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遥海 ライヴレポート

遥海 ライヴレポート

【遥海 ライヴレポート】 『Harumi "My Heartbeat" 2022 TOUR』 2022年3月21日 at WWW X

2022年03月21日@WWW X

撮影:上飯坂一/取材:東條祥恵

2022.03.31

シンガーの遥海が今年発売したメジャー1stアルバム『My Heartbeat』を掲げて、メジャーデビュー後初となる東名阪ツアー『Harumi "My Heartbeat" 2022 TOUR』を開催した。ここでは、3月21日に東京・SHIBUYA WWWXで行なわれた最終公演の模様をレポートする。

ツアー最終日となる本公演のチケットはソールドアウトし、会場は満員のオーディエンスで埋め尽くされた。舞台を覆う紗幕に映し出されたモノトーンの小さなドットがOpening SE の“オッオッオー”のコーラスに合わせて点滅。その奥でバンドの演奏に合わせて遥海が「ずっと、、、」を歌い出すと、途端に場内にはハッピーな雰囲気が広がる。軽快なサウンドに乗せ、《Forever〜》というフレーズで、パッと幕が落ちると、舞台後方には青空を映した映像が広がった。なんと胸躍る幕開けだろう。

“みんな、一緒に盛り上がっていく準備、できてますか!”

のっけから彼女の元気あふれる姿にはポジティブオーラが満載。曲はアリシア・キーズのカバー「No One」へ。洋楽R&Bのビートを後乗りでとらえ、カッコ良く華やかに歌いこなしていく姿に余裕さえ感じる。日本語、英語、タガログ語を操るトリリンガルで、3歳からゴスペルを始め、歌のオーディションキラーだった彼女のバックボーンが冒頭から見え隠れする。そこからデビュー曲「Pride」へと進んだ。若手フィーメルシンガーの中でもトップクラスに君臨する圧巻の歌唱力が、バラードではさらに浮き彫りになる。低音域から高音域までワイドレンジな歌声を、WWW Xがまるでドームに感じられるほどダイナミックに解き放つのだが、静パートでは途端に落ち着きを生み出し、それらのバランスが1対1の歌になる。歌声で観客ひとりひとりの心の奥底に話しかけ、気持ちを震わせる歌のあり方こそが遥海のすごいところだ。そして、“次の曲はコロナ禍が明けたらやりたいことを想像しながらレコーディングをしました”という紹介に続いて「Be Alright」を歌い上げる。今、海の向こうで起きている戦争に思いを馳せ“昨日より今日、今日より明日が少しでもいい日になってくれたら”と語り、歌った「君のストーリー」は、願いと祈りを感じられる素晴らしいアクトになった。

“次のブロックは3曲英語の曲で、大きなテーマは恋愛です”と観客に話しかける遥海。歌は超プロフェッショナル級だが、話しをする時は友達のような雰囲気と距離感で、ファンとカジュアルに接していくのが彼女のライヴの流儀。ここでは“好きな人がこっちに好意を抱いてくれそうになっても傷つくのが怖いから、逆にキリッとして引いちゃう”と自身の恋愛の悩みを吐露しつつも、茶目っ気たっぷりに“いつかこんな自分を包んでくれる王子様が現れることを祈りながら歌います!”と言って「Don’t Break My Heart」を歌唱。観客のハンズアップを誘い、アゲアゲな空気でフロアーをアツくさせ、続くちょっぴりせつないミドルテンポの「Hearts Don’t Lie」では、サビで手を左右に動かす振りでステージと客席との一体感を作っていく。だが、その直後にピアノバラード「WEAK」が始まると、歌い出しでの表情ひとつで一気に悲しみが胸に広がっていくような空気を会場全体に作ってみせたところも本当にお見事だった。

そして、オーガニックなサウンドアレンジで自身の生い立ちを綴った「スナビキソウ」、続けて「answer」を披露した直後のことだった。“今日はファイナルなので、スペシャルゲストを呼んでいます! 10代の時に知り合って、ライヴでは初共演です。どうぞー!”という呼び込みで舞台に上がってきたのは、ペルピンズ-PeruPines-のRIOSKE。思いもよらない、この日だけのサプライズに場内の観客全員が熱狂。“照れるなぁ。緊張するー!”と、なぜかソワソワが止まらないふたり。そんな中、『My Heartbeat』でコラボした「Dotchi」をアカペラで歌い始めると、ふたりのパワーヴォイスに温度は急上昇する。歌中の男女を演じるように身体の動きを交え、歌でかけ合っていくパフォーマンスに釘づけとなり、観客は誰もが大喜び。ステージもフロアーも笑顔が広がる中、“せっかくのなので、次はディズニーから”と披露された「A Whole New World」(from『アラジン』)のカバーがまたすごかった。ミュージカルを観ているんじゃないかと思うようなダイナミックな歌とパフォーマンスに、ただただ感動するばかり。そのエネルギーを浴びまくった場内には、曲の最後までとてつもない多幸感が広がっていったことが肌で分かった。

さぁ、ここからはライヴもいよいよ大詰め。舞台後方にスクリーンが現れ、MVを背負いながら「声」の歌唱が始まると、さっきまでの幸福ムードは一変。場内は水を打ったように静まり返り、張り詰めた緊張感が広がる。儚さをたずさえた歌い出しが、脳裏に響いてくる。サビに向かっていくこの曲のメロディーは音域を動きまくるため、ワイドレンジな歌声が必要とされる。遥海は己の歌唱力に任せ、感覚で歌っているわけではない。歌の中での彼女はいわば船長。彼女の“熱唱”と言われるものは、繊細なテクニックを使って自身の歌を抑制しながら歌詞、メロディーの展開にそぐうよう緻密にスケッチした歌の上に成り立っているものなのだ。熱唱を作っている集中力の奥には、常に冷静さを保っている自分がいる。だからこそ、どんなに圧倒的な歌を歌おうが、彼女の熱唱は奥行きがすごくあって、ピンポイントで人の心を震わせることができるのだと、この曲の歌唱を聴いて改めて実感した。

こうして、この日のハイライトとなるようなバラードを披露したあとは“3年振りのツアー、遊びたいと思います!”と言って、彼女の家にあったというルーパー(音を録音し、ループ再生することができる機材)を取り出す。試しで自身がジングルを担当する『ソニー損保』のフレーズを録音し、即興で次々と声を重ねながら観客へ機材の説明をするなど、お茶目な一面も見せつつバンドと楽しくセッションを繰り広げた。そして、緊張しながらも改めてクラップ音や声をルーバーに録音していき、ループさせた音も駆使して「Bang Bang」からの「DANCE DANCE DANCE!」で場内の盛り上がりを加速させていく。そのままグルービーなファンクチューン「Don’t want your love」を楽しく歌い、踊って本編は締め括られた。

アンコールでは自身が声優にも初挑戦したTVアニメ『BABY-HAMITANG』 の主題歌「LUCKY」のMVが舞台のスクリーンに映し出される。映像が終わり、再度舞台に上がった遥海は“次はいつワンマンライヴができるか分からないけど、ちゃんと成長して、いい歌が歌えるようになるから、その時はみんな会いに来てください”と伝えた上で、無事にこうしてツアーが完走できたことについて、観客、スタッフに感謝の思いを述べた。“ここにいるひとりひとりに私の愛を届けるから、キャッチしてほしい”と想いを込めて最後に「Two of Us」を歌い出すと、背景には映像が映し出された。冒頭でモノトーンだったドットがカラフルな色で輝き出し、それが最後には美しく咲いた花になるという演出で、みんなに愛の花束をプレゼント。ライヴはハッピーな空気感に包まれる中で幕を閉じた。

ライヴ終了後にはアルバム収録曲「Don’t want your love」のMVがYouTubeにて公開され、このMVでは自身初の試みとしてダンスシーンに挑戦。ライヴ後もファンの度肝をぬいた遥海。Z世代を牽引するシンガーからエンターテイナーへ。きっと、彼女はまだまだ羽ばたいていく――。

撮影:上飯坂一/取材:東條祥恵

遥海

ハルミ:日本とフィリピンでの生活で培った音楽的バックグラウンドと、喜怒哀楽の豊かな感情を声に乗せ、日本語、英語を使ってハイブリッドに表現するシンガー。世界的オーディション番組の日本版『X FACTOR OKINAWA JAPAN』にチャレンジして注目を集め、表現力の高さを評価される。その後、さまざまなオーディションで結果を残し、2019年には自身初の東名阪ワンマンラヴブツアーを開催。配信限定EP『MAKE A DIFFERENCE EP』、CD「CLARITY」をリリースし、20年5月にシングル「Pride」でメジャーデビューを果たす。同年2作の配信シングルを発表、21年に入り配信EPを1作、配信シングルを3カ月連続で発表。そして、11月にその3作を収めたCDシングル「声」をリリースする。

SET LIST 曲名をクリックすると歌詞が表示されます。試聴はライブ音源ではありません。

  1. 1

    ~Opening SE~

  2. 3

    02. No One(Alicia Keys カバー)

  3. 10

    09. スナギキソウ

  4. 12

    11. Dotchi

  5. 13

    12. A Whole New World(カバー)

  6. 15

    14. ソニー損保

  7. 16

    ~Bang Bang(Jessie J, Ariana Grande, Nicki Minaj カバー)

  8. 17

    ~Introduction Of Dance Dance Dance!

  9. 20

    <ENCORE>