―― 尾崎さんが「モノマネ」でとくに好きなフレーズというと?
歌と言葉がいちばん交ざりあっているのは<でもあなたが笑ってたから 何も知らないあたしはただ笑ってた>ですね。最後のサビもちょっとこだわっていて、丸々増やすのではなく、一行だけ増やしているんです。メロディーにもセブンスの要素を加えて。そこに辿り着く直前の助走となるフレーズなので、ここは好きですね。
あと2番のサビで、すごく決着がついたと思っています。レコーディングをしているとき、映画のプロデューサーの方も来てくれていたんですよ。もともとクリープハイプを聴いていてくれて、その方に今回オファーをいただいて。2番の歌詞はレコーディングをしながらスタジオで書いていったんですけど、それを歌ってみて、なんとなく歌詞を見ながら聴いてもらったら、その方が泣きながら「この曲で登場人物が報われた気がします」と言ってくださって。そのとき、この曲を作ることができて本当に良かったなと思いました。
―― その方が泣いてしまう気持ちもわかります。尾崎さんの新曲の歌詞を読むたび、天才だ…と思いますよ。
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ありがとうございます!歌詞に関してだけは、人に意見を訊かないんですよね。他の表現においては、歌も、ギターの演奏も、メロディーも全部、みんながどう思っているのかを気にしてしまうんですけど。歌詞だけは「これで大丈夫かな?」と思うことがないんです。できればすべての表現を、歌詞のような感覚で送り出して、その反応を受け止められたら良いんですけど。歌詞だけは、唯一自信を持てるものなんです。
―― クリープハイプでは、長谷川カオナシさんが作詞を担当されることもありますが、彼の歌詞にはどんな特徴があると感じていますか?
自分の影響を受けているなとも感じるし、ちゃんとクリープハイプっぽさも意識していると思います。ある程度、曲の雰囲気だけ発注するんですよ。8割ぐらいアルバムの全体像が見えてきたら「今回はこういうアルバムになりそうだから、こういう曲を作って」と。その曲のテンポや雰囲気に合わせて書いているんでしょうね。でも最近は、ひとつテーマを設けて書いていて、自分の書き方に近いと感じています。きっともう、自分らしさとか、バンド内での立ち位置とかわかっていて、そこの住み分けができていると思います。だからこっちから、こういう歌詞を書いてくれと言ったりすることもなくなりましたね。
―― 尾崎さんは、意識して使わないようにしている言葉ってありますか?
いつか消えてしまいそうな言葉ですね。「ぴえん」とか(笑)。あえてその言葉に意味を持たせたいときは使うこともありますけど、基本的には避けます。
―― 「LINE」はどうですか?
絶対に使わないですね!あと「iPhone」も、駅名も。
―― 簡単にリアリティーが出せてしまうからでしょうか。
本当は歩いて行かなきゃいけないところに、飛行機で行く感覚というか。山のてっぺんに行くまでに、ヘリコプターを使ったなと感じてしまうんです。そういう言葉を引き受けていくのも、それはそれで覚悟があると思いますけど。イメージが固まるので、それでも伝えたいことがあるのかどうか。自分はそうじゃないから、そういう言葉は使わないようにしています。
あと、気持ちに飲まれないようにもしていますね。もともとメロディーに気持ちが表れているので、歌詞までそこにいっちゃうとダメなんです。歌詞は熱を冷まして、業者のひとみたいに「こういう理由でこうなりました」と冷静に説明できる熱量で書いています。
―― 逆によく使う言葉はありますか?
匂いに関する言葉は多いですね。
―― 五感で嗅覚がもっとも鋭いとか?
そうなんですよ。目が悪いので。以前スガシカオさんに、自分が書いた文章を読んで頂いたときに「目が悪いでしょ」と言われましたね。あれは小説だったと思うんですけど、やっぱり歌詞でも匂いの描写は多いですね。
―― 尾崎さんにとって歌詞とは、どういう存在になるのでしょうか。
すごく恥ずかしいものです。メロディーがあって初めて立てる、フラフラした頼りないもの。もともと自分にとって「歌詞は恥ずかしいもの」というのが出発点だったんです。だから、早くこれにメロディーをつけないと、歌わないと、成立しないという焦りがずっと頭の中であって。でも、そういう恥ずかしさこそがすごく大事でしたね。メロディーがなくても立ちあがれるものにしようと、本当に頑張って歌詞を書いているので。もし、その恥ずかしさがなくて、最初から「こんなの単独でも成立する」と思っていたら頑張れなかったと思います。すごく恥ずかしい存在だったからこそ、いちばん自信を持てるものになったんだと思います。