―― さらに今回の収録曲で今、來未さんがもっとも気に入っている曲というと?
やっぱり「Trigger」はカッコいい。それこそ倖田來未っぽい楽曲だなって。これは2023年のツアー演出を見据えて書きました。モンスターの世界観を表現できるなと。
―― 歌詞は<こんな自分>に“「Trigger」=引き金”を引くというイメージですよね。
そうそう。<Pull the Trigger>って強い言葉を使って、自分の弱さを撃ち殺すみたいなイメージで書きました。人間って、自分で自分が傷つくことをしがちじゃないですか。たとえばSNSで見なくてもいいものを見ちゃったり。やらへんかったらええやん!って思うんだけど、まぁダイエットと同じで。食べないって決めても食べてしまうように、どうしても見てしまう。それが人間やし。でもそういう自分の弱いところを潰すことによって、笑えるところもあるよなぁって。
―― 3曲目「BLACK WINGS」でダークゾーンのスイッチが入り、この「Trigger」へ繋がるのもカッコいいです。
ね! 私は「Wings」と「Trigger」って紙一重だとも思っていて。優しいエンジェルである「Wings」に対して、「Trigger」はモンスターというか、強い女みたいなイメージが浮かぶ。でもそれってどちらもひとりの心のなかに在って、まさにスイッチひとつで切り替わるんですよ。
そして必ずしも「Trigger」が悪なわけでもない。エンジェルなら「お節介やからいらんこと言わんでええ」って隠すことも、あえて言ってあげる強さが「Trigger」にはある。見た目だけではわからない魅力というか。そういう意味で「Trigger」では、派手なメイクをして見た目は強気だけど、実は心のなかは傷ついているような女の子を表現したかったんです。みんなにもその本質に気づいてほしいなって思ったりもしてね。
―― 來未さんも「Trigger」の心情がリンクするようなときがありますか?
あるよぉ! 私、蚤の心臓って言われてんねんから。寂しがりのうさぎちゃんやし。気にしいやし。でもそれって倖田來未っぽくないじゃないですか。だからこそ抑え込みたいし、堂々としたいのに、やっぱりウジウジする自分が出てきてしまう。だってもとは京都の田舎者よ? それが倖田來未になるためには、あのままではダメよね。倖田來未には倖田來未でいてほしいと自分自身が思うから、そこはすごく意識しているかもしれない。
―― 常に理想の強い倖田來未像があるんですね。
そうそう。倖田來未は守りに入ってほしくないの。それこそ最近、「倖田さん、おいおい、ちょっと尖ったことできてへんのちゃう?」とか思うところもあって。でもだからこそ今回、「Trigger」みたいなダークな楽曲と「Wings」や「Hello Yesterday」みたいな聴いていて心地よくなる曲をどちらも収録できたのは、いいバランスなのかな。
―― 6曲目「It’s “K” magic」は、オリックス・バファローズの黒木投手の登場曲として書かれた楽曲ですね。
彼はずっとファンクラブ・倖田組にも入ってくれているんですよ。で、たむけん(たむらけんじ)さんが知り合いなんですけど、たむけんさんから私に電話が来て、「隣に黒木いるし代わってええか?」って。そうしたら黒木選手が、「2軍やったんやけど、1軍にまた戻るから、曲を書いてほしい」って言うから、そんなら頑張って書くわ!って作った曲なの。
彼のピッチングしているところを観たり、今までの彼の業績をデータ収集したり、たむけんさんに彼の弱い部分を聞いたりして歌詞を書いていきましたね。彼の得意技がストレートのピッチングなので<ストレートにぶち込む>ってフレーズを入れたり。まさに一球入魂というか、勝負に出るときに聴きたくなるような曲になりました。
―― サビには<未来の自分誇りたいのなら 今の自分次第やん>と関西弁が入ってるのも印象的です。黒木選手にとっては、來未さんが応援してくれているかのようなフレーズに聴こえるのではないでしょうか。
そうだといいなぁ。黒木選手が私のファンでいてくれて、たむけんさんも「倖田が言ったら絶対に頑張りよるからこいつ」みたいな感じで言っていてね。私の言葉に聴こえたらいいなって気持ちもあったから、つい倖田來未が出ちゃいました(笑)。なんか「恋のつぼみ」の関西弁とはまた聴こえ方が違う、カッコいい関西弁の曲を作ることができたのも嬉しいです。
―― では、もう少し作詞のお話をお伺いします。どんなときに歌詞を書きたくなることが多いですか?
楽曲によるんですけど、私は曲を聴くと歌詞が降りてくるタイプなんですよ。メロディーを何回も聴いているうちに、言葉に聴こえてくるというか。たとえば「WALK OF MY LIFE」って曲の<枯れた落ち葉は悲しげに ハラハラと眠りにつく 周りがそう見るだけで 本当は笑ってるんだ>ってフレーズもそうで。仮歌は英語だったんですけど、メロディーからもうこの日本語詞にしか聴こえなくて。
そのあとの<人がどう思うかではなく 自分がどう生きたか>も、そういう力強いパワーワードを入れたいって、ずーっと聴いていると歌が教えてくれるの。逆に、「今回は失恋ソングにしてください」って言われても、その曲がそう言ってなかったら、「どうしよう…」ってなっちゃう。だから楽曲選びにはすごく時間がかかりますね。
―― 歌詞面で影響を受けたアーティストというと?
DREAMS COME TRUEさんやね! 直球系。なんか久々にまた直球系ラブソングを書きたくなってきたなぁ。でもキュンキュン系をリアルな感じで書くとしたらもう、うちの旦那さんにフェイク浮気してもらうしかない(笑)。それぐらいのパンチがないと書けへん気がする。
―― これまでいろんなタイプの楽曲を書いてこられたかと思いますが、ご自身が描く主人公像に何か共通する特徴や性質ってありますか?
主人公ではないんだけど、歌詞の特徴として、絶対に最後のサビでは未来を見せるというのはありますね。希望の光がちょっと垣間見えるというか。どん底のまま終わる曲も「Rain」とか何曲かあるんですけど、歌っていて自分が悲しい! だから1番2番でどんなに落ちても、Dメロからのラストサビではどん底から這い上がってもらいたい。音楽でパワーをつけてもらいたい。そこはいつも意識しながら書いていますね。
―― ありがとうございます!では最後に、これから挑戦してみたい歌詞を教えてください。
うちの息子が『SPY×FAMILY』を観ながらね、オープニング曲のOfficial髭男dism「ミックスナッツ」を歌っていたんですけど。<袋に詰められたナッツのような>から始まって、<胃がもたれてゆく>で終わるんですよ。すごい歌詞やな!って思って(笑)。でもめちゃくちゃフレーズが耳に残るの。そこで、「え!倖田來未の楽曲で<胃がもたれてゆく>って歌詞は今までない!」と思って。そういうおもしろい言葉ってあるんだなって。
だからある意味、倖田來未というフィールドからはみ出たワードを使った楽曲も書いてみたいなと思いますね。そのためにはまずそういう楽曲と出会わなきゃいけない。そのとき自ずと、「ちょっとこれ遊んで書いてみようかな」って挑戦ができるのかなと思いますね。
―― 息子さんも音楽との出会いの窓口として大きな存在ですね。
そう、めっちゃ大きいの! ヒット曲のショートムービーとかあるじゃないですか。ああいうのもたくさん息子は見ているから。「子どもにはこういうメロディーが刺さるんだ」とか、「たしかに耳に残るな」とか、そういうフレーズのヒントを息子からもらうこと多くて。そういう楽曲ならライブにお子さんを連れてこられるファンの方も、お子さんと一緒にも楽しめるかなとか思ったり。
自分の楽曲も、息子が3歳ぐらいまでは、彼の反応を観ながら作っていましたよ。デモテープかけて、子どもがノりだしたら、「いいんや!」みたいな。今回の「Wings」なんかも「いい曲だね」「これパパが作ってるやで」「そうなん!?」みたいなやりとりをしたり。今、息子は友だちのような存在でもあり、楽しみながら音楽を共有している感じですね。