LIVE REPORT

杏沙子 ライヴレポート

杏沙子 ライヴレポート

【杏沙子 ライヴレポート】 『耳で味わうレストラン』 2020年12月19日 at 配信ライブ

2020年12月19日@配信ライブ

撮影:小野洋平/取材:吉田可奈 バンドメンバー:山本隆二(Key)、鈴木正人(Cb&Eb)、森本隆寛(Gu)

2020.12.24

杏沙子が12月19日に開催した配信ライヴ『耳で味わうレストラン』。クリスマスを前に、しっとりとしたムードで行なわれた今回のテーマは、タイトル通り“レストラン”。このレストランのオーナーである杏沙子曰く“ほろ苦クリーミーな夜のコース”は、キャンドルに火が付いた瞬間から開催された。

“さまざまな夜に漂い包まれたっぷり楽しんでもらうコース。最後の一品までお楽しみください。それでは一品目、お召し上がりください”という言葉から始まったのは「真っ赤なコート」。鈴の音が鳴り響くクリスマスアレンジにされたこの曲はとてもやさしく、そのハートウォームな空気感に包まれ、一気にその世界観に引き込まれる。続いて「マイダーリン」をしっとりと歌い上げると、ひと息ついて、杏沙子はゆっくりと話し出した。

“料理と音楽って、共通点がすごく多いなと思っていて。煮込み方や焼き方で素材の味が変わるのは、音楽の弾き方や歌い方で大きく変わるのと似ていますよね。音楽も料理もそれぞれ好きな楽しみ方で楽しめるんです。料理も音楽も言葉で表すと“しっとりめ”や“温かく”など、同じ表現があるくらいなんですよね。今回音楽と料理をかけた何かがしたいと思って実現したライヴです”

その言葉通り、一品ずつ丁寧に出される楽曲は、アコースティックにアレンジされ、原曲とはまた違う味付けをされ、温かく体内に流れ込んでいく。きらびやかで元気な「クレンジング」はどこかなまめかしくロマンチックに変化し、「好きって」では息遣いが伝わってくるほど生々しく、切なく気持ちを抑え込む世界観をしっかりと、声と楽器、そして表情で伝えてくれた。なかなかその世界から抜け出せないまま、「見る目ないなぁ」では原曲でのカラっとした雰囲気とはまた違い、恋を失った苦しみや儚さが倍増し、よりその楽曲に深みを与える歌を届けてくれた。

ファンから募った中から選んだカバー曲は、なんとYOASOBIの「夜に駆ける」。普段の杏沙子の楽曲とはまったくタイプの異なる曲を楽しそうに、嬉しそうに歌う姿はとても印象的だ。新たな魅力を引き出すカバーは、聴いていてとても面白い。そして、「交点」では一転、鬼気迫る歌声でグッと聴かせる。そのギャップは彼女のより大きな可能性と才能を感じることができる。笑っていたと思ったら、思いきりほっとけなくなったり、いきなり神々しさを感じさせたと思えば、悪戯な表情を見せる。そんな、くるくると変わる表情を持つ彼女の歌と歌声だから、もっと、もっと聴きたいと思わせてくれるのだ。

後半となり、“早いもので残すこと2品となりました。食べるの早いねえ”とほほ笑むと、椅子に座り、あらためて今年を振り返る。“2020年はどんな一年になりましたか? 去年の今頃はみんなの顔を見ながら歌っていました。それから丸一年、みなさんの顔を見ながら歌うことができなかったんです。あまり人にも会えないし、孤独な夜を過ごしているような一年だったと思います。そんな中で今だからこそできることを探して、暗闇にある小さな光を探し続けた一年でした。多くの人が悔しさだったり、もどかしさだったり、そういったものを感じた一年だったんじゃないかなと思っています。でも、夜があれば朝が来るように、必ず夜明けがやってくるから、2021年、私にあなたに、それぞれの夜明けがやってくることを祈って、私からみんなにお年賀として次の曲を歌おうと思います”と前置きされて歌ったのは、カバーの「A HAPPY NEW YEAR」。その後、メンバー紹介を経て、ひとりでピアノの前に座り、ラストにデザートとなる「おやすみ」を聴かせてくれた。

最後は最初に火を付けたキャンドルの火を消し、お店はクローズ。いろんな味で楽しませ、最後に余韻を残しつつ、“また食べに行きたい、聴きに行きたい”、そんなふうに思いつつ、“明日からも頑張ろう!”と思えるような、しっとりと、大人で、まさにほろ苦クリーミーな夜のコースを楽しませてくれたライヴとなった。

撮影:小野洋平/取材:吉田可奈
バンドメンバー:山本隆二(Key)、鈴木正人(Cb&Eb)、森本隆寛(Gu)

杏沙子

1994年4月4日生まれ、鳥取県出身。16年に初のオリジナル曲「道」を発表し、本格的に音楽活動をスタート。インディーズ時代は「道」他全3曲のミュージックビデオを公開。そのYouTube総再生回数は900万回を超える。18年7月にミニアルバム『花火の魔法』にてメジャーデビュー。松本 隆に影響を受けた表現力豊かな詞世界を、超絶キャッチーなメロディーに乗せ織りなす、自作の楽曲が高く評価される。群を抜いたポップセンスと、衒(てら)いのないチャーミングな歌声を併せ持つ次世代シンガー。

SET LIST 曲名をクリックすると歌詞が表示されます。試聴はライブ音源ではありません。

  1. 6

    6. 夜に駆ける(カバー)

  2. 9

    9. A HAPPY NEW YEAR(カバー)