残心

ピンと張り詰めた空気 人影もない道場
先輩は今日も 的を目掛け矢を放つ
遠く見据えてる瞳 凛と構えてる仕草
楽器のように弦音(つるね)が響くだけ

明日(あす)に迫った 最後の大会
しゃんと伸びた その背中
この目に 心に 焼きつけていた

入部した頃は 体育館の裏で
泣いてるところを励まされました
心動じるな どっしり構えてろ
すぐに諦めブレるのはいつも自分
そうさ狙ってる的は絶対動かない

調子の方はどうだ? 心配事はないか?
先輩は人に優しく己に厳しい
一緒に過ごせる時は あと僅かしかないから
悔いのないように貪欲に学びたい

憧れていた その生き方に
あんな風に 後輩が
憧れるような私になりたい

初めての試合 我を忘れてた
熱い言葉にこの目が覚めました
人は気にするな 君は君でいろ
力ではなく心で矢を放て
いつか思い切りど真ん中を射抜きたい

引退をかけた 運命の一射(いっしゃ)
何も気負わぬ先輩に惚れました
心動じるな どっしり構えてろ
あの日の声が心へと突き刺さる

的に中(あた)っても視線は絶対そらさずに
次を見据える心が「残心(ざんしん)」だと教えてくれた
その優しさも 厳しさも 永遠(とわ)に残し続けます
この私の 心の中に

全て教えてくれた先輩...
「本当に今まで」
ありがとう
嗚呼... 嗚呼...
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