「絶対に素敵な未来がくるよ」と歌うのは僕らではないなって。

―― Uさんは今作についてのエッセイで、「言葉が降ってくるなどという才能が僕にはない」と綴られていましたね。でもたとえば「夏の三角関係」など、まるで最初から映像が見えていたかのような歌詞に思えます。ラブソングはどのように書かれているのですか?

いや、もうヤフー知恵袋とか見ますよ(笑)。でもそれで書けることはないですね。僕の場合、「メロディーがそう言いたいんだろうな」っていう色とか温度みたいなものだけがわかるんです。そして、そこに似合う言葉を自分のなかを何度も掘って探します。

だから歌詞を書くときには、過去の恋愛もたくさん思い出しますし、当時の恋バナをしていた友達に久しぶりに電話して、「あのとき俺、何言ってた? どんな状態だった?」って聞いたりもします。で、「あぁそんなにしんどかったんだ」って思い出して、そこから色が明確になっていって、恋愛あるあるもポンと出てきたり。

―― 最初にメロディーから核のようなものだけ見えて、それをもとに実体験を加えて、物語が徐々にできあがっていくんですね。

そうですね。最初から物語のゴールがわかれば書きやすいんでしょうけど、僕にはそれが見えないので、いつもとりあえず書き始めるんです。たとえば「夏の三角関係」だったら、夏の海のドライブ曲を作ることは、みんなで決めていて。最初に<波にはしゃいだその手を>ってフレーズだけ出てきていました。じゃあすごく楽しいラブラブな歌なのか、それとも…ってところから歌詞を書いていって。

で、まずフルで書いてみて、「三角関係っぽいけど、自分が底辺っぽい立ち位置にいるから、二等辺三角形だな。もう少し正三角形にしたほうが、聴いてくれるひとに寄り添えるかな」みたいな感じで形を変えていった感じです。一発で書き上げて、「ここは絶対に変えない」とかはないですね。

―― 「夏の三角関係」サビラストの<その人は俺じゃないかな>はどちらの意味にも取れるなと感じました。「君の手を取るのは俺でしょ!」かもしれないし、「俺じゃないんだな…」かもしれないし。

あ、まさにまさに! ふたつの<俺じゃないかな>なんです! 今すごく嬉しいです。僕は他のアーティストさんの曲でもそういう歌詞に出会えたときにワクワクするんですよ。自分で「結末はどっちなんだろう?」って考えたくて。だから自分で書けたときには、「よくやった!」って言いたくなる(笑)。で、やっぱりそこに気づいてくださるファンの方もいるので、それはすごく嬉しくなる瞬間ですね。

―― また、7曲目「それなのにねぇなんで?」のような<私>目線のラブソングも刺さります。

photo_02です。

この曲は最初<僕>で書いていたんですけど、あまりに女々しすぎて、3ボーカルで歌うのはどうかなって。書けば書くほどこのメロディーに<僕>が似合わなくなっていくし。そこで一人称を<私>に変えてみたら、部屋の様子や元カレさんの性格がどんどん出てきて。やっぱり男性のダメな部分は男性のほうがわかるんだと思います(笑)。そういう意味では<私>目線で書くのは、ひとつ自信を持って色濃く書いていける方法かもしれません。

―― とくに<畳まない服も言い訳も重ねるのが得意で 友達ばっかり優先したり そういうのが嫌だった>というフレーズなど、なんでこんなに<私>の気持ちがわかるんだろう…と。

これ実は実体験もありまして…。僕はめちゃくちゃ洗濯が好きなんです。で、当時お付き合いしていた方に、そこをすごく喜んでもらえて。だけど僕がひねくれているのか、ネガティブなのかわからないんですけど、「え、普通はやらないのかな?」って思っちゃったんですよ。この子にとっての普通は“やらないひと”なのかって。

―― なるほど。褒めてくれたポイントに、前の恋人の存在を感じてしまったんですね。

そうそう。家事をやらなかったひとを好きだった時期がこの子にはあるのかぁ…って。言ってしまえば、ちょっとクズっぽい男性、ヒモっぽい男性と、勝負できない自分。そのリアルな思いが、そういう男性をどう振り向かせたらいいかわからない、どう前を向けばいいかもわからない女の子の気持ちと重なって、「それなのにねぇなんで?」という歌になったんですよ。

―― 実際にこういう恋に悩んでいるファンの方から、Uさんへの恋愛相談なども多そうですね。

めちゃくちゃDMくれます! その悩みも歌詞にできたらと思うので、スクショとかもよくしていて…。あ、イヤかな…。でも曲について、「これって私が送ったDMかな?」って言ってくれる子も多くて。そう言ってもらえるだけ、重ねられる部分があったのかなと思うと嬉しいですね。ファンクラブもできて、やっとQ&Aのコーナーもできたところなので、そこでもお答えしていけたらなと思っているところです。

―― では、このアルバム曲のなかでとくに書けてよかったと思うフレーズを教えてください。

まず「ラブレター」の<その横顔が教えてくれる>ってフレーズですね。うまいこと言ったわけでも、言葉遊びをしているわけでもないんですけど、きっと誰もが恋人や友だちや家族や先生、誰かに対して感じたことがあるんじゃないかなって。優しくスッとサビに連れていってくれるこのフレーズができたとき嬉しかったです。

あと「ROMANCE」だったら、2番Aメロの<僕とは逆の方で カバンを持ってくれてるのは きっと左手をすぐ奪えるよう>というフレーズ。これ男性ならわかってくれるんじゃないかなぁ。僕、好きなひとと並んで歩いているとき、僕側じゃないほうの手でカバンを持ってくれていると嬉しくなっちゃうんですよ。

―― たしかに、逆に相手がいる側で持ったら、ガードみたいになってしまうんですね。

そう、僕はそこにすごく寂しさを感じてしまうんです。無意識にカバンを持ってしまっている方、結構いると思うんですけど、好きなひととデートするときにはぜひ、意識してください(笑)。あと「ROMANCE」はポケットに手を入れたりできる季節の物語なので、よりイメージが広がるかなと。僕のなかで“左手を奪う=恋人になる”みたいな意味も込められたのでお気に入りのフレーズです。

「夏の三角関係」は2番サビの<そばにいて欲しいのも そばにいて苦しいのも 君だけだってまた気づいてしまう>がとくに好きかなぁ。ちょっと俯瞰していながらも、気づいちゃいけない気持ちに気づかされちゃう感じ。このフレーズは最後のほうに出てきてくれたんです。落ちサビを書いたあとも、ずっとここだけ納得いかなくて。やっと出てきてくれたので嬉しかったですね。

最後に「心音」のサビ<その胸の奥 鳴り止まない心音を>というフレーズ。実はレコーディングぎりぎりまで、<心音を>の部分が<その声を>だったんです。でもどこかで「この曲、なんてタイトルをつけよう…」ってずっと迷っている自分がいて。それで何回もここをループで歌っているうちに、まず<本音を>が出てきた。そこから<心音を>にたどり着いたんです。このワードが出てきたときには、嬉しくて思わずマネージャーさんにも社長にも、「出てきた!」って報告しました(笑)。

―― 歌詞を書くとき、意識して使わないようにする言葉はありますか?

「絶対に素敵な未来がくるよ」と歌うのは僕らではないなって思います。もちろんそういう歌詞で励まされる方もいるし、いい曲もたくさんあるんですけど。THE BEAT GARDENは、「そんなはずない」ってたくさん思わされてきたし、苦しみがいっぱいあることも知っているから。聴いてくれたひとに、「自分と同じようにツラい思いをしているひともいるんだな」とか「自分も前を向く準備はしないと」とか思ってもらえるほうがいいですね。

僕自身もそうなんです。誰かに「大丈夫だよ」って言ってもらえるのも嬉しいけど、未来に何が起こるかは本当にわからないから、「こういうことはちゃんとやってないとダメだよ」とかアドバイスをもらえるほうがいい。だから、キラキラした未来を信じるような温度の歌詞は書かないと思います。

―― 逆に好きでよく使う言葉はありますか?

それこそ<未来>かもしれないです。前後の言葉ですごく変えられるワードだし。たとえば「Start Over」で、ミュージックステーションとかFNS歌謡祭とか、自分たちが理想の未来として描いていた場所に立てた。でも今はまた先の違う未来を描いていて。常に<未来>を書き続ける限り、自分で自分を許せる気がするんです。これは多分、一生使う言葉ですね。

―― THE BEAT GARDENにとって歌詞とはどういう存在のものですか?

胸を張って「ミュージシャンです」と僕らに言わせてくれるもの。ミュージシャンとして生きていきたくて始めたのが作曲で、トラックメイキングで、作詞なんですね。そうやって自分たちが思っていることを本音で歌ってきたからこそ今、「君たちはアイドルなの? 何なの?」と訊かれたとき、「ミュージシャンです」と言えるんですよね。もし曲を誰かに書いてもらっていたら、僕ら3人は答えに悩んでしまっていたと思います。

―― ありがとうございます! 最後にこれから挑戦してみたい歌詞を教えてください。

ちょっと「夏の三角関係」に近いんですけど、もう付き合ってしまったふたりがいて、そのふたりに何も言えないままそばにいる<私>の曲を書いてみたいです。女性目線で、サビの最後の<私>というメロディーはもう見えているんです。そして<~な私、~な私、~な私>と自分自身を俯瞰している。スリーボーカルだからこそ、それぞれいろんな<私>を表現できるんじゃないかなと思うので、それをいつか書き上げたいですね。


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