Q)オリジナルアルバムとしては、前作「稲垣潤一」以来9年ぶりですが、今回のアルバムのコンセプトを教えてください。
東日本大震災の前ではあったんですけど、それまで、メールやツイッター、手紙等でリスナーの方々からいただいたメッセージを読んでいると、みなさん、大なり小なり、いろいろと抱えているものがあるんですよね。まあ、誰でもそうだと思うんですけどね。その中で、僕の曲を「自分を奮い立たせる時に聴く…」とか、「背中を押してもらった…」みたいなメッセージも多くて、やっぱり、そういう時代だから、みなさんを元気付けられる曲を届けたいという思いが、ひとつの大きなくくりとしてはありましたね。
Q)ポップソングのお手本みたいな王道の名曲ばかりですが、出来上がってみてどうですか?
これまでデュエットアルバム「男と女」シリーズを3作リリースしていて、それらは基本的にカバー曲なんですね。女性が歌ったヒット曲をデュエット仕様にリメイクしてるんですけど、今回、アルバム1曲目に入れた「思い出す度 愛おしくなる」は、オリジナルでデュエットとして初めての新曲なんですね。他にも、秋元くん作詞の曲があったりしますし、また、以前、僕の作詞で「1・2・3」という曲を書いているんですけど、それに近いテーマの「プラスマイナス〜ZERO〜の法則」という曲を作詞したりと、バラエティに富んだ曲が入っているアルバムかなと思っています。
Q)盟友、秋元康さんによる作詞も久しぶりですね。
秋元くんとはブランクがあって、何年かぶりになるので、最初、どういう詞を提供してくれるのかなという思いがあったんですけど、出来上がった詞を見て、「いまだに彼のセンスは枯渇していないなあ…」と思いましたね。昔からそうだけど、ちゃんと時代とリンクしてるというか、時代を読んでる。時代の前に行っているわけでもなく、後ろ行っているわけでもなく、まさに、時代にジャストという感じでいつもいて、それを自分の作品に反映させているんだなと思いましたね。それが変わっていないなと思いました。「思い出す度 愛おしくなる」「愛を急がない」の2曲を書き下ろしで詞を提供していただいたんですが、なぜか、なつかしさを醸し出しているのが不思議ですね。2曲とも、本当にいい曲に仕上がって嬉しかったですね。
Q)どの曲の歌詞も素敵な世界観です。
歌詞は、作詞家の方にお願いさせていただいて、第1稿が上がってきても、それでオッケーってことには、なかなかならないことが多いんです。第1稿を見て、いろいろ直しの作業をお願いして戻して、それで、また何日か後に来て、また直しをお願いする…、そういう作業を何回か繰り返すことが多いんですね。もちろん、非常に言いにくいですし、そもそも、作詞家の方が一度作った詞を直すっていうのは大変なことですよね。でも、やっぱり、いい作品にするためには、時には、そういう直しが必要な場合もあると思うんです。ですから、そこをよく説明して、納得していただいて直していただくんです。僕が自分で書く時も同じで、何度も直していって、ようやく完成するという感じなんです。曲よりも詞の方に時間がかかりますね。
Q)渡辺なつみさん作詞の「その手を伸ばして」も、感動的な名バラードです。
渡辺なつみさんにも、何年かぶりでお願いさせていただきました。「その手を伸ばして」も、実は、何回も直しをやっていただいたんです。でも、なつみさんは、こちらの意向をよくわかっていただいて、何度か直していくうちに、なつみさんからもいいフレーズがどんどん出てきて、よりいい形になっていったんです。もちろん、ある部分に関しては、前の方が良かったということもあります。そういう所は、「やっぱり、ここは残そうよ」ってことになります。
Q)たとえば、「その手を伸ばして」では、どこが最初からあったんですか?
「それぞれが越えてきた 喜びやあの痛み 運命が思うより 険しくて優しいなら もう一度 僕と ひとつの未来へと その手を伸ばして」の部分ですね。一番最初からではなかったですけど、第2稿くらいからあった部分で、ここは絶対に残したいと思っていた箇所ですね。まあ、誰でもそうなんですけど、やっぱり、なつみさんも、いろいろご苦労されている方で、それを詞に反映させるということで、そういうフレーズが出来上がったんだと思います。まあ、詳しく聞いたわけじゃないけど、やっぱり、なつみさんも「聴いていただく方を元気にしたい」とか、そういう気持ちがかなりあったみたいですね。詞を読んで、そう感じますよね。
Q)「プラスマイナス〜ZERO〜の法則」「たったひとりの君へ…」は、ご自身で作詞されていますが、作詞される曲とそうでない曲は、どのように決めているのですか?
だいたいいつも、先にメロディがあって、あとで歌詞を付ける「曲先」なんですけど、実は、「プラスマイナス〜ZERO〜の法則」は、最初、作詞家の方、何人かにお願いしていたんですよ。でも、僕が思い描いているような詞が、なかなか出来上がってこなくて、どれも、テーマ的にちょっと違うものばっかりだったんですね。
Q)それは、メロディの持っているイメージと違ったということですか?
そうですね。最初、メロディを聴いた時に、「1・2・3」のような応援ソング的にしたいなと思っていたんです。それにふさわしい詞がなかなか出来上がってこなかったから、じゃあ自分で書こうかなって思ったんです。「じゃあ、ちょっと自分で書いてみるよ」ってレコーディングスタッフに話したら、わかりましたってことで、それで、はめていったら、「こういう世界もあるかな」と思えるようなものになって、スタッフもいいと言ってくれたんです。そういう経緯でしたね。
Q)「プラスマイナス〜ZERO〜の法則」は、メロディにのった言葉がとても耳に残りますし、「プラスまで頑張らなくても、とりあえずゼロに戻せばいいんだよ」というメッセージに救われます。
そうですね。誰でも、アゲアゲの日ばっかりあるわけじゃないし、ちょっと天気が悪いだけでそれだけでブルーになったりとか、誰にでもあることだと思うんですよね。そのヘコんでいる気持ちをプラスに変えるっていうのは、ちょっとしたきっかけで出来ると思うんですよね。だから、そういうところをテーマにして作った曲なんです。
Q)「プラスマイナス〜ZERO〜の法則」の中に出てくるような経験、たとえば「僕の顔を見るなり マイナスの言葉を浴びせる…」みたいなことは実際にあったのですか?
それに近いものも経験してますね(笑)。何かに捉われてしまって、客観的に自分を見れないことって誰にでもあると思うんですよ。そこを、ちょっと教えてあげると、いい方向に持っていけるんじゃないかと思うんです。ちょっとしたきっかけで、そういうマイナスの気持ちも変えることができると思うんです。
Q)「たったひとりの君へ…」は、深い感謝の気持ちが入ったメッセージソングですね。
そうですね。いろいろな感謝の気持ちが入っています。たとえば、僕が、リスナーやオーディエンスの皆さんに、逆にサポートしてもらっているという気持ちもあるんです。この前も、仙台で、昔アマチュアのころ歌っていたエリアで、復興祈念のストリートライブをやってきたんですけど、その時にも、もちろん、被災された人たちへという思いはありますが、やっぱり、僕をこれまでサポートしてくれた皆さんのことも思いましたね。だから、「たったひとりの君へ…」というのは、「君たちへ…」という気持ちもあって、それが、ある種のオマージュだったり、テーマだったりしますね。
Q)このアルバムの中で、とくに歌詞が気に入っている曲をあげるとすると、どの曲ですか?
強いて言えば、「その手を伸ばして」と「愛を急がない」ですかね。
Q)アレンジには関わられるんですか?
最初に、アレンジのイメージをアレンジャーさんに伝えてから、実際のアレンジにとりかかっていただきますね。会えない時には、電話で伝えたりもしますよ。「こういう感じに仕上げてくれないかな」ってお願いします。
Q)カバー曲、「黄昏のビギン」「元気を出して」は、どういう経緯で選曲されたのですか?
デュエットカバーアルバムを作っている時、候補曲の中に「これはいい曲だけどデュエットには向かないな」という曲もあったんです。「それじゃあ、デュエット作品にしなくても、自分でカバーしよう」と思った曲の中の2曲ですね。 |