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ゆいにしお ライヴレポート

ゆいにしお ライヴレポート

【ゆいにしお ライヴレポート】 『ゆいにしお Major 1st Album 『tasty city』Release Oneman Tour "tasty sound"』 2022年11月25日 at 渋谷WWW

2022年11月25日@渋谷WWW

撮影:ひの/取材:東條祥恵

2022.12.05

ゆいにしおがメジャー1stアルバム『tasty city』のリリースを記念して全国3カ所を巡るワンマンツアーを開催。その最終公演を11月25日、東京・渋谷WWWにて行なった。バンドによる生演奏のほか、本人によるピアノ、ギターの弾き語りなど、ゆいにしおの“tasty”な楽曲をさまざまなスタイルでたっぷりと観客にサーブしていったこの公演のレポートをお届けする。

場内に入ると、この日の前菜は普段はあまり触れることのない韓国のシティポップまでをも盛り込んだBGM。週末金曜日、TOKYOの渋谷。仕事からやっと抜け出し、ドリンクを片手にこのスタイリッシュすぎないBGMでメインディッシュに向けて、身体と耳の準備を整えたところで場内は暗転。舞台後方にHiromu(Key)、藪本裕人(Ba)、前方に大月文太(Gu)、岡田真帆(Dr)という顔ぶれのサポートメンバーがスタンバイ。最後にゆいにしおが登場すると場内には拍手が沸き起こった。エレキを持ってセンターに立ち、ビッグシルエットのニットの袖を肘までまくりあげ、金髪に染めたボブスタイルの髪の毛を両耳にギュッとかける。この一連の動作を儀式のように終え、軽快なギターのカッティングからライヴは「tasty tasks」で幕開け。会場がある“渋谷”を歌い込んだ曲を今、リアルに渋谷で聴いているというシチュエーションが、自然と高揚感を誘う。そんなフロアーに向かって“お手を拝借”と溌剌とした声で呼びかけた彼女は、頭上に両手を伸ばし、クラップで会場をまとめ上げ、テンポ良く次の「Drink, Pray, Love!」をドロップ。ツアーファイナルだけあって、ライヴはなんとも心地良い滑り出し。

“最後まで楽しんで、美味しいものを食べたなぁという気分で帰っていただけたらと思います”

そう会場に呼びかけたあと、「スパイスガール」へ。ファッショナブルなコード感が印象的なこの曲は、ライヴでは“有給”“休憩”と歌うところで思いきりパンパンと腕を振り上げ、最後は“スパイスガール”とアツく歌い上げるというアグレッシブなアレンジでパフォーマンス。酸いも甘いも、いろんなスパイスがあってこその人生。お洒落なシティポップスに、リアルライフを歌い込むのが彼女の信条。続く「Life Driving Club」はベースがリードするグルーブに合わせて上半身を左右に揺らしながら、自分探しの旅へ。徐々に暗くなってきた照明が夜を呼び込み始まった「Rough Driver」では、ゆいにしおはギターをハンドマイクに持ち替え、“幸せそうな顔にイラついてしまうよ”の1フレーズで、苦みたっぷりのスパイスをこの曲に入れ込む。そうして、最後はせつなげな歌声でエモーショナルなフェイクを入れ、心のブレーキが踏めない自分への苛立ちを声で表現し、観客の胸を締めつけていった。

こうして感動的な空気を作っておきながら、“スタッフさんすいませ〜ん。セットリスト持ってくるの忘れちゃいました”と言って、1曲目でそのことに気づき“焦った〜”と友達に話すように観客に打ち明けるゆいにしお。“ヘマしました!”と笑い飛ばしていたところにセットリストが届き、本人はひと安心。ステージではこんなチャーミングなところも全て見せてしまう。この思わぬハプニングで場内の空気がほんわり和んだところで、次は弾き語りのコーナーへ。

まずは、アルバムの中でもこの曲は意図的に食べ物を歌詞に入れなかったこと。ブランクがあったピアノを手が血みどろになるぐらい練習したことを観客に伝えたあと、「パレード」を披露。張らない声、息を多めにふわりふわりと観客ひとりずつに独白するように歌うこの曲には、フリーテンポで弾くピアノがぴったり。その相乗効果で、さらにこの曲を体内にディープに染み込ませていき、さらにバラード曲「小夜なら花折り」を続ける。帰ってこない“あなた”を待って、苦さも憎しみも苦しさもドロドロに混ざり合った心情。その間に作っていたのが“スパゲティ”と、ここにも彼女がきっちりと食べ物を歌い込んでいたという発見で、同曲の新たな魅力に触れさせたあとは、ピアノをギターにチェンジ。軽やかなカッティング、コード展開とは裏腹な不倫をテーマに、甘さとパンチのある激辛スパイスの隠し味を効かせた絶妙なワードで綴った「チートデイ」を、なんともさわやかに歌い上げてみせたのだ。

恋愛が引き起こすスパイシーな空気の余韻が残る中、再びバンドサウンドで「マスカラ」へと展開。ウォータープルーフのマスカラ、形状記憶のワイシャツというアイテムで夏のほろ苦い恋愛の記憶を呼び起こしていったあとは、そこから「sun shade」へ。ボトルネック奏法を使ったギターの音色が、通り過ぎ去っていく夏と君をサウンドでたっぷり描き出す。そして、歌始まりで「suitcase」がスタートすると、切ないムードは一転。バンドメンバーが率先してクラップをしながらフロアーを盛り上げ、観客たちもリズムに合わせて身体を揺らし、歌詞に歌い込まれた“ブギーバック”気分を満喫。その盛り上がりをメンバー紹介につないで、そのまま「ウェイトレス」へとなだれ込んだ。

そうして、ライヴはメジャーデビュー曲「CITY LIFE」から終盤戦へ突入。“今日はみんなが主役。盛り上がっていきましょう!”というゆいにしおの声を合図に「スポットライト」では手拍子が広がり、場内に熱気が立ち上がると、彼女が嬉々としてフロントに飛び出してきた。サビパートの手を左右に振るハンドウェーブがキマったところで「ワンダーランドはすぐそばに」を歌唱すると、クラップの音が高鳴り、会場は熱い空気に包まれひとつになっていった。

このあとのMCで、メジャーデビューまでの期間は“お客さん0人の前で歌ったり、曲がかけなかったり...甘い思い出よりもつらい思い出のほうが多かった”と振り返りながらも、 “この曲、いいね”という言葉に励まされてここまで走ってこられたことを告げた彼女。そうして“人生の嬉しい瞬間、つらい瞬間、ゆいにしおの音楽があれば生きていけるような存在になりたいので、今後もみんなの生活に寄り添った曲を作ります”と堂々と宣言し、「mid-20s」の”ひとりに生きることに疲れたらそこに呼んで“のところを観客一人ひとり指差しながら丁寧に届けて本編を締め括った。

アンコールでは新曲「セルフハグ・ビッグラヴ」がテレビ東京・BSテレ東にて1月から放送するTVアニメ『英雄王、部を極めるために転生す〜そして、世界最強の見習い騎士♀〜』のエンディングテーマに決定したこと、この曲を2023年1月11日に配信シングルとしてリリースすることをサプライズ発表。メジャーデビュー、アニメのタイアップと次々と夢を現実にしていくゆいにしおから、今後も目が離せない。

撮影:ひの/取材:東條祥恵

ゆいにしお

ユイニシオ:透明感の中にも深みのある声と、心地良いメロディーが持ち味のシンガーソングライター。2016年から愛知県にて弾き語りで活動をスタート。18年に開催された日本コロムビア主催『半熟オーディション supported by Eggs』でグランプリを獲得。2021年10月にTVアニメ『真の仲間じゃないと勇者のパーティーを追い出されたので、辺境でスローライフすることにしました』のオープニングテーマに「息を吸う ここで吸う 生きてく」が起用された。22年10月にメジャー1stフルアルバム『tasty city』をリリースする。

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