―― アルバムタイトル『Bell』はどのようにたどりついた言葉なのでしょうか。
キーワードとしてひとつ、「僕らはカリスマじゃない」というところがあって。たとえば、TikTokで曲のワンフレーズがバズった経験もない。友だちから聞いたり、たまたま車で流れていたり、リリースイベントで通りかかってくれたり、歌ネットさんで歌詞を見てくれたり、そういうひとたちがもう1クリック、もう一歩、踏み込んでたどり着いてくれて、好きになってもらえるのがTHE BEAT GARDENの音楽だと思うんです。
だから収録曲が揃って、タイトルを考えるとき、「自分だけじゃ鳴ることのできない何かないかな?」って思って。そこから『Bell』というワードにたどり着きました。ベルは、すごくいい音が鳴るかもしれないけど、置かれているだけでは反響しない。誰かや何かに揺らしてもらって、鳴ることができる。僕らの音楽も同じなんです。
さらに『Bell』には「幸せを呼ぶ」とか「幸せの始まり」という意味もあるみたいで。このアルバムがそういうものになってくれたらいいなという思いも込めました。
―― アルバムの入り口で鳴るベルとして、やはり「Start Over」は強い1曲ですね。ドラマ『六本木クラス』の挿入歌に決まったとき、いちファンとして嬉しかったです。
いやー、僕らも本当に嬉しかったです。実は2年ぐらい前から、そういうコンペがあるかも、って話は聞いていて。僕らはもともと韓国ドラマ『梨泰院クラス』のファンでしたし、THE BEAT GARDENも、オーディションで抜粋された3人ではなく、事務所にピンポンしに行って、路上ライブして、0からスタートした3人なので、あのストーリーがすごく好きで。「俺らが歌えたら本当に嬉しいね」って話をしていたんです。
当時はまだ日本語詞を書けるかもわからなかったので、Gahoさんの「START」をとにかく韓国語で完コピしておこうと。3人で借りていた部屋で、ずっと練習していました。だから挿入歌として歌えることが決まったときは僕ら、願うだけじゃなくて、ちゃんと準備していたからもらえたプレゼントなのかもなぁと感じましたね。
―― もともと韓国語だった歌詞を、日本語にして乗せるのは難しかったのではないでしょうか。
あまりにも世に馴染んでいる曲だったので、そのプレッシャーはありました。でもGahoさんの「START」が伝えている思いは、歌声からもリズム隊からもドラマからも伝わってきていたので、「あのストーリーに合う言葉を綴れば大丈夫」だって思えて。原作と原曲に自信をもらえた部分は大きかったです。とにかくあの曲が大好きだったんだと思います。なので難しかったんですけど、楽しみながら書いていきましたね。
―― 原曲「START」の歌詞と「Start Over」を聴き比べてみると、THE BEAT GARDENのほうがより恋愛要素というか、<君>の存在を濃く感じました。

そこは意識しましたね。『六本木クラス』の台本をいただく前にもう歌詞を書き進めていたんですけど、『梨泰院クラス』は夢を追いかける物語の隣にいつもラブストーリーがあって。それはきっと『六本木クラス』にも通じているだろうなと。あと主人公・宮部新も、ひとりじゃ叶えられないものをみんなで叶えているってわかっているはず。だからラブソングとしても、仲間の歌としても成立する歌詞がドラマに合ってくれるんじゃないかなと思って書きました。
―― では、さらにアルバム収録曲で、Uさんの推し曲を挙げるとすると?
やっぱり「心音」だと思います。推しというより、今のこの瞬間じゃないと書けないし、リリースできない曲だなって。
―― コロナ禍から今に至るまでのTHE BEAT GARDENが詰まっていますよね。
ここ数年はデジタルリリースをする上で、流行という要素が必要なものだと思いながらも、うまくできない自分へのもどかしさがずっとあったんです。見たこともない名前のミュージシャンが突如1位になったり、すごく短い秒数で楽曲がバズっていったり。でもそれは僕らが救われてきた歌詞とは少し違う気がして…。流行歌というものではなく、大好きな曲をずーっと聴き続けるタイプの人間なので、そことの葛藤はすごく苦しかったですね。
「心音」は、そういう期間を抜け出せるかもしれないフェーズに入れたから作れた曲だと思います。コロナ禍では先が見えなすぎて、苦しさをリアルタイムで歌詞にすることはできませんでした。ずっと寄り添ってくれたファンがいて、ここに連れてきてもらえたから、やっと<僕ら>という言葉を使って「一緒に行こう」と伝えられたんだと思います。
―― とくに<ひとりで飲み込んでいた痛み聞かせてよ 押し込めるしかなかった涙をほどいてよ>というフレーズは、先ほどの握手会のお話にも通ずる、THE BEAT GARDENからファンの方への思いを感じます。
まさにそうですね。僕らの曲について返してくれた言葉のなかに、想像よりずっと苦しいそのひとの現実があったり。インスタのDMに、ストーリーの数秒には載っていないそのひとの本音があったり。ファンの方からのコメントに「目を通してあげている」んじゃないんです。そのひとたちに届かない歌を書いて売れても、まったく嬉しくないから。僕ら3人とも、「誰より必要としてくれているひとに届けたい」って思いがすごく強いんです。
あと、<ひとりで飲み込んでいた痛み>とか<押し込めるしかなかった涙>とかって、僕もきっとそうですけど、吐き出す場所がなかなかないんですよ。だからこそ、ライブやこの曲を聴いている時間には唯一、吐き出せる瞬間があってくれたら嬉しいな、という気持ちでこのフレーズは書きましたね。
―― 3曲目「あかり」はwacci・橋口洋平さんによる提供曲ですね。どのようなやり取りからスタートされたのですか?
最初は、TBSさんの『PLAYLIST』という番組の繋がりで、橋口さんに一度ご挨拶をさせていただきまして。僕はwacciさんの曲がすごく好きだったんですけど、あまり話すぎてもなれなれしいかなと思い、少し発声の話とかをして終わったんですね。それから昨年末の『CDTV年越しSP』でまた再会できまして、そのときにちゃんと気持ちを伝えられました。
実は僕、誰かに曲を書いてほしいという思いがずっとあったんです。正解なんてないんですけど、「こういう3人が歌うラブソングってこれでいいのかなぁ…自分がやっていることは合っているのかなぁ…」みたいな。僕だけの思いをREIとMASATOにも歌わせていることへの迷いが、いつもラブソングを書くときにあって。そういう本音も橋口さんに伝えた上で、楽曲提供をお願いしたら、「ぜひ」とおっしゃってくれて…という流れでした。
―― Uさんの迷いのお話を踏まえて「あかり」の歌詞を読むと、橋口さんが「そのままでいいんだよ」と言ってくれている気がしますね。
いや本当にそうなんですよ!曲をいただいてから、橋口さんとまた話す機会があって、「どうでしたか?」と訊いたんです。そうしたら、「めちゃくちゃ緊張した。だって君たち、絶対モテるじゃん」と(笑)。で、「どの角度でラブソングを書くかすごく迷うでしょ」って言ってくれたんです。僕は何十曲も書いてきて、どこかでその悩みにたどり着いたんですけど、1曲目でそれを感じ取ってくれる橋口さんはやっぱりすごいな、と思いましたね。
―― とくに主人公の<僕>として共感するフレーズはありますか?
2番Bメロの<“会えない” じゃなく “会わない” に聞こえて “寂しい” はただのわがままとなり>ってフレーズ。お付き合いをしていて自分の気持ちがなくなったとき、それを僕は出さないようにしているんだけれど、伝わっちゃう感じがすごくリアルだなと思いました。僕がこういうふうに捉えているんだろうな、って相手が思っているというか。
あと、最後に<誕生日おめでとう>と言うためのすべてが素晴らしいですよね。しかもそれをテクニカルに、「やってやったぜ!」と書いてあるわけじゃなくて。どこかの1行から溢れ出て、自然と最後にたどり着いている感じがするんですよ。初めて聴いたひとにもシチュエーションが一発で伝わるわかりやすさと、橋口さんならではの特別な言い回しの両方が成立している歌詞だなと思いますね。