<きっとシンプルで 複雑な毎日>は私のすべてである気がする。

―― 新曲「シュガースポット」はNHK Eテレアニメ『ドッグシグナル』エンディングテーマですね。バナナの斑点を意味するこのタイトルにはどのようにたどり着いたのでしょうか。

ひとの“そばかす”から発想を得たんです。そばかすって、本人はイヤかもしれないけど、他人から見ると可愛いじゃないですか。バナナのシュガースポットも、見た目はあまりよくなく思えても、太陽の光をしっかり受けて、「甘くなったよ、今がおいしいよ」という証。そこが通じているなと思って書き進めていきましたね。

このアニメは社会人のお話でもあって。社会を生きていくなかで、しんどいこともいろいろあるけど、それでも明日もなんとなく頑張れたらいいなって思えるエンディングテーマにしたいなと。そして、自分のコンプレックスもポジティブに変えられるようになったらいいなという思いも込めて、このタイトルと歌詞になりました。

―― 原作を元に書き下ろしていくなかで、印象的なシーンやセリフなどはありましたか?

photo_01です。

逆にアニメに寄りすぎないように、特定の場面は意識せずに取り組んでいったんです。でもそのなかでも大切にしたいと思ったのは、<お前と同じなら 擦りむいたって憂鬱だって大丈夫>と思えるようなバディーに対しての信頼や気持ちですね。

あと、このアニメに登場するドッグトレーナーやトリマー、獣医というお仕事は、相手のことをよく見て、よく知って、関係を作り上げていくことが大事なんですよね。それは自分が曲を書くときも同じで。私自身もやっぱりいろんなひとやものをよく見てよく知って、描き続けていきたいなということも感じました。

―― いちばん最初に生まれたフレーズというと?

1番のAメロですね。アニメのように相棒がペットだとしたら、“名前を付ける”のはふたりの関係を作るための最初の行為であり、とても大切なことだなと思って。なので<偶然に名前を付けよう 運命に愛を込めよう 本当はどっちだって 構わないんだけど>というフレーズから、この関係の大切さを描き始めていきました。

―― 2番の<覚えたての非常識で たまには遊ぼう>というフレーズにも、どこか“常識”に囚われて考えすぎてしまうところがありそうな主人公と、それを変えてくれる<お前>の関係性が表れていますね。にしなさんにとってこういう<お前>のような存在はいますか?

私の場合は特定の誰かではなく、小さい子を見たときにこの歌詞のような気持ちになることが多いです。彼らは何もかも遊び道具にできるし、すべてを楽しく変えていける生き物だと思うし。まさに<お前の不意な行動で 張り詰めた気が抜けていく>感覚になるんです。とても学ぶことがあるし、憧れる存在ですね。

―― ちなみに、にしなさんが描く主人公像には何か共通する特徴や性質はあるのでしょうか。

自分自身になっちゃっているのかもしれないですけど、やっぱり表裏一体感がある気がしますね。たとえば「シュガースポット」だと<きっとシンプルで 複雑な毎日>というフレーズによく表れていて。ここが私のすべてである気もします。簡単なことだとわかっているのに、自分でどんどん難しくしていったり。逆に難しいと思っていたことが、調子がいいと意外と簡単にできたり。主人公はその狭間で揺れていることが多いなぁと思います。

―― 「シュガースポット」はサビが<カンチガイ>というワードで終わるのもおもしろいなと感じました。この子にとっては何が<カンチガイ>なのでしょうか。

それこそ<きっとシンプルで 複雑な毎日>のなかで、何が難しくて何が簡単なのか、何が正しくて何が間違いなのか、全部わからないし、全部が<カンチガイ>かもしれないなぁと感じている。だけど「それでよくない?」というか。「知らんけど!」みたいな明るいニュアンスです(笑)。

あととくにサビは、言葉の意味でネガティブがポジティブにいかなかったとしても、音感の楽しさで世界が成り立っていけばいいなとも思っていて。だから<カンチガイ>にたどり着くまで、感覚的な部分で楽しくなるような歌詞になるように意識しましたね。

―― にしなさんがとくに書けてよかったと思うフレーズを教えてください。

<シュガースポット 約束なしでもまた出会える 誰にも言えぬ言葉を交わしてきたんだろう>ですね。アニメでいうと、バディーであるワンちゃんへの思い。言葉を交わせなくても通じ合う心があるふたりをイメージしました。でも人間同士にも通じるフレーズで。離れ離れになっても、今世じゃないとしても、また出会えると思えるほどの関係ってあるんだろうなって。タイアップ関係なしに、残せてよかったフレーズだなと思いますね。

―― シュガースポットというお揃いの<茶色い斑点模様>が再会の目印になるかもしれないですよね。

そうですよね。あとここでは“シュガースポット=甘い場所”という意味も込めました。またふたりが出会える、思い出の甘い場所があるのかもしれないなって。そういういくつかのイメージを描けたフレーズですね。

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