『ハイキュー!!』の歌詞として120点満点だと自画自賛しています。

―― 今作のタイトル曲「オレンジ」は『劇場版ハイキュー!! ゴミ捨て場の決戦』主題歌ですね。アニメサイドの方から何か具体的なオーダーはありましたか?

最初に打ち合わせしたとき監督が青春の終わりをイメージされていて。そこから「入れてほしいワードとか、歌詞の方向性とかありますか?」って質問したら、「いやぁ…ワクワクしたいので、お任せします!」って言っていただいて。うぉー!プレッシャーだー!と思いました(笑)。

―― タイトルの「オレンジ」というワードにはどのようにたどりついたのでしょうか。

僕はいちばん最後に、全体を見てタイトルをつけることが多いんです。というのも昔、いしわたり淳治さんに共作やワードプロデュースをしていただく機会が何度かあって。そのとき、「タイトルってどうやって決めていますか? 僕は最後に決めるんですけど」って話をしたら、「そうやって1回、俯瞰で見てみたとき、タイトルが浮かばない歌詞は駄作だから捨てたほうがいい」と言われて。それがずっと心に刻まれておりまして。

それからは、最後にタイトルが出るような歌詞を書くことを心がけているんですね。そして今回、歌詞を書いていくなかでまず“夕暮れの街並み”の風景が浮かんできたんです。「じゃあね、また明日!」みたいな青春時代のワンシーン。そういうイメージがしっくりきたので、そこから展開していこうと。で、最初は「オレンジの街並み」と書いていたんですけど、もう「オレンジ」だけで伝わるなと。それが最終的に曲を象徴するワードになりましたね。

―― 歌は<さよなら。は言わない 約束もない また会えるから 僕らは>と“出会いと別れ”でテーマから幕を開けるのが印象的です。これまで手掛けてきた『ハイキュー!!』主題歌とはまた違う新しい切り口ですよね。

そうなんです。僕はアニメを観てないひとにも届いてほしいし、リリースタイミングのこともすごく考えるんですね。すると今回はまさに“出会いと別れ”の季節だなと思いまして。こういう場面から描いてみました。どんな作品でも、自分たちのリアルな状況を考えていくと、歌詞は導きやすいです。だからもっと言うと、気持ち的には「オレンジ」は卒業ソングなんですよ。本当に1曲のなかにいろいろ盛り込めたなと思います。

―― 歌詞には、SPYAIRがこれまでに手掛けた歴代『ハイキュー!!』ソングのセルフオマージュフレーズも散りばめられていて。

これは歌詞を書く前に自分で決めたコンセプトでした。改めて漫画を読み返したり、アニメを観たりしてみたら、「バレーボールは“繋ぐ”球技」と作中にあって。「そうか、今まで関わってきた『ハイキュー!!』楽曲たちを繋いだら、歌詞でバレーボールが表現できるな」って。必ずワンフレーズずつ入れようと思ったんです。

そこからさらにこだわって、「イマジネーション」「アイム・ア・ビリーバー」「One Day」それぞれの出だしのフレーズをうまく入れ込もうと。サビを使うのはわかりやすいけれど、言葉としてパンチが強すぎてしまうので。そこも「オレンジ」にしっかり盛り込めたので、これはもう『ハイキュー!!』の歌詞として120点満点だと自画自賛しています(笑)。

―― 改めて歴代の『ハイキュー!!』ソングを聴いてみると、人称も変化していますね。「イマジネーション」と「アイム・ア・ビリーバー」では<俺>ですが、「One Day」では<僕ら>が主になり。さらに「オレンジ」は<僕ら>が主でありながら、<君>に対するメッセージ性も強いです。

まさにそのとおりで。先ほどお話したように、僕ら自身の年齢が反映されているんですよね。<俺>と言える「イマジネーション」や「アイム・ア・ビリーバー」の頃は、やっぱり「行けー!」みたいな勢いが全体にあった。でも今、僕らはいわゆる青春から20年ほど経っていますから(笑)。徐々に落ち着いて、仲間の大事さに気づいて<僕ら>の物語になり。最終的に「オレンジ」では、青春真っ只中な<君>に今の僕らから想いを向けようと。

40手前になって歌詞を書きながら思ったのは、あんまり大人にならないものなんだなって。あまり子どもっぽいところは出さなくなりましたけど。ただ根本的な考え方は17、18歳ぐらいから変わってない気がします。たとえ20年前でも、青春時代は昨日のことのように思い出せますし。

―― 今のSPYAIRならではという部分では、歌詞の<きっと>の余白が大事だなと感じました。年齢や経験を重ねるほど、人生のネタバレをしてしまいたくなりそうですが、この曲はそうではなくて。

photo_02です。

そう、本来は<きっと>のあとに何かをドーン!と言い切るのがSPYAIRなんですよ。でも今回に限っては違うなと。作中の彼らはまだ青春の真っ只中なので、歌詞で言い切ってしまうのは違う。だから<きっと>のあとの感情の落としどころは、聴き手に決めてもらおうと思いました。何かを押しつけてしまわないように。説教くさくならないように。ただ、道しるべのようなものだけは残せるように。そう意識して歌詞をかきましたね。

―― また、「One Day」と「オレンジ」はより抒情的な表現も素敵です。たとえば「One Day」の<離れた町の 草木が歌うような風が 胸に吹いてる>などは、大人になったMOMIKENさんならではのフレーズですよね。

自分のなかでもその変化は大きいです。「One Day」を書いていた当時も、やっぱり年齢を意識し始めた頃だったんですよ。「このままイケイケどんどんのメッセージで大丈夫か? 10年後にこれを歌っていられるか?」と想像して。だから成長というか、「これだけじゃないよ」という一面を歌詞でも表現しておきたくて。「One Day」では意識して2番を少し抒情的にしてみたんです。そこからこの「オレンジ」に繋がっているという感覚ですね。

―― ちなみにメンバーのみなさんは、歌詞に対して何か意見や感想はくださりますか?

いや…。取材で僕がこうやって、「オレンジが夕日で…」みたいな話をしていたときに、「オレンジってそういう意味だったの!?」って(笑)。取材が種明かしの場で、そこでみんな初めて知る感じですね。

―― では、YOSUKEさんはご自身の解釈でレコーディングをされたんですね。

そうですね。完全に任せています。何の前情報もなしに聴いて、どう感じて、歌ったとき何が自分のなかに芽生えるのか、本人に任せたいんですよね。もし、「何が言いたいのかまったくわからなかった」と言われたら、その歌詞はボツにするだろうなと思います。

まぁ「オレンジ」は特別強いワードもないし、「こうだ!」って落としどころを書いてないじゃないですか。だからうちのメンバーはなんとなくふわっとした雰囲気だけで、歌詞を読み解いていると思うんですけど(笑)。そんななかでも青春時代のエモさみたいなものは受け取ってくれている…気がします。

―― 「オレンジ」でとくに書けてよかったと思うフレーズを教えてください。

このフレーズがあったから助かったというか、全部そこから紐解けたなと思うのは、やっぱり<オレンジを少し かじる地平線>です。「ばいばい、また明日」って言える、青春時代の別れ際のシーンもパッと浮かびましたし。

ただ、「オレンジ」に関してはワンフレーズと言うよりも、かなり細部までいろいろ織り込むことができたのがいちばん嬉しかったかな。何かを諦めないと歌詞が成立しないことってわりと多いんですよ。詰め込みすぎて伝わらなかったり。でも今回は自分が意図したすべてを、絶妙なバランスで、ひとつの無駄もなく入れられたなと思います。

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