全11曲収録!このアルバムを聴いてあなたの心に浮かぶのはどんな“街”ですか?

 2024年4月24日に“橋本絵莉子”が2ndフルアルバム『街よ街よ』をリリースしました。聴いた人それぞれの中に、ひとつの街が浮かび上がってくるような広がりのある今作。インタビューでは、収録曲のお話はもちろん。自身の作詞の軌跡や歌詞の特徴、今作での新たな挑戦などについてじっくりお伺いしました。かつては対人関係に焦点を当て、「そのひと自身」を描くことが多かったという楽曲。それは今、年齢や経験によってどのように変化し、このアルバムに繋がっているのか…。今作と合わせて、橋本絵莉子の歌詞トークをお楽しみください!
(取材・文 / 井出美緒)
私はパイロット作詞・作曲:橋本絵莉子私はパイロット 時間の飛行機に 何人もの私を乗せて 暗闇を進むよ嘘じゃないよ 嘘じゃだめだよ 嘘じゃこの先
かわいいおばあちゃんにはなれないよ
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「何を歌いたいか」でそのひとの生活がよくわかる。

―― 絵莉子さんが人生で最初に、音楽に心を動かされた記憶というと?

最初かぁ…中学1年のときの新入生歓迎会を思い出しますね。新入生の私たちのために、ウインドオーケストラ部が曲を演奏してくれたんです。ウインドオーケストラっていうのは、弦楽器はなくて、管楽器と打楽器で構成されているもので。小学生からピアノは習っていたものの、自分とそんなに歳も変わらない子たちが集まって、指揮者を見ながらみんなで演奏する、という姿を初めて見たのですごく感動しました。

―― では、最初に歌詞やポエムのようなものを書いたのはいつ頃でしょうか。

思えばそれも中学時代ですね。中学2年~3年のとき。友だちと遊びで、ポエムを書いて交換していました。多分、ポエムとも呼べないようなものだった気がします(笑)。でも手紙でもなく、日記でもなく、ただただ素直な気持ちを書くという。

―― それは「歌詞にする」という前提でもなかったんですね。

まったく意識していませんでした。中学時代は、自分がバンドをやるとも曲を作るとも思っていなかったですし、新入生歓迎会での感動のままにウインドオーケストラ部に入部したので。ちゃんと「歌詞」として書いたのは、高校時代ですね。

―― 初めて書いたのはどんな歌詞だったのでしょう。

どうだったかなぁ…。自分たちで録音もしたんですけど、デビューしてからもリリースとか発表はしていなくて。<雨の日に>という出だしだったことは覚えています(笑)。あと<雲>がどうだとか、天気のことを歌っていましたね。ぼんやりした情景描写の歌詞でした。

―― それから多くの楽曲を作られてきたかと思いますが、今改めて、ご自身の歌詞にはどんな特徴があると思いますか?

一見、直球なようで、意外とわかりづらいところかなぁ。起こったことや思ったことをそのまま書いていることが多いんですけど、実はちゃんと説明してない感じ。

―― 曲はどんなときに作りたくなることが多いですか?

一応、普段から何か思いついたらすぐにメモするようにしています。でも、結局はメモなしで一気にバーッとできるときのほうが多いですね。そういう瞬間がたまに訪れるんですよ。

あと、ソロになってからはとくにマイペースに制作することができていて、「作りたいときに作って大丈夫」という感じなんですね。だから気楽なんですけど、「全然書きたいことがないなぁ…」ってピタッと書かない時期もかなりあります(笑)。

―― 絵莉子さんはずっと“詞先”で曲を作られていますよね。物語や主人公などのイメージは、歌詞を書いているどの段階で見えてくるものなのでしょうか。

photo_01です。

それが最初はまったくわからないんです。最初から設定があることはほとんどなくて、とにかく何かを書き出してみないと。しかも、タイトルが最初に浮かぶか、最後に出てくるかでも、歌詞の内容がガラッと変わって見えたりして。そういう自分でも予想できないどんでん返しが、作詞のおもしろいところだなぁと思います。歌詞の特徴のお話に戻りますけど、「こういうタイトルの曲やけど、実は中身はこう」っていう形も、私のあるあるかもしれません。

―― たとえば、今回のアルバム収録曲で少し変わった作り方をした歌詞はありますか?

慎重にならないか」は詞先ではなく曲先でしたね。自分としてはかなり珍しいタイプです。これはそもそも6年前に曲だけができて、歌詞はつけずにずーっと置いてあって。今回、「アルバムを作ろうかなぁ」ってぼんやり考えているタイミングで、「あ、あの曲だけのやつに今、歌詞をつけてみよう」ってふと思い立って書いてみました。

―― 曲先の場合、詞先とは歌詞を構成していく順番などは異なりました?

いや、頭からどんどんできていったと思います。詞先のときと同じ。ひとつの言葉ずつ、1行ずつ、どんどん前に進んでいく感覚でした。

―― 「慎重にならないか」もまさに先ほどおっしゃっていた、絵莉子さんの歌詞らしさが際立っていますね。直球なようで…。

そうなんです。決してわかりやすいわけではないですよね。

―― 頭から順番に書いていくなかで、<自分を正解にしたい>という思いと、<あなたと間違えてもいい>という思い、相反するようなフレーズが並んだのですね。

そうそう。だから最後、鳥みたいに、<自分を正解にしたい>という羽と、<あなたと間違えてもいい>という羽、<この二つの羽 もっと広げて>どっちも大切にしながら、うまいこと進んでいけたらいいなぁ、という気持ちにたどり着いたんですよね。あと2コーラス目も繰り返しなんですけど、この曲は別の言葉を書くよりも、同じフレーズを繰り返すほうが、より思いが強まっていくような感覚もありました。

短い歌詞なんですけど、書いていて楽しかったですね。曲ができてから6年も経っていたんですけど、意外と自分でも曲を作ったときの感覚すら忘れているぐらいがちょうどいいんやなぁって。やっぱり私は曲先の作り方は苦手なんですけど、たまにやるとおもしろいんだって気づくことができました。

―― 年齢や経験を重ねるにつれ、歌詞で書きたいことは変化してきたところがありますか?

かなり変わっていると思います。歌詞には「普段、何を見ているか」とか「最近、何を考えているか」とか出てくるじゃないですか。「何を歌いたいか」でそのひとの生活がよくわかる。10代20代の頃の私は、友だちを始め、主に他者との関係に焦点を当てていて。そこで気づいたことを歌いたい気持ちが大きかったんですね。

―― たしかに、たったひとりの特定の<あなた>への歌を書かれている印象がありました。

そうそう。一対一で、しかも「そのひと自身」を見ていました。もちろんそういう「あなたとこういうことがあった。だからこう思った」というストレートな歌詞も大事だと思います。だけど年齢や経験を重ねて、もっとまわりが見えてきているような感覚があるかなぁ。「そのひと自身」というより、「そのひとを通じて何を見るか」とか「そのひとに自分はどう映るか」とか、もう一歩奥のものを書きたくなっている気がします。

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