茶色い斑点模様、お前と同じなら 擦りむいたって憂鬱だって大丈夫
だんだんだんだん今日が終わる
どんどんどんどん心の奥 どっかちょっと寂しい でもちょっと愛しい
今日もやっぱ カンチガイもっと歌詞を見る
―― にしなさんが人生で最初に音楽に心を動かされた記憶というと何が浮かびますか?
感動とはまた違うんですけど…、おはぎの歌。
―― おはぎですか。
はい、おはぎがお嫁に行く歌なんです。幼稚園で手遊びと一緒に教わって。それを家でやったらお母さんがすごく喜んでくれた記憶が強く残っていて。やっぱり歌うこととか音楽は小さい頃から好きだったんですよね。
そして、小学生になっていろんな音楽を自分で聴くようになって。テレビでコブクロさんが歌っている姿を観たとき、「歌うひとってカッコいいなぁ」って憧れたのもよく覚えています。
―― 何かを表現してみたい、という初期衝動もその当時からあったのでしょうか。
すぐ歌を作るようになったわけじゃないんですけど、工作とか、モノづくりで表現することが好きでしたね。ただ、それを誰かに見せるのが恥ずかしくなっていった気がします。否定されたくない本心とか、深い部分を伝えるのがかなり苦手で。だから人前で歌ったり、「歌うひとになりたい」とまわりに言ったりすることもありませんでした。
―― 最初に歌詞を書いたのはいつ頃でしたか?
高校1~2年生の頃ですかね。恋心を持っている主人公が、教室でひとり恋文を書くんですけど、やっぱり渡せないなと思って、ちぎって空に投げる。その紙がひつじ雲みたいだなぁ。ひつじ雲の翌日には雨が降るというから、きっと明日は雨なんだろうなぁ…って曲でした。<消しゴムをこすって 机がガタガタ揺れる>みたいなフレーズがあったかな。あとはっきり思い出せるのは、サビの最後が<明日はきっと雨だろう>だったことですね。
―― 行動や情景が細かく綴られている映像的な歌詞だったのですね。
現象とか情景を繋げて書くことが好きでしたね。今でも、絵を一枚思い浮かべたり、自分の生活のなかの記憶のワンシーンを辿ったりして、映像的に1曲を書くことが多いです。もともと本心を伝えるのが苦手、という部分が歌詞にも繋がっていて。すごく遠回りした表現をするところがある気がします。それも自分らしさのひとつですね。
―― 他に歌詞面ではどういったところが“にしならしさ”になっていると思いますか?
大事にしたいのは思考と感覚のバランスですね。ちゃんと歌詞を読んだり、歌を聴いたりして伝わる思考で組み立てる部分。そして、意味はよくわからないけれど、なんとなくそのフレーズが残るような、何かが届くような、感覚的な部分。どちらかだけに偏るのも自分らしくはない気がしています。そのバランスを探り続けたいですね。
―― にしなさんの歌詞がちゃんと聴き手に届いた実感があった、最初のタイミングというと?
最初にYouTubeに「ヘビースモーク」を投稿したときですかねぇ…。それまでの曲も私自身はすごく好きなんですけど、自分のなかにあるものを歌って、自己完結している歌詞が多かったんです。でも「ヘビースモーク」では相手がいる上で、その<貴方>に対してどう思うかを表現していて。そういう歌詞を書くようになってから、共感してくれるひとが増えた実感を少しずつ得られるようになりました。
―― 年齢や経験を重ねるにつれ、書きたいものが変わってきたところはありますか?
よくも悪くもだと思うんですけど、昔は一対一の関係を書き続けていたところが、一対世界みたいな空間になっている気がします。それはやっぱり聴いてくれるひとが増えてきて、自分だけの歌じゃなくなってきたことも大きいし。あと、タイアップのお話をいただいた際も、なかなか一対一ではすべての物語にハマっていかない。大きく捉えた余白のある歌詞のほうが、伝わる母数が増えるというか。そういう変化はありますね。
―― また、プロフィールにも綴られている「儚さと狂気」というキーワードもにしなさんの大きな魅力です。これは自然に漏れ出てくるものだと思うのですが、ご自身のどんな部分から生じているものだと感じますか?
自分で最近すごく思うのは…二面性が激しいなって(笑)。それはわざと作っているわけではなくて。たとえば愛情ひとつでも、一歩踏み込んだら、反対側に行っちゃうことってあるじゃないですか。そうやってちょうどいい愛情から、たまに一歩踏み間違えていくのが私なのかもしれないなと思います。
だからこそ、今の自分が言っていることを信じない、というのも強く意識しています。次の日にはコロッと変わっているぐらい信用できないところがあるんですよ。そういう二面性とか変わりやすさみたいなところが、もしかしたら「儚さと狂気」に繋がっているんですかね。
―― では、ご自身の歌声を客観的に言語化するとしたら、どのような特性を持っていると思いますか?
特性とも少し違うんですけど…。歌い始めた頃はこの声がすごくイヤだったんですよ。すぐに裏返ってしまって張れない。大きな声を出せない。だからこそ、しゃがれた声とかどすの効いた声とか、自分にないものに強く憧れて。ずっとがむしゃらに大きい声を出し続けてきたんですね。その結果、今のニュアンスにたどり着いた感じなんですよね。
―― 以前、YouTubeでぺえさんとのコラボ動画を拝見したのですが、「歌うときに声は後ろに飛ばしているイメージ」というお話をされていたのも印象的でした。
あぁ! そうそう。それもやっぱり自分の声の特性に繋がっていて。自分は直線的に前に向けて大きい声を出すと枯れるんですよね。じゃあどうしたら大きい音を鳴らせるか考えてみたとき、私のイメージと身体のニュアンスだと、ななめ後ろあたりに声を飛ばしたほうが大きく鳴るなと。それが私にとっての“大きい音を鳴らす方法”としてたどり着いた答えなんです。