僕が作る曲に多い流れは“サッドハッピー”です。

―― 2曲目「skin」は、コーセーコスメポート「クリアターン ごめんね素肌マスク」 WEBムービーソングに書き下ろされた楽曲ですね。

僕らにとって初めての書き下ろしタイアップで、やってみるまではどう進めていけばいいのかわかりませんでした。でも、まず「こういう雰囲気で」というリクエストをクライアントさんからいくつかいただいて、その上でいろいろ考えていくなかで、2番にも書いているような<贅沢はしなくとも ありふれた幸せと ただ あなたの横に居させて>という思いと情景が大まかなテーマとして見えてきたんです。

たとえば、聴いてくれるひとが、今お付き合いをしているひとに会いたくなったり。ともに生活している相手をもっと大事にしなきゃって思ったり。「このひとがいるからこそ生まれる些細な幸せがあるよな」って気づくことができたり。そういうふうになってくれたらいいなと言葉を紡いでいきました。この歌詞を書いた意味は、それがすべてだと思います。

―― <束ねた朝を運ぶ時 奇跡のメロディーは目を覚ますよ>、詩としても美しいフレーズです。

ここはすごくスラスラと書けたフレーズだったんですよ。自分の頭のなかで絵が浮かんでいたというか、映像が再生されていて、それを言語化したような感覚かもしれません。

―― <明日のことを好きになれる そんな予感が腕に香った>というのも素敵な表現ですね。どうして<腕>に香ったのか…。

これ、なぜ<腕>なのかというと、自分のなかでまさに、抱擁しているような映像が浮かんでいたんです。それを別の素敵な言い回しで表現したいなと思い、こういうフレーズになりました。やっぱり歌詞に重きを置いているので、こういうところはこだわりますね。

あと、五感のなかでとくに嗅覚って、自分に限らず大事なんじゃないかなと。そこで“何が香るのか”と考えたとき、<明日のことを好きになれる そんな予感>が香る、と書けたこともひとつ肝になっています。そこに気づいてくれるひとがいるかはわからないけれど、伝わってくれていたらいいなと思いますね。

―― では、「skin」で想さんがとくにお気に入りのフレーズを教えてください。

この歌詞は好きなフレーズがたくさんあるんですよ。今、おっしゃってくれた2番もそうですし。でも何よりサビの<流行のように捨てられた 私の愛のカケラさえ あなたは拾って胸に仕舞う>というフレーズが書けたときには、小さくガッツポーズをしましたね。ちなみに「skin」を作っているとき、よく谷川俊太郎さんの詩集を読んでいたので、詩的なインスピレーションも大きかったのかもしれません。

―― 想さんが描く歌詞の主人公には、何か共通する特徴や性質はあると思いますか?

「自分なんて…」という自信なさげな感じ。これは僕の人間性が反映されていると思いますね。あと、先ほどお話したように、大事なひとの悲しいことを想像しすぎてしまう。儚さや切なさを表現するとき、大事になってくるのが実はそういう部分なのかもしれません。

―― たしかに、シャイトープ楽曲で自信満々な主人公はなかなかいませんね。

photo_03です。

いないですねぇ。去年よく言っていたんですけど、僕が作る曲に多い流れは“サッドハッピー”なんです。自分の好きな映画で『シング・ストリート 未来へのうた』という作品があるんですけど、そのなかで「悲しみの喜び」という言葉がよく出てきて。その言葉がすごく好きで、僕の歌詞にも通ずるものがあるなと。悲しかったり、切なかったりするんだけど、ただどこかちゃんと希望を内包している。そういう主人公像が多い気がしますね。

―― 普段、曲作りはどのような流れで行うのでしょうか。

大体はメロディーが先にできて、そこに歌詞を当てていきます。でも時には、メロディーと歌詞が同時に生まれることもあるし、先にワンフレーズの言葉があって、そこからメロディーを育てていって、さらに2番以降を作っていくということもありますね。

―― どんなときに曲を作りたくなることが多いですか?

これもいろいろで。たとえば、生活しているなかで他のアーティストの曲を聴いて、「うわ、この曲すごい。自分も作らなきゃ」って刺激されることもありますし。映画やドラマに感化されることもありますし。電車やお風呂のなかで、ふといいフレーズを思いついて、衝動でバーッと一気に書くこともありますし。その歌詞の欠片を残しておいて、時間を置いて形にすることもあります。

―― あまりご自身の感情や状況に左右されることはありませんか?

あ、結局それもあるんです(笑)。たとえば「部屋」って曲なんて、実際に失恋したあと泣きながら作っていましたから。やっぱり歌詞にすることで救われる部分も大きいですね。

―― 想さんにとって、歌詞とはどのような存在のものですか?

歌詞は、歌についている詞であって、必ずメロディーがついてくるものなので、どちらも大事。ただ、それぞれに役割があると思うんですよ。例えて言うなら、メロディーで肩を叩いて振り返らせて、歌詞で手をつなぐ、という感覚。

―― もうそのお答えがひとつの詩のようです。

入口はメロディーかもしれないけれど、歌詞があるからこそもっと親密になれるというか。僕自身、Mr.Childrenさんの歌詞にめちゃくちゃ救われていた経験があるので、歌詞にはひとを救う力もあるんだと信じていますね。


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