり伝わっていない気がする。今の時代、情報で大物感をアピールするよりも、それが重要ではないだろうか。
 彼女の場合は、かなり叩き上げてここまで来ているという説得力を感じさせるし、実際、メディアで堂々としているのも、これまでの積み重ねがあってのことだろう。この共感、共生がポイントとなっている時代だからこそ、より深い言葉を作品から受け取っていきたい。そう思わせるほど、大成しそうなオーラを放っている。

順位
アクセス
比率
タイトル
初収録作品
発売日
1 70.9% 大切な君へ メジャーAL『#17』 2015.7.1
2 4.1% 線香花火 インディーズミニAL『線香花火』 2014.7.2
3 4.0% ふたり メジャーAL『#17』 2015.7.1
4 3.7% and I... メジャーAL『#17』 2015.7.1
5 2.6% Get U メジャーAL『#17』 2015.7.1
つのはず誠の「キラ☆歌発掘隊」

プロフィール:つのはず誠
つのはず・まこと。1968年京都府出身。理学部修了→化学会社勤務という理系人生を経て、97年に何を思ったか(笑)音楽関係の広告代理店に転職。以降、それまでのヒットチャートデータと理系的センスを織り交ぜた音楽市場分析が評判となり、05年にT2U音楽研究所を設立し独立。現在は、本業で音楽分析やCD企画をする傍ら、日経エンタテインメント!、共同通信、日経トレンディネット、月刊タレントパワーランキングなどでも愛と情熱に満ちた連載を継続中。Twitterは@t2umusic
 2015年7月8日に発売されたw-inds.の11thアルバム『Blue Blood』は、明らかに流行とは一線を画する、けれどその方向性も全く有りだと思わせるという、実力が伴わなければ上滑り必須というなんとも絶妙でスリリングなダンスミュージック路線をまい進しています。これだけクールでハイレベルな作品、是非とも多くの人に聴いてほしいけれど、アイドル出身ということでなかなか聴いてもらえないのかな〜?でも、サブスクリプション・サービスでの定額聴き放題システムがメジャーになったら、「定額(もしくはタダ)なら聴いてみようかな?」というリスナーも増えるだろうし、先入観は崩れやすいかも。そういう意味では新サービスにも期待しています!