あと1秒だけ もう1秒だけ なんて 惜しむような 今がきっともっと歌詞を見る
―― 人生でいちばん最初に歌詞を書いたのはいつ頃でしたか?
今のバンドメンバー・KENTA(Dr.)と前のボーカルIKEとは同じ中学で、高校から一緒にバンド活動を始めたんですね。それでオリジナル曲を作ってみたときが、最初の作詞体験でした。でも当時、思春期でしたからみんな“想いを言葉にして書く”ってことが恥ずかしかったんですよ(笑)。なのでいったんメンバー全員で書いてみて、そのなかでいちばん歌詞っぽい、ということで僕が作詞担当になって。そのまま今に至る感じなんですよね。
―― それはどんな歌詞だったのでしょう。
あまりテーマも考えずに書いた稚拙な歌詞だったんですけど…、なんせ20年以上前のことなのでフレーズすら覚えていません(笑)。僕よりも他のメンバーが書いていたワードのほうが覚えているかな。たとえばひたすら<Rock Rock Rock is Station>って歌っている歌とか。直訳すると「ロックは駅」って意味がわからないじゃないですか。あと<Back Fire>とかね。メッセージ性なんてゼロ。でもおもしれぇなぁって思ったんですよね。
自分自身も意味は後回しで、わりと雰囲気とハマリのよさだけで書いていました。初期はずっとそんな感じでしたね。ちゃんと意味を持たせて、歌詞に重きを置くようになったのはメジャーデビューする手前ぐらいからです。
―― 最初からバンドの曲として歌詞を書く、というところがスタートだったんですね。
そうなんです。自分が歌う前提じゃないので、僕の想いを書くわけではなく。歌い手が世の中から持たれているであろうイメージから書いていましたね。作詞家的な作業だと割り切って書くほうがやりやすかったですし、その感覚は今でも続いています。
―― 当時、「SPYAIRはこういう音楽を作っていこう」という方向性はみなさんで決められました?
当時はメンバーみんな、たとえば“Korn”とか海外の超ゴリゴリのラウドバンドが大好きだったので、「ああいうサウンドを作りたいね」って話していましたね。めちゃくちゃ低いチューニングにして、「メロディーなんてどうやって歌えばいいの?」って感じのサウンドのなか、意味より響きを重視した歌詞を歌っていたんです。
だからまさか、自分たちがアップテンポの楽曲をやるとは思っていなかったし、今回の「オレンジ」のような爽やかな曲をやる日が来るとは1ミリも想像していませんでした。でも活動を続けて、いろんな楽曲を出していくうちに、やっぱりリスナーに寄り添った曲作りも大事だと気付いて。それでだんだんラウドサウンドから離れていって、メジャーに上がる頃にはわりとオーバーグラウンドなサウンドになっていた気がします。
―― では歌詞面で“SPYAIR”という個性ができあがったと実感されたタイミングというと?
どの曲からということはないけれど、どこに行っても「ポジティブなバンド」と紹介される時期があったんですよ。これはもう歌詞の影響だな、自分が書いたものがバンドのイメージになっているな、と感じて。同時に、SPYAIRの軸はずっと変わらず“ポジティブマインド”でいった方がいいんだなと確信しました。聴き手が歌詞をそう受け取ってくれている。それは、やってきたこと、書いてきたことが間違ってなかったと思えた瞬間でしたね。
―― 今作のEP収録曲「オレンジ」、そして「イマジネーション」「アイム・ア・ビリーバー」「One Day」やはりすべてに“ポジティブマインド”が通じているのがわかります。
とくに約10年前に書いている「イマジネーション」や「アイム・ア・ビリーバー」は勢いもありますよね。「こうだ!」って言い切って、突き進んでいく若々しさ。無鉄砲さ。ただ“ポジティブマインド”を書き続けていく中で、やっぱり自分たちの年齢は考えるようになりました。40手前にして同じテンションで書いていたら、「まだそれやってんだ…」とか思われそうで(笑)。
あと「こうしていけばいいんだよ!」って言い切るのは、僕らより年下のリスナーにとっては説教っぽく聴こえるなとも思うし。だから“言い切ること”をここ数年はセーブしているところもありますね。多分、今ってちょうど絶妙な立ち位置なんですよ。たとえば小田和正さんのような方がポジティブなメッセージをストレートに言い切っても、経験があるから説得力があるし刺さるじゃないですか。自分たちの成長につれ、着地点の濃度は調整していかないとな、と思いますね。
―― 作詞面でスランプに陥った時期などはありますか?
あ、それはもうメジャーに上がる前ですね。インディーズ時代はやっぱりすべてを自分たちでやるじゃないですか。音源を録るのも盤にするのも。そこから名前がちょっと売れてきたとき、ソニーのインディーズレーベルからお声かけいただいて。そのときに初めて作詞に対していろいろ言われる経験をしたんですよ。
とにかくそれまでの僕の歌詞はボコボコにされました(笑)。何か答えを教えてもらえるわけではなく、何回もリライトしてより良いものにしていくんですけど。シンプルにすると、「これじゃわかりやすすぎる」って言われるし。小難しくすると、「何を言っているのかわからない」って言われるし。もう…うわー!って思って。
―― いきものがかりの水野良樹さんも、デビュー曲「SAKURA」は歌詞リライトが千本ノックのようだったとおっしゃっていました。
そう、まさに千本ノック! 当時、僕は工場で働いていたんですけど、工場でレーベル担当者の名前を叫んでいました(笑)。「こんにゃろー! 答えを教えろよー!」って。千本ノックって、「これよりもっといいものを書こう」を1000回やらないといけないわけですよ。だからこそ、一度ネガティブな気持ちになってしまうと、マジで言葉が出なくなってくる。前向きな気持ちが切れるか切れないかが、スランプを抜け出せるかどうかの肝だと思います。
―― 当時のモチベーションはどうされていたのでしょう。
もう…そういうことすら考えない。工場で叫んだあとは、「あんまり考えてもしょうがない!」って割り切って、とにかく新しいものを書きまくりました。でも結果、見返してみるとリライトしてよかったなと思う作品ばかりなんですよ。だからこそ自分のなかでの正解が今はあるし。ありがたい千本ノックだったと思います。あの頃、工場で叫んだかいがありました(笑)。
―― そして、2023年4月には新ボーカル・YOSUKEさんが加入されました。MOMIKENさんは彼の歌声の力、特性を言語化するならどのようなものだと感じますか?
楽器っぽいですね。いい意味で、彼の声質は万人に馴染みやすい声で、だからこそアンサンブルにも合うんですよ。しかも、ただ馴染みやすいだけではなく、ロックバンドっぽい枯れた声の部分もあるのでそこも魅力です。
あと彼はファルセットがすごく綺麗なので、ファルセットを使う前提で歌詞を書くようになりました。たとえば、高音の部分に母音の「い」が当たっていたりすると地声だとツラい。でも彼はファルで出るから。僕としても言葉の幅が広がった感覚がありますね。
―― 元ボーカルのIKEさんとはまた似合う言葉なども変わってきますよね。そのあたりの難しさはいかがですか?
そう、IKEとYOSUKEでは似合う言葉が違うんですよ。しかも僕含め、3人はYOSUKEからひとまわり以上も年齢が離れているから、バンドとしてどこにメッセージを持っていくのがいいのかな…というのは結構考えまして。でも結果的に、「これまでのSPYAIRのままでいいかな」って気持ちですね。今は。それはIKEが抜けても、このバンドを継続していこうと決めた時点でどこかわかっていた気がします。
ついてきてくれているファンの方々も、僕らと同じように年齢を重ねていて。生活ステージとかも変化しているわけじゃないですか。だから主人公像も、YOSUKEの年齢とかは関係なく、SPYAIRというバンドがもつ軸を守ったまま書いていこうという気持ちですね。それに、僕だけが書かなくてもいいですし。これからYOSUKEの言葉が入ってきたりしても、それはそれで新しいSPYAIRの一面が表れそうでおもしろいなと思っています。