作詞家をはじめ、音楽プロデューサー、ミュージシャン、詩人、などなど【作詞】を行う“言葉の達人”たちが独自の作詞論・作詞術を語るこのコーナー。歌詞愛好家のあなたも、プロの作詞家を目指すあなたも、是非ご堪能あれ! 今回は、シンガーソングライターとして活動しながら、様々なアーティストのコーラスワークを数多く手がけ、作詞提供など作家としての活動も並行して行っている「中嶋ユキノ」さんをゲストにお迎え…!

作詞論
作詞は「ラスボス」のようなものです。
私にとっての作詞は、ラストに登場するボスキャラクター「ラスボス」のようなものです。メロディは12個の音の組み合わせですが、言葉は無限にあります。非常に難しい手強い相手ですが、だからこそ面白く奥深く、素晴らしい歌詞を書けたら最高のゴールが待っています。その楽曲のストーリーやメッセージがしっかりと伝わるかを考えながら、大切に言葉を紡いでいます。
[ 中嶋ユキノさんに伺いました ]
  • Q1. 歌詞を書くことになった、最初のきっかけを教えてください。

    歌詞を書くことになった最初のきっかけは、高校1年生の時でした。授業中自分のノートに、好きな人のことや友達のこと、人には言えない自分の本当の気持ちを、日記のように書いていました。その時「もしかしたら、こういうのが歌詞になるのかもしれない」と思ったのです。その後、日記を歌詞にしてメロディをつけて、自分で歌うようになりました。

    初めて作詞提供させていただいたのは、2004年。当時19歳だった私は、川嶋あいさんのコーラスとしてライブやレコーディングに参加させていただいていて、そこで出会った作曲編曲家の方の元で、アーティストに楽曲提供するためのデモの「仮歌」というお仕事をしていました。

    その方が作ったメロディをその場で覚えて「ラララ」で歌っていたのですが、ある日「歌詞があったほうがわかりやすいから、今この場で言葉を書いて歌ってくれますか?」ということで、15分くらいで1番を書き上げてレコーディングしました。すると後日「あの曲が採用になったんだけど、書いてくれた歌詞もそのまま使いたいということで続きを書いてください!」と嬉しいご連絡がありました。それが、上戸彩さんの「winter love」という曲です。

  • Q2. 歌詞を書く時には、どんなところからインスピレーションを得ることが多いですか?

    私は、映画やドキュメンタリー、そして人との会話や自分が感じたことから、インスピレーションを得ています。例えば最近では、ライブの打ち上げの帰り道にバンドメンバーやスタッフの方と信号待ちをしていたんですが、その時に「『信号が変わったら』というタイトルの曲だったらどんなストーリーになるかな」という会話をしていたんです。ある方は「信号が変わったら、隣にいる恋人と別れて別々の道を歩きだす」。ある方は「昨日仕事でやらかしてしまった失敗を、今日は繰り返さない!信号が変わったら、そこからが新しい1日の始まり」。というように、意見を交わしました。この2つの話は、同じタイトルだとしても、曲の中で描くストーリーや情景は随分と違う。そんな風にして、普段の生活の中の色んなシチュエーションを広げていったりしています。

  • Q3. 普段、どのように歌詞を構成していきますか?

    自分の楽曲は、メロディから作ることが多いので、その段階で仮詞を書いていきます。その時に、楽曲の鍵となる言葉が生まれるので、そこからストーリーを描いていくことが多いです。作詞提供の楽曲は、そのアーティストの方がどんな言葉を歌ったら多くの人に響くか、どんな雰囲気でどんな感情を抱いて生きているのかを最初にリサーチします。今だったら、過去の作品やSNSやブログなどを見たりして、想像を膨らませます。そしてその後、メロディが呼ぶ言葉を見つけながら紡いでいきます。

  • Q4. お気に入りの仕事道具や、作詞の際に必要な環境、場所などがあれば教えてください。

    作詞をするときは、自分の作業部屋でデスクトップのパソコンに向かって書くことが多いです。そしてある程度書いたら、それをノートパソコンと携帯に移して移動中の電車の中などで、読んでみて直したりします。

  • Q5. ご自身が手掛けた歌詞に関して、今だから言える裏話、エピソードはありますか?

    菅原紗由理さんに提供させていただいた「キミに贈る歌」この歌詞を書いている当時「絶賛片思い中!」だったのです。何をしていても、その人のことが頭から離れずにいて、歌詞を書かないといけないのに「それどころじゃない!」という状態でした。なので「いっそのこと、この気持ちを歌詞にしてしまおう」と10分くらいで書き上げたのがこの歌詞でした。のちにセルフカバーをさせていただいたのですが「作詞提供した楽曲」なのに「当時の自分のノンフィクション恋物語」で、今思うと自分でも恥ずかしいような淡い思い出の曲です。

  • Q6. 自分が思う「良い歌詞」とは?

    世代を超えて、時代を超えて、愛され歌い継がれていく歌詞。人生の何かのきっかけになったり、励まされたり、背中を押されたり、共感できたりする歌詞だと思います。ただ、歌詞というのは「良い」「悪い」「◯」「×」ではないと思うし、まさに「人それぞれ」誰からも良いと言ってもらえないからといって「良くない歌詞」とは限らないとも思っています。

  • Q7. 「やられた!」と思わされた1曲を教えてください。

    中島みゆきさん「
    人と人が巡り会うこと、生きていくこと、繋がっていくこと、 それを短い文章の中でとても繊細に描かれた楽曲だと思います。

  • Q8. 歌詞を書く際、よく使う言葉、
         または、使わないように意識している言葉はありますか?

    私は、人を描いている歌詞を書くことが多いので「一人称(わたし、ぼく)二人称(きみ、あなた)をよく使います。特に「君」「キミ」「きみ」というように、表記の仕方にもこだわりを持っています。耳で聞けば同じですが、歌詞として見たときにその物語にあった表記を選びます。

  • Q9. 言葉を届けるために、アーティスト、クリエイターに求められる資質とは?

    今はいつでもどこにいても、インターネットなどで楽曲を聴いたり、ミュージックビデオを見たりできる時代です。そこには、歌詞もちゃんと載っています。しかし、ライブでは、歌詞を見ながら聞くことはほとんどありません。なので、その楽曲を耳で聞いて「歌詞を見なくても言葉が伝わってくる。ちゃんと心に言葉が入ってくる」ということがとても大切だと思います。

  • Q10. 歌詞を書きたいと思っている人へのアドバイスをお願いします。

    「歌詞を書く」となると、一体どこからどうやって書いたらいいかわからないという方が多いと思います。そんな時は、私が授業中にノートに書いていたように、まずは自分のその日感じたことや出来事を書いてみて下さい。どんなに短くても、それを毎日の日課にすることによって、見返してみるとその中に「キャッチフレーズ」があったりします。初めはメロディに言葉を当てはめていくのではなく、自分のオリジナルの「キャッチフレーズ」を見つけてみて下さいね。

歌 手
中嶋ユキノ
タイトル
最後の恋
ラブソングは世の中にいっぱいあると思いますが、この曲で誰かの「恋」や「愛」がもっともっと深くなることを願って物語を描きました。
2003年よりシンガーソングライターを目指し活動を始め、川嶋あい、水樹奈々、ももいろクローバーZなどのライブのバックコーラスや華原朋美、ポルノグラフィティ、久保田利伸などのレコーディングコーラスなどコーラスワークを数多く手がけながら、中森明菜、上戸彩、AAAなどへの作詞提供など作家としての活動も並行して行う。

2015年、浜田省吾のアルバムにフィーチャリングボーカリストとして参加したのをきっかけに、ツアーバンドのメンバーとなり、2016年に浜田省吾プロデュースでメジャーデビューアルバム「N.Y.」をリリース。リリース後、品川クラブeXにて計4回のワンマンライブをすべて成功させる。2017年には、セカンドアルバム『空色のゆめ』をリリースし、中嶋ユキノ アコースティックライブツアー「空色のゆめ旅2017」を6カ所で開催、殆どの会場でSOLD OUT、東京公演としてバンド編成で「空色のゆめ歌2017」を開催。

2018年には、「春色のうた旅2018」を10カ所で開催。同年10月10日、3rdアルバム『Gradation in Love』をリリースする。現在、アコースティック編成で全15公演の「春夏アコ旅」を開催している。
INFORMATION
中嶋ユキノ
3rd ALBUM
『Gradation in Love』
2018年10月10日発売
SECL-2334
¥2,778(税抜)



<収録曲>
01. Magenta Skyline (作曲:宗本康兵)
02. もう二度と (作詞・作曲:中嶋ユキノ)
03. 冬になると (作詞・作曲:中嶋ユキノ)
04. 1分1秒 (作詞・作曲:中嶋ユキノ)
05. 恋模様 (作詞・作曲:中嶋ユキノ)
06. 最後の恋 作詞・作曲:中嶋ユキノ
07. 大丈夫は大丈夫じゃない (作詞・作曲:中嶋ユキノ)
08. 僕はボク (作詞・作曲:中嶋ユキノ)
09. キミに贈る歌 (作詞・作曲:中嶋ユキノ)
10. 夢の中で Merry Christmas (作詞:中嶋ユキノ 作曲:Sin)
11. お・ふくろうママの歌 (作詞・作曲:中嶋ユキノ・浜田省吾)