妖かし千夜一夜

「此の路や一体何所々々まで歩けば良いの」と呟けば
「延々続きまするぞな」と――は、何方彼方の答やらな…

小さな行灯 片手に歩めば 「進むが好しや」と嗤い

揺・凛・弄(ゆらりんろう)と、さも蜻蛉と背中を圧す闇蟲が声
幾度と響く風の唄は敵か味方か、嗚呼果たして…

深々月夜を 背負う何者か 「戻るは無しや」と嗤う

性悪共に誘われて、迷い込み踏み込んだは
誰も知らぬ妖かしの土地、生きて還りたいならば
さあさ御出で、未だ抜けた者の居ない、此の森へ…

触・夜・離(ざわりよろり)と、蠢く其れは正に人で無しものの声
何処かにて啼いた梟の、決して月如し眼に非ず…

お天道様さえ 見抜けぬ悪鬼の まこと無残な思惑

物の怪らよ贄は揃うた、闇色を纏いて、さあ
誰も居らぬ妖かしの街、子供らの白き御魂
さあさ連れて、逝くが良いよ、魑魅(すだま)の花一匁(はないちもんめ)…

――蝋燭吹消し げに悍(おぞま)しき 奇談に幕を下ろせば

怨みつらみを語り尽くす 禍々しき戯(あそ)びにて
「百にはまだまだ足らぬぞ」と 囁く嗄れ声が
君や私でない、としたならば、何ぞの物やらな…
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