春の舞妓

十六の
胸の痛みは 加茂川の
蓬の香より 来るという
人の話に つまされました
春は羞かし 京舞妓

「丘の上の校舎よ、左様なら。
なつかしい制服を脱ぎ、クラスメートに
別れて、あたしはとうとう舞妓になった。
あけて十六。ああ、あたしの胸にも、
そして加茂の河原にも……人の世の春は、
訪れて来たんだわ。」

顔見世の
のぼりはためく 雪の朝
訣れの小指 ちぎりしを
思い出しては 泣きぬれました
遠い儚ない 人の影

「あの方の事は、もう忘れましょう。
考えていると、堪らなくなって来る
どうせあたしは、人のおもちゃの京人形。
恋など出来る身分じゃないわ……」

十六の
春が来るのに 匂うのに
八坂の鳩と たわむれて
夢はかいなく 棄てさりました
朱いおこぼの 京人形
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