昔から私は「愛とは手なずけられないもの」だと思っていて。

―― アルバム『BLONDE16』というタイトルはどのようにたどりついた言葉でしょうか。

まず、「なんで『BLONDE16』なんだろう?」って思ってもらえるタイトルにしたかったんです。今まではわりと前作『WHO LOVES ME』のように、読めば意味がわかる言葉にしていて。でも今回は想像してほしかった。

実際の意味としては、最初に「16」という数字が頭にありました。今回のアルバムは、デビューした16歳のときの自分のフレッシュな感性に戻った感覚があったから。そして初めて髪をブロンドにしたのも16歳のときだったので、自分の見た目を表している言葉も加え『BLONDE16』となりましたね。

―― 先ほど、「当時は今の10倍ぐらい気が強かった」ともおっしゃっていましたが、改めて今振り返ると、どんな16歳だったと思いますか?

自分みたいなひとはいなかったと思う。あと、自分が抱えている問題を他者に知ってもらいたかったかなぁ。これはずっと思っていることなんですけど、ひとって自分の話をいきなりしないじゃないですか。だけど「この曲を聴いている」「私も好き」というだけで、なんかわかりあえる。「このひと同じ感覚なのかも」って思える。そこが音楽の素晴らしいところだなって。

自分の音楽を受け入れてもらえるってことは、自分と同じ問題を抱えているひとが他にもいるってことなんですよ。その事実で自分は救われる。そして、誰かを救えると思ったことはないけれど、聴いてくれたひととも繋がることで一緒に強くなれる気がする。そういうことを思っていましたね。それが今も自分の歌う意味かな。

―― ファンの方々の『BLONDE16』の感想を拝見したのですが、「懐かしさと新しさのどちらも感じる」という声が非常に多いですよね。

photo_01です。

そうなんですよ。デビュー当時の空気感もわかりつつ、進化しているスキルにも気づいてくれて、「新しく感じるけどスッと入ってくる」と言ってくれていますね。

私としては「自分の普通に戻った」感覚があります。音楽を始めたとき好きだったサウンド、歌詞のマインド、これが自分の思っている自分なんです。さっきお話したように、世の中は私のことを誤解しているなと思いながらやってきたので。二十歳ぐらいからずっと。やっと本当の自分らしいアルバムを出せたなと思います。

―― これまではやはり「報われない恋」というか、歌のなかで<あなた>が上位にいるイメージがあります。でも今作は<私>のほうが強いですよね。自尊心を持っている主人公が多いなと。

そう、こういうアルバムってこれまでの自分にはなかったと思います。あと世の中が求めてなかったとも思う。

―― とくに1曲目「Respect Me」は、アルバム全体のマインドの強さを象徴する1曲ですね。

私の曲でここまで強い歌詞はないかな。このマインドは最初から決めていました。曲を作り始めたタイミングで<RESPECT ME>と聴こえていたので、もうこれでタイトルは決まりだなと。そして、自分をもっと肯定することって、今の私がいちばん伝えたいことなんですよね。

―― たとえば、5曲目「KILL MY LOVE」には<大事にしたいのは自分がいい>、11曲目「CryBaby」には<I never give up on my wish>というフレーズがあったり、常に優先順位が自分自身であるように感じました。

そうなんです。今回は一貫していると思います。日本人だから謙遜もひとつの美学としてあると思うんですけど、「私なんて…」ってマインドじゃなくて、自身をもっと評価して、崇めてもいいんじゃないかなって。自分をいちばん大事にすることこそ、もっとも健やかだし、人生がよくなっていく。私もいろんな経験をしてそう思うんです。そこをめっちゃ伝えたい。今回の収録曲にはすべてそういう想いが込められていますね。

―― 12曲目「愛の人」はとくにファンの方々からの人気も強い曲です。ミリヤさんの二人の息子さんに捧げるラブソングとして作られたんですよね。

息子が生まれたことで、自分の人生がものすごく変わった。自分がずっと欲しかった永遠の愛を手に入れた感覚なんですよ。でも、加藤ミリヤというアーティストの表現のなかで、自分が母であることの発信ってあまり必要ないと思っていて。だってデビューしたときは16歳の女の子だったわけで。そのときから作り上げてきたミリヤ像が確固たるものとしてあるから。

だけど、ファンの子が求めてくれたから書くことができた曲だと思います。やっぱり自分は母として身体ひとつで生きているし、1曲ぐらいは入れてみようかなって。そういうタイミングでたまたま、この曲を一緒に作ってもらったKMさんが送ってくれたトラックを聴いて、「あぁもう歌詞の内容は子どものことしかないな」って。音に導かれたところもある曲ですね。

―― ミリヤさんはこれまでたくさんの愛を歌われてきましたが、やはり「愛の人」の“愛”の性質はこれまでとは違う気がしますね。

昔から私は「愛とは手なずけられないもの」だと思っていて。いつまで経っても答えがないのをわかっているからこそ、それを知りたくて追及するし、書き続けているんですね。でも子どもに対する愛に関しては、まさにまったく別で、「手なずけられる」って感じかな(笑)。初めて愛の手なずけ方がわかる感じ。自分の血だから、どうしたら楽しいかとか手に取るようにわかる。こういう愛を知ることができたのも大きな変化ですね。

―― ちなみに息子さんはもうミリヤさんのお仕事を理解されていますか?

めちゃくちゃ理解しています。歌うひとなんだって。今日も連れてきているのであとで挨拶させますね(笑)。出産してから、「息子が私のやっていることを理解するまでは頑張ろう」みたいな想いがあったんですけど、こんなに早くわかってくれたのかと。初めて聴かせる曲でも、声で私の歌だとわかるみたいです。

―― もしかしたら将来、同じ音楽の道に行くかもしれないですね。

どうかなぁ。こんな大変な道に…。いや、でも最近、思うんですよ。息子に限らず、書くことはみんなにオススメだなって。今の時代、音楽を作ること自体も昔ほど難しくなっているし。別に歌にならなくても、自分の想いを形にするって素晴らしいことで。

歌ネットに来る方は、きっと歌詞に対する感度が高いじゃないですか。書いてみたいひと多いと思うし、私が音楽を始めた頃も、作詞が趣味のひととか結構いたから。モヤモヤしたとき、書くことはすごく癒しになるし、メディテーションというか、心が楽になったりするのでね。ぜひ歌詞は書いてみてほしいなと思います。

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