曲をつけるときは文字が冷めるまで待つ。

―― 個人的には、8曲目「宝物を探して (街よ街よ Mix)」は、とくに聴いていて気持ちが上がりました。そして本当に<どうでもいい細胞にだけ 救われる>ことってありますよね。

ありがとうございます。この曲、楽しいですよねぇ。私もまさに、いかにも意味あり気なものよりも、なんてことないような日常の出来事のほうが大事なことってあるなぁと感じるんですよ。これは<38の夜>と言っているから、コロナ禍の始まりくらいに書いたのかな。

―― <LOVE LOVE LOVEを歌って>というのは、DREAMS COME TRUEの「LOVE LOVE LOVE」ですか?

そうです! 地元・徳島の駅で友だちと待ち合わせて、ドリカムを歌いながら自転車を漕いで楽しんでいる、幸せでしかない時間。だけどそういう時間そのものが<宝物>なんだと、当時は気づいてなかった、ということなんですよね。大人になった今、振り返ってみて気づいたから<宝物を探した>と過去形になっているんです。

―― ご自身が描く主人公像に何か共通する特徴や性質ってありますか?

どうでしょう…。でも結局、主人公って私自身なんですよね。あまり他の誰かを主人公に立てて、それで物語を書くということはしたことがなくて。だから主人公あるあるというより、橋本絵莉子あるあるだろうなって思います(笑)。

―― すると、アルバムを作るときは「私はパイロット」の歌詞にあるように<時間の飛行機に 何人もの私を乗せて 暗闇を進む>ような…。

あ、本当にその感覚そのものです。いろんな時期のいろんな感情の<私>を全員、連れて進んでいるような感じなんですよね。

―― 収録曲のなかで、絵莉子さんが「書けてよかった」と思うフレーズを教えてください。

人一人」の歌詞には表記されていないんですけど、英語で喋り声が入っているんですね。ひとつは「What should I do?」=「私はどうしたらいいんだろう?」という語り。もうひとつは<あの話>のネタバレを言っちゃったあとの「Is that true?」=「それ本当?」というセルフツッコミ。実はそこがすごく好きです。今まで楽曲に喋り声ってそんなに入れたことがなくて。作っていくなかで、「入れたらおもしろいんちゃうかな」と思ってやってみたんですけど、お気に入りですね。

photo_03です。

あと「離陸 ~Live at Namba Hatch, Osaka, Oct, 17, 2022~」はインストなんですけど、もともとデモの段階では歌詞がついていたんです。だけどライブをやるにあたり、インストの曲があったらいいなとなったとき、「離陸の歌詞を取ってしまったらいいんちゃうかな」と思いついて。歌なしのデモを聴いてみたら、「いける!」となったんです。だから「書けてよかった」ではなく、逆に「歌詞を取ってみてよかった」という発見ができた曲でした。

―― 歌詞を書くとき、いちばん大切にされることは何ですか?

書いているときにテンションが上がるかどうか。中断されたくないかどうか。たとえば、家にいて、家電がピピーッ!って鳴ったら、走って止めに行って、すぐ書きに戻りたい。そういう感覚をすごく大事にしています。そのモードで書けているときは大体、「好きだな、曲をつけたいな」って思える歌詞ができるので。「今、いける気がする」という感覚を見逃さない。

―― 今回は結果的に“街”が浮かぶようなワードが歌詞に出てきたとおっしゃっていましが、逆に「あまり使わないようにしよう」と意識されている言葉などはありますか?

想像でしかわからない部分だけど、たとえば聴いてくれるひとが傷ついたり、イヤな気持ちになる表現は避けたい。一方で、自分の正直な感覚も同じように大事にしたい。そこのバランスというか、境目みたいなものは意識していますね。

―― 今回のアルバム収録曲も、極端に気持ちが落ち切ってしまう楽曲というよりも、聴いていて心地よさを保ちながらも、ちゃんと絵莉子さんの感情が伝わってくるような楽曲が揃っていますね。

大事にした部分です。私はやっぱり基本、聴いてくれるひとにとっては娯楽であってほしいというか。なるべく気持ちよく楽しんでほしいなと思うんですよね。

―― 絵莉子さんにとって、歌詞とはどんな存在のものですか?

曲を左右する軸、ですかね。

―― すべての始まりになるような。

まさにそうですね。歌詞は“組み立て前の設計図”ぐらいいちばん大事なものです。

―― 歌詞を書いているとき、メロディーやコードも見えているのでしょうか。

まったく見えません。もう文字だけです。それが普通やと思っていたんですけど、後々いろんなひとに、「珍しい作り方だね」って言われるようになって、少数派なのだと知りました。あと、本当は曲をつけるとき、むしろもう書いた歌詞を忘れているぐらい時間を置きたくて。その歌詞を書いた当時の自分の気持ちとか見えなくていい。影響しないほうがいい。純粋に文字だけ見ていたいんですよ。

―― そうすることで、歌詞を書いたときには想像もつかなかったメロディーが生まれたりするんですね。

そうです。感情に振り回されずフラットに曲を作ることができるから、それが面白いですね。だから文字が冷めるまで待つことが多いです。その放置時間があればあるほどいいな、って思います。

―― ありがとうございます!最後に、これから挑戦してみたい歌詞を教えてください。

こういう歌詞というより、曲先で作る楽曲の比重も徐々に多くしていけたらいいなと思います。今回のアルバムでは「慎重にならないか」の1曲だったんですけど。言葉が制限されているなかで歌詞を書くのも、それはそれで楽しいなと思えたから。苦手だと思わずに、挑戦してみたいですね。


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