―― 洋平さんは、作詞でスランプに陥ることなどありますか?
毎回ですよ! だって歌ネットさんの前で申し訳ないけど、俺からしたら言葉なんて要らなくて、音だけで十分。感情も何もすべてそこに出ているから。歌詞はゴーストライターを雇いたいぐらい。さっきもお話したように、俺がいい歌詞を計算して書こうとすると、ゴミみたいなものになっちゃう。RADWIMPSとかback numberとか、やっぱりすごいしさすがだなと思うけど、自分はそうなれない。
でも気づいたんですけど、文章を書くのは好きなんですよ。歌詞は苦手だけど、文章はすっごく好き。だから、ワーッて書いて、それを歌詞にしている感じがずっとありますね。“自分の意見を書きました、飾りは要りません、以上。”という歌詞が気持ちいい。そういうものが自分の歌詞らしさであり、[Alexandros]の歌詞らしさである。うん、改めて今、そうだなと思いました。
―― タイアップが関係ない場合、どんなときに歌詞を書きたくなるのでしょうか。
歌詞はいつもいちばん最後なんですよ。本当にごめんなさい。ラストに待ち受ける障壁というか。「来たぁ…」って思う(笑)。俺はやっぱり“伝わらない美しさ”みたいなものが好きで。自分としては、言語化できないから音楽をやっているのに、どうして最終的に歌詞というもので言語化しなきゃいけないのかな、って思ったりもするんですよね。そこでいつも戦いながら、それでもどうにか言語化しようとして。
書いて、書いて、書いて、1曲で20パターンぐらい歌詞を作る。でも、最終的にたどり着くのは、いちばん歌詞っぽくない歌詞で。最初のほうはまだサマになっていたはずなのに、「あれ? 日記になった…」みたいな(笑)。だけど、歌っていて気持ちいいものは、そぎ落としていった先にあるその“歌詞っぽくない歌詞”なんですよね。
―― 洋平さんのその感覚は、今作の3曲目「真夜中 (drive ver.)」に綴られている<「言葉」の数と 「思い」の数はもう 二度と合わない所まで来た>というフレーズにも通じている気がしました。
そうそう、まさにそういうこと。これは大学生の頃に作った曲だけど、やっぱり言いたいことはずっと変わってないということなんですよ。<胸の中身その歌に重ねてみる けれど どこか物足りない 誰も代弁してくれない>とかも、「マジでそうだな」って今も思うし。もう完全に言葉より音楽ですね。でも…俺の曲に対しては、俺の価値や言葉がいちばん合うんだろうなとも今は思っています。
―― 「真夜中」は、2012年にリリースされた楽曲ですが、もともとどんなときに生まれたのですか?
アマチュア時代、白井(眞輝)くんの前のギター担当が、大学生なのに生意気なマンションに住んでいて(笑)。12階ぐらいまであって、首都高を見下ろせる感じだったんですよ。そこからの東京の景色がすごくよくて。でも狭い部屋で。「こんなところにひとりで暮らしているんだなぁ…」と、その部屋を想像しながら作っていた気がします。
あと<一人だけ 真夜中に>というシチュエーションが、今でも好きで。たとえば、友だちとかみんなで騒いでいて、「じゃあねー!」って電車に乗って、ドアが閉まって、そのひとがひとりになる瞬間を見るのとか好きなんですよ(笑)。数秒前とまったくテンションが変わるじゃないですか。「さっきのひとたちといたときは、結構はしゃいでいたけれど、演技していたのかな」とか「今、あのひと何を考えているんだろう」とか想像します。
俺はそういう“都会にあるひとりの瞬間”がおもしろいなと思いますね。人それぞれ、人生のことだったり、恋愛のことだったり考えているけれど、ひとりのときにしか出てこない感情ってあるし、それが自分にとって貴重で大切で。そこを描きたかったのが「真夜中」ですね。
―― ちなみに、この曲にも「Backseat」と同じく<部屋の隅>というワードが出てきますね。
うわ、本当だ。
―― なので、洋平さんご自身も部屋の隅でひとり、考えたりするのがお好きなのかな…と。
まさにおっしゃるとおり。部屋の隅にひとりでいることの何がいいかって、見渡せることなんですよね。猫と同じです(笑)。あと音もいい。いちばん集中できる。だから、どんなにデカい部屋だとしても、隅のほうへ行って何かを把握したくなる。すると、いろいろ作りやすくなるんですよ。歌ネットさん怖いな、なんかいろいろバレてる(笑)。
―― 月日を経て、改めて「真夜中」を歌ってみて、新たに感じることはありましたか? それとも当時と同じ気持ちでしたか?
まったく同じ気持ち。本当に変わってないなと思いました。ソファでさえ、一度変えたのに、この前<白いソファ>を買ったから。
―― まったく変わらない、というのが発見だったのかもしれないですね。
たしかに。だって、この曲を作ったのって、2006年~2007年とかですよ。俺って20年近く変わってないんだ、というのは、自分でもおもしろい気づきではありましたね。
―― ありがとうございました。最後に、洋平さんにとって歌詞とはどんな存在のものですか?
文字通り、歌に乗せた詞。言葉としては出てこないけれど、メロディーに乗せれば、歌になれば、出てくるものだなと思います。だから、ただの言葉ではないですね。自分にとって歌詞は、ベース、ギター、ドラムに並ぶ、楽器のひとつなのかもしれません。
―― だからこそ、とくに発音を大切にされている。
うん、そうですね。それに奥が深いなと思います。外国のアーティストの方が、たまに日本語で歌う機会とかあるじゃないですか。途端にずっこけるというか(笑)。上手いんだけど、ちょっとファニーな感じになってしまう。あれって多分、骨格だったり、発音の仕方だったりが違うからだと思うんですけど。
正直、英語はいろんな言語を喋るひとが使っているから、多少は発音が変でも「喋れていれば別にいいじゃん」みたいなところがあるんですよ。むしろ、誰でも使える楽器なのかもしれない。そういう意味で日本語は、日本人特有の何かがないと難しい言語なんだろうなと思います。つまり洋楽オタクの俺が、生半可に扱える楽器ではない。だからこそ、歌うときの発音はとことんこだわりたいし、大事にしたいなと思いますね。