船宿

逃げておくれよ あたしを連れて
この世の果ての 浄土(じょうど)まで
ふたり浮草 高瀬川(たかせがわ)
人目忍んだ 船宿に
都忘れの しぐれ雨

噛(か)んでおくれよ あたしの耳を
紅葉(もみじ)の色に 染まるまで
夢をほどけば 友禅(ゆうぜん)が
床に乱れる 絹の波
都忘れの しぐれ雨

抱いておくれよ あたしの乳房(ちぶさ)
命がやせて 折れるほど
添えぬ運命が 無情(むじょう)なら
あすはいらない 渡し舟
都忘れの しぐれ雨
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