LIVE REPORT

杏沙子 ライヴレポート

杏沙子 ライヴレポート

【杏沙子 ライヴレポート】 『ASAKO ONEMAN LIVE 2022 「LIFE SHOES LIVE」』 2022年3月21日 at duo MUSIC EXCHANGE

2022年03月21日@

撮影:山本 春花/取材:吉田可奈

2022.03.24

コロナ禍の影響を受け、2年振りとなった有観客のワンマンライヴ『LIFE SHOES LIVE』が3月21日にduo MUSIC EXCHANGEにて開催された。この2年間、より自分と向き合い、曝け出すことに重きを置いた彼女の曲たちは、文字どおり赤裸々で、だからこそ素手で心を掴まれるような感覚を覚える。それらの曲を生演奏で聴ける今回のライヴは本人だけでなく、多くのファンが待ち遠しかったはずだ。

タイトルの“SHOES”にかけて足音のSEから始まり、ギターのイントロから始まると静かに「見る目ないなぁ』がスタート。ゆっくりと、つぶやくようなこの曲で一気に杏沙子の世界観へと没入させたのも束の間、“こんばんは! 杏沙子です!”と大きな声で嬉しそうにフロアーを見回し、“2年振りのワンマンライヴ、2年分の会いたかった気持ちを全部込めて、目を見ながら一曲一曲歌っていこうと思います。最高の夜にするよ!”と一気にテンションを上げて「ジェットコースター」を熱唱。本当に楽しそうに歌う姿がとても印象的だ。そのまま“元カレに捧げます”と言った直後、《ばーか ばーか》というフレーズに思わず笑ってしまうほどキュートな「元カノ宣言」で気持ちを解放させると、みんなが笑顔に。

“八方美人でカッコつけ。ちょっとでも素敵と思われたいから本当の性格を見せられない性格だったけど、それを全部剥がした先にある本当の気持ちを探して作ったアルバム(『LIFE SHOES』)をリリースしました。久しぶりのワンマンだけど、杏沙子ってこういう人間ですって伝えられたらいいなって思います”

そして、「Mirror」へ。青い光を浴びて、“怖がらず感じたままに恋をしたい”と歌う姿はとてもいじらしく、素直だ。さらに、まるで海の底のような照明とイントロの中、歌う「クレンジング」はとても切なく、時に苦しく、音源で聴くのとはまた印象が異なる。これもライヴの魅力だろう。シンセベースの音色が体中に響く「好きって」でも抑えきれない気持ちがこぼれ落ちるように届いてくる、訴えかけてくるような歌声に心が震えた。今にも泣きそうな気持ちと、強さが同居する表現力はさすがだ。

MCではバラエティー番組『あざとくて何が悪いの?』で杏沙子の曲がよく使われていることを話しながら、自分にあざとさがまったくないことを悩んでいることを告白。そんな彼女だからこそできたという「おやすみ」は天邪鬼なところがとても愛おしく、アコギの音色と相まってさらに愛らしさが増し、「女の子にしてよ」では苦しい想いを訴えかけるようにピンのスポットライトで照らされ、ひとり歌う姿が印象深い。一転、「負けたんだ」ではダイナミックなバンドサウンドに包まれながら、主人公が強がったり、悲しんだりと喜怒哀楽を駆け巡っていく。照明も心情の変化と共に変わり、その世界観を彩っていた。

後半戦は「こっちがいい」から。立ち上がって、声の代わりにハンドクラップで場を盛り上げる観客。杏沙子はステージの左右を練り歩き、近くで届けたいという彼女の想いが伝わってくる。シャウトから始まり、フロアーのひとりひとりと目を合わせながら、ファンキーなサウンドに身を揺らしながら歌う「ダンスダンスダンス」は最高の盛り上がりに。ヴォイパに挑戦したあと、力強くシャウトする姿は、まさに曝け出している素の彼女だ。

MCタイムで久しぶりに地元の同級生から連絡があり、「ピスタチオ」の曲を“タピオカ”と言い間違えられたエピソードが伏線となり、その後の「ピスタチオ」ではアドリブで“タピオカ” と入れ込み回収するなど遊び心も満載で、みんなとダンスをしながら会場は一体に。ここで萌え袖になりながら歌う姿、十分あざといと思います!(笑)

“アルバムを作ったことで、自分の気持ちを認めてあげるだけでずいぶん幸せになれるんだなって思いました。自分に嘘をつくのは一番しんどいし、誰にも言えなくても、本当の気持ちは自分だけでも守ってあげたいなと思います”と話して、届けたのは「ともだちに戻るよ」。透明感あふれる歌声で歌い上げ、本編は幕を閉じた。

アンコールでは「天気雨の中の私たち」を歌い、バンドがステージを去ったあと、マイクの前で、今の素直な気持ちを話し始めた。

“この2年間、みんなに会えなくて、おうちで歌ってSNSに投げては、みんなに観てもらってということをして、それはそれで楽しかったけど、みんなが側にいてくれるって思ったけど、正直言うと私がやりたかったのはこれだったのかなって何度も思っていました。焦っていた時期で、もっと大きな景色を見に行きたいなって思っているし、武道館も立ちたいし...。(中略)いいと思っている音楽を届けているつもりなのに目標に近づいて行かないのはなんでだろうと思っていた時期もあって、初めて辞めようと考えました。でも、有観客ライヴをして、本当に2年振りに息を吸った気持ちになって、私は歌が好きだからやっていたんじゃんって気づけたんです。いてくれて、ありがとう”

そう涙ながらに話すと、弾き語りで「ファーストフライト」を披露。コロナ禍になるよりも前である2018年に書かれた曲だが、まるで今の彼女の心境を吐露しているかのようで、聴く者みんなが感動し、スタンディングオベーションで包まれた。

悩み、苦しんだ彼女は、全てを打ち明け、曲にし、今日を迎えた。そして、気づいた、本当の想い。歌への想い。きっと、今の杏沙子はさらに、強くなっている。今後、彼女が生み出す曲が、彼女が歌うライヴは、最高に素敵なものになるだろうと実感させてくれたステージだった。

撮影:山本 春花/取材:吉田可奈

杏沙子

アサコ:1994年4月4日生まれ、鳥取県出身。16年に初のオリジナル曲「道」を発表し、本格的に音楽活動をスタート。インディーズ時代は「道」他全3曲のミュージックビデオを公開。そのYouTube総再生回数は900万回を超える。18年7月にミニアルバム『花火の魔法』にてメジャーデビュー。松本 隆に影響を受けた表現力豊かな詞世界を、超絶キャッチーなメロディーに乗せ織りなす、自作の楽曲が高く評価される。群を抜いたポップセンスと、てらいのないチャーミングな歌声を併せ持つ次世代シンガー。

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