千代さんの日記

某月某日草むしりをした
某月某日草むしりをした
某月某日草むしりをした
某月某日草むしりをした
晩年の千代さんの日記
大学ノートにびっしり

千代さんは頼りになる女
千代さんは小柄な女
千代さんは淡々とした女
そうさ 千代さんは明治生まれの女

千代さんは七人の子を生み育てた
そして夫の二十数回目の命日に
花馬車に乗った 花馬車に乗った
里に花びらが 里に花びらが舞う

(セリフ)
へぇ この味噌漬けちっともうまくねえんだ

まぁ あそこんとこのじいさんも下んとこのばあさんも
すっかり馬鹿になっちまって

なんだヨシト おめぇは
おらにもうすぐお迎えが来るからって
そうやってわざわざしょっちゅう東京から会いに来んのか

この子はだんだんユズコに似て来たな

枝豆持ってけ
もろこし持ってけ
夕顔持ってけ
あれ りんごジュース持たせてやれ
蜂蜜持たせてやれ
梅漬け持ってくかや?

小っちゃめの千代さんの瞳
強く柔らかい光

千代さんは七人の子を生み育てた
そして夫の二十数回目の命日に
天へと走る 花馬車に乗った
それは偶然か わざとだったのか
誰にもわからない

花馬車はぐんぐん進む
千代さんはまっすぐ前を見てる
懐かしい人が近付く
ああ あの子もいる
いつしか千代さんの腰は伸び
黒髪は風になびき
里は遠くなる 慣れ親しんだ里
でも千代さんは振り向かない

99年 女の一生
99年 女の一生
99年
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