―― ここからはEP『BYE』収録曲のお話を中心に、アルバム『FATE』全体についてもお伺いしていきます。まず『FATE』というタイトルや<出会い・別れ・運命>というアルバムテーマは、いつ頃に思いついたのでしょうか。
ずっと温めていたアイデアではなく、わりと最近です。今年6月頭ぐらいに、9月にアルバムを出すことが決まって。でもこれまで3枚もフルアルバムを出しているから、同じことをやってもつまらない。そこで「全部の曲を聴いてもらうことはできないんですかね」ってチームに相談したんですよ。最初は「まぁアルバムって、リード曲を聴かれるものだからね」みたいな感じだったんですけど、そこをなんとか頭捻りましょうよと。それで、先にEPを2枚出してからアルバムを出す、3回リリースできる形を取ることにしました。EPで3曲ずつにフォーカスを当てて、ストーリー性を持たせて、最終的にはアルバム全部の曲が主役になり得るんじゃないかなって。
それを6月の頭に思いついて、やりましょうとなったわけです。ただ、もともと9月に全曲できあがっていれば良い想定のスケジュールでいたのに、そのプランでいくと1枚目のEPがもう7月リリースなんですよ。でもやるって言っちゃったから。7月の段階で絶対に3曲は完パケさせなきゃいけなくなって。だからそこから急ピッチで大変だった。いや本当に『FATE』作るの、めっちゃ大変だった!フル稼働し続けた感じですね。
―― アルバムから単曲先行配信はよくありますが、EPを2枚も先行配信ってなかなかありませんよね。
1曲だけじゃ絶対にもったいないと思った。全員が主役になりたいって言っているから。でも、曲作りをしているときは、目の前の曲としか向き合ってなくて、全体像とか忘れちゃっているんですよ。そうじゃなきゃスケジュールに追いつけなくて。で、全部の曲作りが終わって、改めて「このアルバムってどんな曲が入るんでしたっけ?」って、今まで作り続けてきた曲が並んでいるリストをパっと見たとき、すごいラインナップやん!って思ったんですよね。自分のなかで、アルバムのどの曲でも主役を張れる。気づいたらこんなにタレント揃いのアルバムになっていた驚きがありましたね。
―― ではまず、EP『BYE』の1曲目であり、アルバム『FATE』の入り口にもなっている「夢醒めSunset」について。
これ、最初パっとタイトル見たとき、なんて読んだ?
―― “ゆめざめサンセット”だと思いました。
やっぱりそうだよね。もともとこの曲は「夏の夢、醒め(なつのゆめ、さめ)」ってタイトルだったんですよ。3年前の「夏の夢」の続きの歌をイメージしたから。でも「夏」というワードを入れると、その季節だけで終わっちゃうというか、夏でしか動けないなと思って。すごく良い仕上がりになったから、もっとひとり歩きを応援したくなりまして。それで「夏」を外して別のタイトルを考えたんです。ただ、僕たちはもう「夏の夢、醒め」で覚えちゃっていて、ずっと“ゆめさめ”って呼んでいたので、「夢醒めSunset(ゆめさめサンセット)」となりました。まぁみんな「目覚め」のほうに引っ張られて“ゆめざめ”って読むから、そっちにすれば良かった(笑)。
―― 「夢醒めSunset(ゆめさめサンセット)」は、さらさらさらっとした語感が良いなと思います。
そう!“めさめさ”って語感が良いんですよね!これはおもしろいタイトルになりました。
―― また、ひとり歩きを応援したくて「夏」の縛りを取ったとおっしゃいましたが、さらにこの歌はラブソングのみならず、もっと器が大きい歌である印象を受けました。
そうなんですよ。これはラブソング一点ではなくて、群像劇みたいなイメージかな。もちろん自分もそこにいるんだけど、1曲のなかにいろんなひとたちがいる。だからビリー・ジョエルの「ピアノ・マン」みたいな感じですね。
―― それはどんな内容の歌詞なのでしょうか。
ビリー・ジョエルが時化た田舎のバーでピアノを弾いている頃の話で。そこに来ているお客さんとかバーテンダーのことをAメロ1番2番で歌っていくんですよ。たとえば、ある奴は酒を呑みながら「こんな田舎にいなけりゃ、俺はハリウッドスターになっていたんだ」って言っている。あるウェイトレスの女性は酒を配っているけど、実は社会学を勉強している。その店にいるそれぞれのストーリーを切なく歌うわけです。
そして最後、自分がライブに出ていくとき、マネージャーが呼びに来るんですね。そこに<マネージャー>という言葉を入れることで、もうフィールドが違うことが表れている。つまり、もうそこのバーじゃなくて、大きなステージで歌うぐらい俺も大きくなったよ、っていうことを表現している。でもそんな大きいステージで歌うときでも、ピアノはそいつらのためのカーニバルを弾くし、マイクからはビールの匂いがする。…っていうイカした曲があるんですね。まぁ「夢醒めSunset」もそういう感じで。1番は友情に寄っているんですけど、2番は恋愛が匂ってくるという。
―― なるほど。ひとりではなく、それぞれの夏の夕暮れの一瞬が切り取られているんですね。個人的に1番Aメロの<「いいやこっからだな」って 氷噛んでいこう>というフレーズが刺さったのですが、ここの登場人物の気持ちというと?
あー!ここはね、仲間同士でずっと遊んでいて、お酒も呑んでいて。それで寝ちゃいそうなとき、<なんだかダルそう>なときってあるじゃないですか。でも本当は「ここからが楽しいのに!」って思っているひとの気持ちなんですよ。「まだまだ行けるっしょ!こんなところで潰れられないっしょ!」って、目覚ましに氷を噛むんです。ちなみにこれは、僕のバックバンドの若さんというひとがモデルですね(笑)。別に若さん氷噛むわけじゃないけど、海の男である彼が言いそうな言葉というか。
―― 2番Aメロのほうも登場人物の具体的なイメージ像はありますか?
いや、2番は想像なんですけど、1番より2番のほうが、どこか自分自身がいる気がします。
―― ここの<思い浮かんだ超絶ストレート 「ひとりよりもふたりがいい」>というフレーズも好きです。シンプルな「ひとりよりもふたりがいい」という恋心が、言葉の組み合わせでより際立つと言いますか。
ちょっと手前でちょけないと、甘ったるくもなっちゃいますよね。でも<超絶ストレート>って前置きがあるからこそ、逆にすごく効く。これはギミックですね。たしかにここは良いバランスで書けたな。
―― ご自身でとくにお気に入りのフレーズを教えてください。
僕やっぱりメロディーとの絡みを重視するので、それでいうと<同じ昔話がまた こうして花を咲かす>って言葉をあのメロディーにはめられたところですね。<咲かす>が良い。メロディーとの共存という意味ですごく好きです。
歌詞だけだと<行き返りのEverydayを やめてステイタスに Ride On>かな。この<ステイタス>って言葉のチョイスも好き。これはお金持ちとか社会的地位を表す<ステイタス>も1割ぐらい含んでいるんですけど、9割は“現状”ってことなんですよね。現在の状態のことも<ステイタス>っていうじゃないですか。つまり今の主人公の状態、成長度合いを意味しているんです。だからフレーズとしては「今この状態に乗っかろうぜ!」みたいな感じ。
―― 主人公の今にみんな乗っかろうぜ!という呼びかけだったのですね。Aメロで個々の群像劇を描いていたところから、ひとつになるような。
そうそうそう。まぁそういう意味も含め、言いたかったことはすべて、冒頭の2行<誰も意味を探さない この瞬間は戻せない>に集約されているのかなと思いますね。