Q)今回のシングルは、安全地帯などの作詞や、最近では、坂本冬美さんの「また君に恋してる」の作詞で有名な、ニューミュージック系の松井五郎さんによる詞ですが、なぜ、松井五郎さんにお願いされたのですか?
演歌の世界の詞だと、表現の仕方に、いわゆる「演歌の詞の形」みたいなものがあって、それなりに大人の人たちが聴いてわかる詞だったりしますけど、そうなると、メロディの方も、ある程度限られてくるんです。「4行詞とか6行詞とかで、1、2、3番…」みたいにな決まった形ですよね。前作の「おしろい花」なんかは、まさに、その世界では、お手本みたいな詞ですよね。だから、今回は、何か、そうじゃない新しさみたいなものが欲しかったんです。それと、松井さんならどういう詞を書くんだろうという興味もありましたしね。それで、今回、お願いして、大変快く引き受けて下さったんですよ。
Q)松井さんの詞を歌われるのは初めてですか?
いえいえ、始めてではないんですよ。過去に、アルバムの中の曲とか、シングルでも書いてもらっています。「また君に恋してる」も、アルバムでカバーしてますしね。でも、松井さんの詞に僕が曲を付けたという意味では初めてですね。もちろん、松井さんは、ニューミュージックを中心に活動されてきたと思いますけど、もう少し幅広く、歌謡曲というか大衆の歌というか、そういう方向に、彼も興味を持っていたと思うんですよね。僕にとっても、今までになかった作品ですから、新しいいい出会いが生まれたなと思いますし、松井さんの世界も、これを機に広がってくれれば嬉しいですね。
Q)最初に「月物語」の詞を見た時にどう感じられましたか?
4作くらいいただいたんですけど、その中で、この「月物語」は、詞の内容がとても素敵だったんで気にいったんです。それと、今回カップリングになっている「トワイライト ブルー」も良かったんで、その2曲に自分で曲を付けようと思ったんです。「月物語」は、女性の恋心の切なさを、月の満ち欠けで巧く表現していてね。松井さんの中での僕のイメージは、「よこはま・たそがれ」とか「夜空」とかそういうイメージで、そこから「月」というテーマが出てきて、松井五郎さんならではの世界に作ってくれたんだと思います。実際、今回、松井さんにお願いしたのも、そういう素敵な詞が生まれてくるんじゃないかと期待していたんですけど、まさに期待通りでしたね。
Q)幻想的で、品のある歌詞で、五木さんの新しい世界を見せていただいた気がします。
今回、松井さんと、初めてがっぷり四つで仕事をしましたから、彼自身のこともよくわかりましたし、今度、オリジナルアルバムを作る時にも、またお願いしようと思っています。以前は、阿久悠さんという偉大な作詞家がいて、あの方なんかは、ジャンルを超えて幅広くいろんな詞を書かれてて、次のそういうポジションに近いのは、松井五郎さんだと思うんです。
Q)メロディもとても印象的です。とくに、サビの「愛されたくて 愛されたくて〜」が耳に残りますが、メロディはすぐに出てきたのですか?
出だしの「眉月の〜」のところのメロディは、すぐに出てきましたね。それで、サビの「愛されたくて〜」のところは、流れで自然とああいうメロディになりましたね。まさに、そうならんばかりに詞が構成されていましたからね(笑)。おそらく、詞を書いている時に、彼の中に音楽があるんでしょうね。だから、メロディを作らないまでも、メロディを作っているがごとく、詞を書いているんですよね。
Q)アレンジも、ストリングスやホーンなどが効果的に使われていてドラマチックです。
詞と曲が出来たあとに、これを、どう音楽的に表現するかということ、つまり編曲に時間をかけましたね。たとえば、2番のサビは編曲的に凝ったりもしましたしね。とにかく、そういうこともさせてくれる作品(歌詞)なんですよね。アレンジャーの宮下さんとは、何度も何度もやり取りをしながら時間をかけて作り上げた作品です。
Q)最初に歌われる時、どう歌おうかというイメージを作られると思いますが、この歌は、どのようにイメージされましたか?
この曲は、とにかく「語り」なんですよね。うまく歌おうというよりも、どう言葉を語れるかということなんですよ。でも、それって逆に一番難しいことで、「ストレートにすっと言葉が耳に入ってくる歌い方ってなんなんだろう?」ということをすごく考えましたね。「歌い上げる」ということよりも、とにかく「語れるか」ということですね。音域も結構広いので難しいんですけどね。音楽って言いうのは、とにかく、イントロとか歌の出だしとか、最初が一番大事ですね。だいたい、歌い出しがうまく語れれば、あとは、流れでうまくいきますね。サビは、ある程度、思い入れをぶつけて歌えますから。
Q)カップリングの「トワイライト ブルー」は一転してアップテンポの歌謡曲調です。
これはもう、「夜空」のイメージで松井さんが詞を書かれて、僕も1970年代の歌謡曲を意識してメロディを書いて、編曲もそういう風にしましたね。ある種、ポップス的な感じもすると思いますが、当時の歌謡曲をイメージしたんです。
Qでも、新しい感じもしますね。
「夜空」から約40年、ほぼ半世紀経てば、なつかしい歌も新しい感じになるんですよね。今、ちょうど周期的には、そういう時期に来ているんじゃないかと思います。流行歌がひとまわりして、70年代のメロディとかがまた戻ってきているんじゃないですかね。前のシングルの「おしろい花」なんかは、まさに30数年前の作品ですけど、それが今、ストレートに受け入れられるっていうのは、それはもう新しいんですよ。だから、思いきって、そのへんの時代のイメージで作るっていうことが、しばらくはいいのかもしれませんね。
Q)「月物語」の中で、とくに気に入っている歌詞の部分はどこですか?
最初に読んだ時、ズキンときた部分が、「悪い女になったのは ずるい男のせいでしょう」ってとこと、それに対比させて、2番で「馬鹿な女で通すのは 好きな男のためでしょう」となっているところです。その2つの部分は、とてもストレートな表現でもあり、ある種下世話な表現なんですけど、全体で見ると、下世話に感じないんですよね。それを言うために、その前で幻想的な世界を作り上げていて、その極端な対比というか構成が見事だなって思うんですよ。もしも、最初から、そんなストレートな表現が出てきてたら、ちょっと強すぎると思うんです。でも、月のイメージを幻想的に表現したあとに、「実はこういう気持ちである…」ということを持ってくる、このバランスが見事ですよね。表彰してあげたいくらいですね(笑)。
Q)この歌は、若い世代の方にも受けそうですね。
この前も、30代後半くらいのラジオの女性パーソナリティが、この歌を聴いて泣いたと言ってくれました。たぶん、松井さんの世代は、「おしろい花」の世代とは2世代くらい違うんですよね。これを聴いて、そういう若い世代にも届いてくれたらいいですね。今まで、五木ひろしは知っていても、あえて聴くことはしなかったような人でも、もし耳にする機会があれば、この歌には感じてもらえると思うんです。そこが開拓出来れば、まさに、松井さんのしてやったりって感じになるんじゃないですかね。「また君に恋してる」で坂本冬美さんを通して、松井さんの世界も広がってきていますからね。
Q)今回の「月物語」もそうですが、「ふりむけば日本海」「契り」「この愛に死んでも」「ふたりのラブソング」など、名曲をたくさん書かれていますが、ご自身で作曲される時と、そうでない時は、どういう風に決めていらっしゃるのですか?
僕は、何がなんでも自分で曲を作るってことには、あまりこだわっていないんですよ。僕が作らなくても、いい歌があればそれでいいしね。極端に言ったら、「五木ひろし」っていう歌手を、ある種、違う視点から見てる自分がいて、ここは「おしろい花」がいいだろうという時もあれば、ここは「月物語」だろうって時もありますからね。そういうことが、僕はとても大事なことだと思いますね。
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